その好きは隠しておいてね


 目を覚ました時、どこからかスズメの鳴き声がした。
 史苑はいなくて自分一人だった。

「あっ」

 点呼! と焦って飛び起きる。
 時間を見ると、まだ、点呼の時間まで余裕があった。慌てて部屋を飛び出す。
 こんなに余裕のない事なんて、経験したことがない。
 何が起きている?
 光希は焦った。
 パジャマ姿のまま、廊下へ行くとまだ誰もいなかった。
 今日は何日なのだろう。
 まだ、ゴールデンウイーク期間中だろうか。
 そわそわしながら廊下にいると、生徒たちが現れ始めた。それを見て光希はホッとする。とりあえず点呼には間に合った。
 部屋に戻り、椅子に腰かけた。
 息を吐きだすが、体が重たい。
 泣きそうな気持ちになった。
 机に肘をついて額を押さえた。
 辛い。生きているのが辛い。
 何だ、これ。
 何が起きている?
 胸騒ぎがして、心臓がざわざわしていた。
 息が苦しくて、悶えたいような気持ちになる。
 そわそわしながら部屋の中を行ったり来たりした。

「先輩……、助けて……」

 思わず呟いていた。
 落ち着かずその場にしゃがみ込んで頭を押さえた。
 考えることができない。
 深呼吸しようとしたが、息が詰まって唾を飲むのもできない。
 とりあえず、スマホで日付の確認をしようと思った。
 立ち上がり机に置いてあると思われるスマホを探した。

「あった」

 スマホを開いて日付の確認をした。
 ゴールデンウイーク最終日だ。
 よかった。まだ、休みは一日ある。
 ホッとして史苑に会いに行こうと思った。
 お腹は全然減っていない。
 喉が渇いているような気がしたが、それどころじゃなかった。気が急いて仕方がない。
 部屋を飛び出して二階へ行った。
 コンコンと史苑の部屋をノックしたが、誰も出て来なかった。
 朝食へ行ったのかもしれない。
 光希はここで待っていようと思い、ドアの外にしゃがみ込んだ。
 何か大事なことを忘れている気がする。
 たまらない気持ちになると立ち上がり食堂へ向かった。
 食堂には昨日よりも多くの生徒たちがいて、増えているような気がした。
 その中に、怜と史苑、そしてもう一人誰かがいて、食事をしている姿を発見した。

「先輩っ」

 光希がそのまま駆け寄ると、史苑が驚いた顔をしてそれから椅子を立った。

「どうしたの、そんなに焦って」
「いえ……。あれ、なんでだろ……」
「お腹空いたろ。夕べも食べていないし。俺が取ってきてあげるから、ここに座って待っていなさい」

 史苑が言って、光希を椅子に座らせると食事を取りに行ってしまった。
 史苑が行ってしまい、さらに不安な気持ちになった。怜の隣にいる生徒が自分を見た。

「光希くん、おはよう」
「日野。おはよう。怜先輩もおはようございます」
「おはよう。顔色がかなり悪いようだけど、どこか悪いんじゃない?」
「そんなことないですよ」

 光希は笑ったが、うまく笑えなかった。
 どうしてここに日野がいるのだろう。
 日野の視線が痛い。
 史苑がすぐに戻ってきて光希の前に食事を置いた。
 ご飯とみそ汁に、玉子焼きにソーセージとポテトサラダという定番の朝食だ。

「先輩、ありがとうございます」
「うん、お食べ」

 頂きますと手を合わせて箸を取ろうとしたが、手が冷たくてうまく取れなかった。史苑が光希の両手を取った。

「冷たいよ。氷みたいだ」
「変ですね。体は何ともないんだけど」
「どれ?」

 史苑が顔を近づけて自分の額と光希の額をくっ付けた。

「せ、先輩っ」

 そんな事しても分かるはずがないのに。
 突然顔を近づけてくるのでキスをされるのかと勘違いしそうになった。
 それでもなぜか体は冷えていく。
 光希はたまらなくて泣きそうな気持ちになった。
 体が変だ。
 おかしい。

「光希?」
「……はい」

 泣きそうになっていると、史苑が光希の目じりの涙を指でふき取ってくれた。

「泣いてるの? 昨日何かあった?」
「藤崎くんは昨日、前田くんと会ったんだよね」
「……へ?」

 日野が突然声を出したので、光希はそちらを見た。
 なぜ、彼は前田が来たことを知ってるのだろう。

「寮でうわさになっていたよ。だって、あの前田のご両親が来ていたんだろ。当然、寮長なら前田に会っていると考えてもおかしくないもの」

 そうだろうか。
 でも確かに前田の荷物を残っている寮生たちと運んだから、家族が来ていたことは知られているはずだ。
 日野のおかげで、史苑と怜に言わなきゃいけないことを思い出した。
 光希はちらりと日野を見た。しかし、彼がいてはその話ができない。
 日野はニコニコしながら自分を見ている。
 そういえば、なぜ、彼はここにいるのだろう。

「日野は珍しいよね。どうしてここで一緒に食べているの?」
「え? あ、それはね。怜先輩たちが僕に声をかけてくれたからだよ」
「怜先輩が?」

 怜は、日野の隣でお茶を飲みながら頷いた。

「うん。だって、スマホの持ち主が特定できたからね。話しかけるのは当然でしょ」
「……え?」

 その場にいる全員が怜を見た。
 日野も目を丸くしている。