「こんにちは。すみません、藤崎先輩ここにいます?」
二人はゴールデンウイークの相談に来たと言った。これから寮父室でゴールデンウイークの帰省する生徒と残る生徒をチェックするらしい。ハギモリマリアのメールが気になったが、仕事だから仕方ない。
光希は三人に謝って部屋を出た。
寮父室には数名の生徒たちが待っていた。光希も加わりみんなで話し合いを始めた。
来週からゴールデンウイークなので、後半の五日間帰省する生徒の帰省届を今週中に出すように通達することを決める。
細かい事を相談しあいながら、突然、帰省する生徒に関してどうするかも話し合った。
二人部屋なので、両方が帰省する場合はいいのだが、一人残る場合はどうするかも考えたが、他人の部屋を使用するわけにはいかないので、その時は一人で部屋に残ることになる。
甲斐もおそらく帰省するので、光希は五日間、一人だなと思った。ちょっと怖い気がするが。
寮は三つあるので、他の寮生とも協力しあうことになる。
風呂場の掃除やゴミ出し、各階の掃除は継続する。
毎年の事なので、話し合いは割とスムーズに進んだが、幽霊の話は出なかった。誰か言い出さないだろうかと心配になったが、杞憂だったようだ。
その後話し合いを終えて解散となった。
光希は一度、史苑の部屋に行こうと思った。
二階へ上がり、部屋のドアをノックすると史苑が出てきた。
「終わったの?」
「はい」
史苑の顔を見ただけで緊張する。ぎくしゃくと部屋に入ったが、史苑はいつもと変わりなかった。
「メールは?」
「あ」
史苑はハギモリマリアの返事が気になっていたのだろう。ポケットに入れておいたスマホを出す。返事はなかった。それを見て史苑はがっかりした表情になった。
「反応なしか。まあ、こちらの都合よくはいかないよね」
「あ、あの。来週からゴールデンウイークに入るので、帰省する人は今週中に帰省届を提出してください」
「ん? ああ、分かった」
光希の言葉を察してくれて、史苑が頷いた。中にいる玲にも伝える。怜がとことこと出てきた。
「僕は帰省しないからいいよ。メールは来なかったんだね」
「はい」
「うーん、そっか」
小さく唸ってまた自分の部屋に戻って行った。
「じゃあ、光希、学習時間だから」
「はい」
光希は少しがっかりして部屋を出ていこうとすると、史苑が光希に近寄ると耳元に囁いた。
「勉強がんばって」
耳に息が触れて光希は手で耳を押さえた。こくりと頷いて部屋を出る。
廊下を走ってはいけないのに、思わず走りそうになって、早歩きになる。頬が熱くなるのが分かって恥ずかしかった。
そのまま部屋に戻ろうと階段の踊り場へ行くと、一階から寮父室前の固定電話が鳴っている音がした。
最近ではほとんどがスマートフォンの使用で固定電話など触ることもないが、ここでは実家から緊急の電話がごくまれにかかってくることがある。
光希は音が鳴っているのを聞いて降りようかと思ったが、電話が切れたので誰かが取ったのだろうなと気にせず三階へ上がった。
20時からは学習時間になるため、生徒たちはスマホの電源を落として、点呼まで勉強時間となる。
光希は部屋に入るとホッとした。甲斐も真面目に勉強をしているようだった。学校からはゴールデンウイークの後に提出する宿題がかなり出ていた。休みの間、気にせず遊びたいのだろう。
光希も史苑と同じ大学へ行くために気を引き締めた。
勉強に集中し、点呼の時間になったので甲斐と共にロビーに行った。無事に点呼を終えて部屋に戻る。
明日は月曜日だ。今日は早めに寝ようと思い、史苑におやすみの連絡を入れようと考えて、はにかんだ。メッセージ一つでウキウキするのだから、自分はよほど浮かれているようだ。
史苑にメッセージを送ると、すぐに既読になってキャラクターのスタンプが送られてきた。それを見て吹き出す。
「どうした? 光希」
甲斐が眠そうな声で言った。まずい、隣に聞こえたのか、と口を押さえた。
「なんでもない。おやすみ。俺はもう寝るね」
「俺も寝るよ。おやすみ」
甲斐の部屋の明かりが消える。光希はスタンプを見て身悶えした。
恋人のフリをしていた時に見たらただの可愛いスタンプだったのだろうが、両想いになった後で見るのとでは受け取り方が違った。
自分も同じようなスタンプを返してからスマホを閉じる。
どうしてもまた、にまにま笑ってしまいながら、恥ずかしさに顔を隠した。

