その好きは隠しておいてね


 夕食は一緒に食べようと約束をして史苑と分かれた。
 部屋の鍵を開けて中へ入る。静まり返った部屋に一人だった。
 元気な甲斐がいないとさみしい気持ちになる。しかし、気を取り直すとトートバッグを置いて勉強しようかなと思ったが、ベッドに座って寝転んだ。
 天井を見上げる。
 家族の事を人に打ち明けたのは初めてだった。
 気にかけてもらったこともなかったし、中学から寮に入っていろんな学生たちを見ながら、自分と同じような境遇の子はいるだろうかと思ったこともある。家に帰られないとか帰りたくないとか様々な学生がいることを知った。
 史苑の家族は仲がよさそうだと思う。
 光希は横を向いて、卒業後の事を想像した。しかし、何も想像できなかった。
 横を向いたままウトウトして少しだけ眠ってしまった。

 それから何分くらい寝たのか、パッと目が覚めた。史苑と約束した時間を思い出し急いで確認する。
 深く眠っていたようで、待ち合わせした時間近くになっていた。部屋の戸締りをして廊下に出た。時間に間に合い、そのまま三人は食堂へと向かった。
 光希が玄関前を通ろうとすると、寮父室前に置かれている固定電話が鳴り出した。

「あ、俺が」

 光希が電話を取った。かけてきた相手の名前を聞いて驚いた。怜と史苑は先に行っているね、と食堂の方へ向かった。
 光希は頷いて電話の相手の話に集中した。

「はい、大丈夫です。明日の午前中ですね。鍵を用意して待っています。はい。ありがとうございました」

 電話を切って光希は受話器を置くとほうっと息が漏れた。
 電話をかけてきた相手は前田和明の母親だった。荷物を部屋に置いたままにしていたので、ゴールデンウイーク中にすべて持って帰るとのことだった。
 最近電話が鳴っていたのは、前田の家族からの電話だったのかと電話を取って合点がいった。寮父に伝えようと思うが、この時間は食堂で手伝いでもしているのだろう。食堂に入ると寮父がいたので電話の件を伝えた。寮父は分かったと答えた。
 それからトレーに食事を乗せて史苑たちを探した。史苑たちはゆっくりと食事をしていた。

「お待たせしました」
「誰からの電話だったのか聞いてもいい?」
「はい。前田の家族からでした。まだ荷物を置いていたそうで、明日、取りに来るそうです」
「そうだったんだね」

 史苑は深く言わなかった。自殺未遂は先月の頭に起きたことだ。まだ一か月も経ってもいない。前田の人生は大きく変わってしまっただろうが、日常は流れていく。

「ハギモリマリアさんは大人しいけど、迷子にでもなったのかな」

 怜が全く違う話題をし始めた。

「迷子って……幽霊が迷子になったりするんですか?」
「霊道が繋がっていたら、もしかしたら別のところに移動しているかもしれないけど、彼女が使っている霊道が壊れているんだろ? 寮の中を彷徨っている可能性があるよね。一度、彼女と話をしてみたいな」

 怜が物騒なことを言う。メールのチェックはしていなかったが、何もなかったと思う。

「光希くん、後で部屋に来てよ。もう一度、彼女と連絡を取りたいんだ」

 怜がさらりと言う。史苑もそうだなと頷いた。

「スマホの人物が特定できていないから、やっぱりハギモリマリアとの接触は避けられないな」

 光希は、観に行ったホラー映画のことを思い出して、ぞくりとした。幽霊に取り憑かれておかしくなった仲間が、一緒にキャンプに行った仲間たちを滅多刺しに殺そうとして、みんなが協力して逃げ回る話だったが、ホラー映画は心臓に悪い。

「あの……」
「ん?」

 史苑が優しくこちらを見る。光希は言いそうになった言葉を飲み込んだ。

「えっと、何でもないです」
「えっ、言いかけてそれはないよ」

 史苑が光希に詰め寄る。

「なんでも言ってくれって昼間に話したばかりだろ」
「あ、はい……」

 今夜から一人なので怖いんです……なんて言いにくい。

「あの、後で先輩にだけこっそり伝えてもいいですか?」

 光希の言葉に史苑は嬉しそうに頷くと、聞いていた怜が目をぱちぱちさせた。

「ああ、そういう事か。僕はかまわないよ」
「怜先輩、俺は何も言ってないですけど」
「今日の光希くんの様子を見て察するところ、一人じゃ……」
「ああああああ」

 怜の言葉を光希が慌てて遮った。史苑が見て笑っている。

「いいよ。今日は俺が光希の部屋に行くね」
「あの、それじゃあダメです。二人きりになってしまうので」
「え? 二人きりだとまずいの?」

 怜が本気か冗談か分からない顔で言った。

「俺はどっちでもかまわないよ」

 史苑はにっこりしている。光希は赤くなってうつむいた。

「俺もどっちでもいいです……」

 そう言いながら、自分は怖いんだか怖くないのか、分からなくなりそうだった。

「ごちそうさま」

 怜が両手を合わせて言った。