コンビニから戻ると、昼食に行く生徒たちの多くとすれ違った。
光希は購入した飲み物を冷やそうと、共同冷蔵庫へ入れるためにロビーへ向かった。名前を書いて冷蔵庫へ入れる。
共同冷蔵庫は去年、入れてもらった。多くの生徒が使うのでいろいろトラブルはあるが、自己責任でみんなが使用している。
それから昼食を食べに食堂へ行った。空いている席に座り、隣になった二年生とおしゃべりをした。多くの生徒がゴールデンウイークは帰省するようだった。
幽霊騒ぎどころか、みんな休みの間、何をするかの話題ばかりだった。
当然、ハギモリマリアの使用するスマホの電話番号など知りようもなく、ゴールデンウイーク明けには試験もあるので、他の事で煩わせるのも申し訳ないと思い、聞かなかった。
食事を終えて部屋に戻っても甲斐は不在だった。
机に座ってもやっぱり集中できない。学習室に移動してそこで勉強をしようと思った。
別の棟には学習室があり、三時間だけ勉強を教えてくれる先生が来てくれていた。
宿題を抱えてそちらへ移動すると、静まり返った室内に複数の生徒たちが勉強をしていた。ホッとして空いている席に座る。
室内は快適な温度が保たれていて、そろそろ冷房も必要になるかなと思った。ここでは集中して宿題をすることができた。終わった頃には、夕方近くになっていた。
少し疲れたので部屋に戻って軽く眠ろうと思った。夕べ、史苑のことが気になり過ぎて、あんまり眠れなかったことを思い出す。
そう言えば、史苑は怜に相談すると言っていた。二人で何を話すのだろう。
気がつけばまた史苑の事を考え始めたので、光希はすぐに考えるのをやめた。
部屋に戻っていると、玄関に向かって行く史苑の姿があった。
「あ」
史苑は身長が高く足が長いので、ゆっくり歩いていても歩幅が広くて、どんどん前に進んでいく。自分は気づけば立ち止まって史苑を見つめていた。
あんなにかっこいい人がなんで自分なんかに。ずっと抱き続けてきた疑問だ。早く声をかけないと、と思う。
恋人のフリをしているのだから、みんなに不審に思われてしまう。分かっているのに、その場から一歩も踏み出せなかった。
その時、前から歩いてくる生徒に話しかけられて、史苑が立ち止まった。立ち話を始める。同じ三年生と話が盛り上がったのか笑顔で頷きあってから、分かれ際、ふっと視線をこちらへ向けた。
光希がいるのに気づいて、目を細めると手を振った。
「光希」
こちらへ歩いてくる。
光希はなぜか後ずさりして背中を向けると元来た学習室の方へ走っていた。
「光希っ」
史苑が追いかけてきて、手をつかまれた。
「どうした? もしかしてまた、ハギモリマリアから連絡がきた?」
史苑は逃げた事を問わなかった。気遣う声が優しい。
もし逃げた理由を聞かれたとしても、答えられなかったに違いない。
自分でもなぜ逃げたのか分からなくて、首を横に振ってから顔を上げると、史苑が少し眉をひそめた。自分は何かおかしい顔をしていただろうか。
「なんか不安そうな顔をしているね。やっぱり怖いよな」
「あ、はい」
幽霊の事を言っているのだろう。幽霊も確かに怖かったけど、自分の気持ちを知られる方が怖いことに気づいてしまった。
「どこに行ってたんだ?」
「学習室です。部屋にいても集中できなくて」
「そうか。ああ、ちょうどよかった。ハギモリマリアのスマホの件で怜といろいろ話したんだ。部屋に行ってもいい?」
「どうぞ」
よかった。普通に話せている。光希は自分でもどうしてあんな行動をとってしまったのだろうと思った。光希は玄関へ向かいながら史苑に頼んだ。
「先輩、冷蔵庫にあるジュースを取ってもいいですか? 喉が渇いて」
「ああ、いいよ」
史苑と共に三階へ上がり、ロビー内にある共同冷蔵庫に向かう。先程入れた炭酸飲料を取り出した。
「先輩も飲みます? お茶ですけど」
「俺はいいよ」
光希は、今日はやけに喉が渇くと思った。
部屋に入るなり、蓋を開けてごくごくと飲む。史苑は部屋に入るといつものようにベッドに腰かけた。
「光希がジュースを飲むなんて珍しいね。出かけたの?」
「え? あ、はい。昼前に散歩がてらにコンビニに行ってたんです。あ、そうだ」
コンビニで思い出した。トイレを壊した犯人が分かったんだった。
光希は、一色と一緒にいた一年生の話をした。史苑は少し眉を顰めると考える顔つきになった。
「そのショウゴという一年生は、自分がトイレを壊したと言ったのか」
「はい」
「なんで、急に伝える気になったんだろうね」
「さあ」
トイレを壊したからと言って、弁償させるかどうかはまだ分からない。見積り次第かもしれないが。
「トイレ、いつ直りますかね」
「ん……」
史苑がスマホを取り出してカレンダーを開いた。

