例のスマホで自撮りをしていた少年は、光希と同じ二年生だった。
小遣い稼ぎのために自分の写真をある人物に渡していたと白状したが、その人物が誰なのかは絶対に言わなかった。
少年はもう二度としないと約束したが、その理由は、このスマホには霊が取り憑いていて、いつでも出てくるよ、と脅したからだと思われる。
ハギモリマリアが出てきたタイミングは、廊下の電気が消えてから後だった事も分かった。
スマホの近くにいることしかできないのか。前に遭遇した時、どうして彼女は廊下を徘徊していたのか。それらの理由は全く分からない。
光希からすると、ハギモリマリアはただ、連絡手段を取るためにスマホにこだわっているだけのような気がした。
ハギモリマリアは霊体では声が出せないようだったが、スマホのメールだとどうやら可能らしい。声が出せずにもがいていた姿が痛々しく、姿形も亡くなった時の状態と思われた。
そこまで考えて光希は身震いすると浴室から出た。
史苑と怜たちと話し合いをした後、光希は一人でお風呂に入りに来た。生徒はまばらだったが、一人ではなかったのでホッとする。
脱衣所で体を拭いていると、後ろから声をかけられた。
別棟の二年生、日野だった。
「やあ、藤崎くん」
「こんばんは」
日野は洋服を着ていて今、来たところのようだった。
「もう出るの?」
「うん」
光希は体を拭き終わると下着を身に着けるとパジャマを着た。
同性といえどあんまり裸を見られるのは慣れないものだ。日野は洋服を脱いでしまうとじゃあ、また夜に、と言って浴室へ入って行った。
光希は髪を乾かしながら、再び、スマホの事をぼんやりと考え始めた。
ハギモリマリアと繋がっているスマホからは彼女の言った通り、光希の画像がたくさん出てきた。画像の九割が光希だったが、他の少年たちの写真も少しあった。
それを見た史苑が、光希は見ない方がいいと言ってくれたが、どこの角度から撮られているか知りたくて見せてもらった。
写真は自分の顔ばかりで、無防備な自分がたくさん撮られていて愕然とした。
幸いにも肌の露出のある写真はなかったが、怜がボソッと言った言葉に戦慄せざるを得なかった。
誰もがスマホやパソコンを持っている時代なので、加工修正して生成AIでどうとでもできる。
あんな写真一枚で売買ができるとは思えないが、踏み入ってはならない領域なのかもしれない。
ドライヤーを置いて風呂場から出るとそのまま部屋に戻った。
いつものようにタオルを乾かしてから、椅子に座る。
史苑が部屋に来てくれると言っていたので、ゆっくりと話ができると思うと嬉しい気持ちと恥ずかしい思いが込み上げてきた。
どうしようか。以前よりもっと史苑の事が好きになってしまっている。
その時、コンコンとノックの音がして、光希は飛び上がりそうなほど驚いた。
「は、はい」
ドアを開けに行くと、史苑が立っていた。パジャマを着ているからお風呂も済ませたのだろう。
「ど、どうぞ」
緊張して言うと、史苑がいつものように入って来てベッドに座った。今までと同じはずなのに。お互いの気持ちが通じ合っただけで、こんなにも自分の態度が変わってしまうなんて思わなかった。
「光希、隣においでよ」
史苑にはあまり変わった様子はない。自分ばかりが緊張して息が苦しい。
光希はぎくしゃくと隣に座った。
「光希」
「は、はい」
「意識しすぎだよ」
コツンと額を人さし指で弾かれる。笑っている史苑を見て、少しだけリラックスできた。肩の力を抜いて顔を見つめる。
「先輩、今日はありがとうございました」
「うん。甲斐がいないとさみしいね」
「甲斐には悪いけど、先輩がいてくれるのでいいです」
光希が素直に気持ちを言うと、史苑が腕を伸ばして光希の肩を自分の方へ引き寄せた。肩口に頭を乗せる形になってドキドキした。
「朝から忙しかったけど、スマホの持ち主が見つからなかったことが悔しいよ」
「はい……」
その後、自撮りをしていた少年はこんなスマホは持っていたくない、と言い、怜がスマホを預かることになった。
画像を削除するのは簡単だが、スマホはただの機械だ。新しいスマホを購入すればいいだけの事で、悪だくみをやめさせることはできなかった。
見たところスマホには画像だけで、それを利用した販売方法が分からない。
しかし、このスマホにはSIMカードが入っていた。電話登録されているので、このスマホを利用しているのは間違いなさそうだった。スマホを使用している人物、ここからは犯人と呼ぶが、犯人は、日常で使っているものと犯罪行為に使用しているスマホと使い分けをしているのだろう。
「気味が悪いかもしれないけど、あの二年生が犯人からスマホを預かったということは、今この寮にいる生徒で間違いない。だから、光希も気を付けて」
「はい」
今残っている生徒の誰かが犯人なのだ。
「先輩、俺たちがあのスマホを持っていることに気づいたら、何か動きがあると思いますか?」
「そうだね……。ショウゴのようにトイレを平気で壊すタイプでなければいいんだけど……。やっぱり気になるな」
「はい。怜先輩、大丈夫かな」

