朝の点呼に朝食も済ませ、帰る支度ができると、甲斐はお土産買ってくるな、と元気よく寮を出て行った。
みんな家に帰るのが嬉しいようだった。
見送るばかりの光希だが、今日は朝からワクワクしていた。
怜も一緒だが、史苑と出かけるのだ。
しかも出かけるのは初めてだった。考えてみると二人だけで出かけたことがない。よく不審がられなかったな、と思う。
何を着ようかと悩む。春先なのであまりに涼しい恰好だと寒いし、かといって厚着だと汗をかきそうな時期だった。
光希はすっきりしたデニムパンツに白いシャツの上からフードのついた薄手のパーカーを選んだ。
いつもと変わりない恰好だが、少しだけ意識するとちょっと緊張した。時間になったので史苑たちの部屋に行った。
史苑と怜も用意ができていて、すぐに部屋から出た。
「おはよう光希。今日も可愛いね」
史苑がいきなり褒めてきたのでびっくりした。可愛いなどと言われたこともなかったので、目を丸くする。
「あ、ごめん。いつも言いたかったんだけど、言えなくて……」
光希が言葉を失っていたので、史苑が言いわけのように言った。
「い、いえ。俺も……先輩はすごくかっこいいと思います」
もじもじして答えると、怜が白い目で二人を見ていた。
「さっさと行くよ。映画が始まっちゃうだろ」
「は、はい」
光希は急いで歩き始める怜を追いかけた。
「あの、何を観るんですか?」
「うーん。悩んだんだけど、二人の事を考えて、同年代くらいの男の子のサバイバルホラーにしてみた」
「サバイバルか……」
史苑が呟く。光希はほとんどホラー映画を知らないので史苑に尋ねた。
「怖いんでしょうかね」
「怜が選ぶならきっと」
「いや、たぶん光希くんは何を観ても怖がると思うよ」
これは心してかかった方がいいのかもしれない、と光希は思った。
三人は外出名簿に名前を記入すると外へ向かった。校門を出て映画館がある大型商業施設の方へ歩き始めた。
「怜先輩はどうしてホラーが好きなんですか?」
「あー、どうしてかなあ。世界観は好きだと思う。現実ではほとんどあり得ないし、ゾンビとかスプラッタも割と好きなんだ。ダメなのはバイオレンスかな。あれはちょっと苦手だよ」
「あ、俺も多分同じです」
「光希、怜と同じ目線で考えない方がいいよ」
史苑が隣を歩きながら言う。同じ目線とは。光希は首を捻りながらどういう事だろうと思いつつ、史苑と映画に行くというだけで嬉しくてたまらなかった。
主に怜がホラーの話をするのを聞きながら映画館に到着した。せっかくなので、写真を撮ろうと史苑が言った。
史苑との写真も初めてかもしれなかった。怜が二人のツーショットを撮ってくれた。スマホに収まった史苑の写真を見てはドキドキした。
映画館に入りチケットはオンラインで購入したので、そのままコードで入る事ができる。上映時間まではまだ少し時間があった。
「怜先輩、慣れているんですね」
光希が尊敬の目で言うと、怜ははにかんだ後、ちょっと残念そうな顔で答えた。
「でも、映画鑑賞もこれまでだね。これからは勉強しないといけないかな」
「俺も史苑先輩と一緒の大学へ行こうと思ってるんです」
「聞いたよ。僕も一緒に頑張るから」
「はい」
怜も一緒の大学だと思うとまたワクワクする。怜は話しやすくて頼りになるのだ。
「光希、何か飲む?」
「あ、いいです。ありがとうございます」
「僕もいらない」
三人とも何も買わず、おしゃべりしながら待った。それから入場時間になったので移動する。席は史苑を真ん中にして光希は隣に座った。
隣にいることもドキドキするが、ホラー映画がどれほど怖いのか、そちらもドキドキした。
「先輩」
「ん?」
史苑が小声で返事をした。
「俺、もしかしたら先輩の手をつかむかもしれないですけど……」
「ハハ」
史苑が笑う。
「俺も多分びくっとするだろうけど、嫌いにならないでね」
「なるわけないでしょ」
ボソボソ話しているうちに全体が真っ暗になって、人の顔も見えなくなった。映画を観始める前の緊張感を味わいながら正面を見る。予告編が始まり、それから本編へと移った。

