その好きは隠しておいてね


 それからゴールデンウイークに入るまで特に変わりのない日が過ぎた。
 史苑との付き合い方は、今までとほとんど変わらない。変わったと言えば、一緒に眠らなくなったことだ。
 さみしさもあったが、お互いの気持ちが分かった以上、光希もちょっとだけ心構えが変わった。光希は史苑と一緒に大学に行きたい一心で、前よりもいっそう勉強に力を入れるようになった。それと、史苑には大学の勉強に集中できるような環境でいて欲しいと思う。

 明日からゴールデンウイークに入る。
 前半部分は、学校と休みが混じっているので誰も帰省しない。しかし、学生たちがどこか浮足立っているのはよく分かった。
 トイレ修理はやはりゴールデンウイーク明けに直すことになった。修理会社は学校よりも休みが多いため、仕方がなかった。

 ハギモリマリアからの連絡は途絶えたままだった。
 五日間の休みに入る前日、学校を終えた学生たちが帰省の支度をし始めて、寮に残る生徒たちの数も大方把握できた。

 寮の生活は普段通りと変わらないが、点呼だけ光希も手伝うことになった。万が一、この五日間に誰かがいなくなるなどということが起きては大変なので、その期間だけ双葉寮を回ることにしたのだ。他の二つの寮は別の生徒に任せている。
 そして、毎晩、帰省しなかった人数の最終確認を寮父に頼んだ。

 ゴールデンウイークの後半の五日間のうちの一日目。
 休みの日は一日が早い。
 22時から光希は一階から六階までの点呼に回り、一階へ降りた。
 一階の寮父の部屋の前に点呼確認をした三名集まった。
 双葉寮からは光希が。葉月寮からは三年生が。そして、若葉寮の代表の少年を見て、どこかで見たことがある、とふと思った。思い出せずにじっと見つめていると、その生徒は光希の顔を不思議そうな顔で見てから目を逸らした。
 しまった見過ぎたか、と光希はすぐに視線を逸らした。

「あの……」

 人数チェックの後、解散すると後ろから声をかけられた。先程の若葉寮の生徒だった。光希は焦った。あまりにも見つめすぎたから文句でも言われるのだろうか、と身構えた。

「は、はい。なに?」
「さっき、僕のこと見てたよね」
「あ、ごめんっ」
「なんで謝るの?」
「いや、人の顔をジロジロ見るなんて失礼だよな」
「別にいいけど、どうしてだろうって思ったから」
「君の顔をどこかで見たような気がして。ごめん、他の寮の生徒の顔までは覚えていないんだ」
「そう、なんだ……」

 少年は残念そうな顔をした。彼は光希よりもほっそりしていた。肌が白く一重の落ち着いた雰囲気の少年だった。

「僕は日野。日野澄春(ひのすばる)、澄んだ春と書いてすばると読むんだ」
「日野くんか」
「藤崎くんのことは分かるよ」
「あ、ごめんね。覚えておくよ」
「よろしく。僕、藤崎くんと仲良くなりたかったんだ」

 日野はそう言うと光希の肩をぽんと叩いた。

「おやすみ」

 そう言って玄関を出ると、向かいに建っている若葉寮に戻って行った。暗い中を一人、闇に溶け込むように見えなくなる。
 光希はハッとすると急いで三階へ戻った。
 もたもたしていたら、23時の消灯で明かりが消えるのだ。急いで部屋に入ると、甲斐が寝る支度をしていた。

「おー、お疲れー」

 甲斐は明日、帰省する。今日だけは一人じゃないからよかったと思う。

「みんな揃ってたか?」
「うん。大丈夫」
「休みの間、何事もなかったらいいな」
「うん」

 光希は答えながら布団に入った。
 史苑に部屋に戻ったことを伝えて、メッセージを送るとすぐに返事があった。明日の予定を確認してからスタンプを押すと、既読になった。

「明日、先輩と映画を観に行くんだ」

 甲斐に言うと、隣の部屋からはしゃぐ声が返ってきた。

「いいじゃんかー。俺も明日は早いから。帰り、お土産買ってくるよ」
「ありがとう」

 明日は史苑と怜と一緒に外に出かける。
 光希は久々に史苑とゆっくりできると思うと嬉しかった。

「怜先輩もいるんだろ?」
「うん」

 怜も寮に残ってくれたので、彼が観たいという映画を観ることになった。おそらくホラー映画だろうが、光希はこれまでホラー映画は見たことがなくて、別の意味でぞくっとした。

「おやすみー」

 甲斐がそう言うと明かりが消える。光希も横になってスマホの電源を落とした。