映画を観終えて、光希はぐったりとシートに埋もれていた。スマホの電源を入れるのも忘れるくらい怖かった。
「光希、大丈夫か?」
「だい、大丈夫です……」
怜が立ち上がったので光希も立ち上がる。先に史苑が歩き始めた後を追ったが、いささか自分の足がふらついているような気がした。
映画の間、何回目を閉じたか。顔を背けそうになったり手に汗握る場面があったり、主人公の年齢が自分と近かったのも共感しやすかったのかもしれない。
「怖かったねー」
怜が満足そうに言った。ホラー映画なのだから怖くないといけないのだろうが、自分には怖すぎた。
「だから言ったろ。怜はかなりの数のホラー映画を観ているから」
映画は作られた怖さかもしれないが、確かに怜にとって寮で起きている幽霊騒ぎなど怖い部類には入らないかもしれない。
「ご飯食べに行こうよ。映画の感想が聞きたい」
怜が楽しそうに言うと、史苑は笑いながら光希にも笑いかけた。
「行こう」
怜がパスタを食べたいというので、イタリアンのお店に入った。映画が終わった時間が11時過ぎだったのでお客さんが少なくて空いていた。メニューを選んで映画の話になる。
怜がとても嬉しそうで怖かったけれど、観に来てよかったと思った。久しぶりにパスタを食べると怜が先に帰ってるねと言い出した。
史苑がこの後もどうかと誘ったが、怜は首を振った。
「いいよ。映画を観て満足したよ。この余韻を残しておきたいから帰る。二人でゆっくり楽しんでおいでよ」
本気なのか遠慮なのか分からないことを言って、一人でさっさと帰ってしまった。
急に二人きりになって、身構えていなかったのでドキドキしてしまった。夜一緒の布団で寝ていたとは思えないくらい緊張した。
「カフェとか行く? それとも何か買いたいものでもある?」
「あ、特にはないです」
光希は少し硬い口調で答えた。
「俺、靴を見たいんだ」
史苑が言ってシューズ専門店に行きたいと言った。光希は、自分たちも帰ろうかと言われなくて、ホッとしながら史苑について行った。
ランニングシューズが欲しいと史苑はブランドのシューズをいくつか履いて鏡を見るとすぐに決めた。光希も悩まないタイプなので、自分と似ているなと少し思った。
「ここから学校側に向かって歩くと小さい公園があるの知ってる?」
「え?」
「地図で調べたんだ。行ってみる?」
「はい」
コンビニでペットボトルのコーヒーを買って、いつもとは違うルートで学校側の方へ向かった。光希にはこの間、飲み干したからそのお詫びにとフルーツジュースをおごってもらった。
史苑が案内してくれた公園はゴールデンウイークだからかもしれないが、親子連れと子どもたちがいた。
公園内に屋根付きのベンチがあり、椅子が空いていた。二人が座った時は子どもたちのはしゃぐ声があったが、ちょうど正午になったせいか、親子連れも帰って行き二人だけになった。
静かになった公園にそよそよと心地いい風が吹いた。藤の花が見ごろで薄紫の花びらが数枚舞っていた。
「気持ちいいですね」
「うん」
史苑がペットボトルの蓋を開けてごくごくと飲んだ。
「光希ともっといろいろな場所に行けばよかったな」
史苑が遠くを見て呟いた。光希はその横顔を見つめながら、自分がもっと早くに勇気を出していれば、と思った瞬間、タラレバ話を思うならば、前向きにとらえて史苑と同じ学校へ行くという目標を持った方が身になると思った。
「俺、先輩とこれから先ずっと一緒にいたいです。そう思うと勉強も楽しめるような気がしてきたんです」
「光希はいい子だなあ」
史苑がニコッと笑って頭を撫でた。
「今なら、ゴールデンウイーク帰省しなかった理由を教えてくれる? 俺の話もするから、光希の事をもっと知りたいんだ」
光希は口を結んだが、小さく頷いた。
「はい……」
少しだけ沈んだ顔になって下を向いた。それを見て史苑が言った。
「じゃあ、俺から話すよ。俺は三人兄姉がいるんだ。俺は一番下」
「先輩が一番下なんですか?」
「うん。兄は社会人で姉は大学生だよ」
「えー」
史苑が優しくて余裕があるのは、兄姉がいるせいだったのか。
「俺は一人です。なんでも新しい物とか買ってもらえたけど……」
家の事を話すのは苦手だった。仲のいい家族などの話を聞くと委縮してしまう。両親はいるが、家族の仲がいいかどうかは分からなかった。

