その好きは隠しておいてね


 怜に相談する、と言って史苑は部屋へ戻って行った。
 光希は椅子に座り、月曜日までに済ませるべき宿題に取り掛かろうと教科書を出してノートを広げたが、気もそぞろで思わずため息が漏れた。
 ルール違反だ。
 ここ最近、史苑からの接触が増えているのは気のせいだろうか。
 思い出すと顔が熱くなった。雑念を振り払おうと首を振る。自分たちはここへ勉強をしに来ているのだ。それに――。
 ゴールデンウイークのことを思うと気が重くなった。
 実家に帰りたくない理由を聞かれるとは思わなかった。これまで史苑は干渉してくることはなかったのに、何か心境の変化でもあったのだろうか。
 もしかして、気持ちを知られまいとクールに接していることが、逆に冷た過ぎたのだろうか。

「うー、分からない」

 光希は頬を机に押し付けた。机のデジタル時計を見ると11時近くになっている。
 気分転換に飲み物でも買ってこようとコンビニに行く事にした。
 ここからコンビニまでは、ゆっくり歩いて10分くらいの距離にある。その近くに大型商業施設があり、映画館、カラオケ、ゲームセンター、携帯ショップ、飲食店が数多くあった。
 外出する時は外出許可がいるが、近辺なら名前を記入してすぐに戻ってくればいい。

 光希は財布を持つと一階へ降りた。
 寮父の部屋の前に固定電話やメモが取れるような台が設置されていて、そこに外出名簿が置かれている。光希がそこへ行くと、二人少年たちが名前を記入している所だった。
 一色拓馬と一年生だった。

「二人とも出かけるのか?」
「ああ、藤崎くん」

 一色が愛想よく笑いかけてきた。一年生がぺこりと頭を下げた。

「二人で映画を観に行こうと思って」

 一年生と仲がいいのか。少し意外に思った。

「へえ、何観るの?」

 何気なく尋ねると一色が少し動揺した。不自然に目が泳ぐ。光希は一瞬、立ち入ったことを聞いてしまった、と聞いた事を後悔した。

「あー、うん。行ってから決めようと思って。ね?」
「はい」

 一年生は余裕のある表情でこくりと頷いた。彼の方がどっしりと構えている。

「ああ、そうなんだ」

 光希はそう言いながら、二人から目を逸らすと名簿に自分の名前を記入し始めた。
 
「藤崎先輩、ゴールデンウイークは帰るんですか?」

 背後から一年生が尋ねてきた。光希はペンを置いて振り返った。

「いや、帰らないよ」
「藤崎くんは寮に残るのか。ショウゴは帰るの?」

 ショウゴと呼ばれた一年生は首を横に振った。

「俺も残りますよ。実家が北海道で遠いんです。帰るのは正月だけですね」
「僕は家に帰るよ。ここにいてもすることないし」

 一色が言って、三人は靴に履き替えると揃って校門へ向かった。寮は学校の敷地内に建っているので数分歩くと門が見えてくる。

「藤崎先輩」
「何?」

 ショウゴが隣を歩きながら話しかけてきた。

「トイレ、壊したの俺ですよ」
「えっ?」

 突然の事で、光希はびっくりして足を止めた。

「君だったの? あ、ケガとかなかったのか? 足」
「最初に聞くの、そこっ?」

 ショウゴがけらけら笑いだす。彼は一年生のわりにかなりガタイのいい少年だった。身長も170センチの光希よりも少し高いように見える。

「俺、丈夫なんで。でも、すみません、迷惑をかけて」
「まあ、そうだね……」

 本当にその通りだよ。おかげで幽霊からメールが来るようになってしまったのだから。

「じゃあね、藤崎くん」
「失礼します」

 一色とショウゴはコンビニを通り越して商業施設の方へ向かって行った。光希は足を止めて二人の後ろ姿を見送りながら、トイレを壊した奴は分かったけど、あの一年生、全然反省してないな、とため息をついた。
 それからコンビニに入りペットボトルの水やお茶、ジュースを数本買って寮に戻った。

 寮に戻ってから、彼はなぜ、トイレを蹴ったりするような心境になったのだろう、と思った。