その好きは隠しておいてね

・謎のメール。ハギモリマリア。MはおそらくマリアのM
・痴漢事件。加害者、前田和明。薬を多量に服用して、自殺未遂。
・痴漢事件の目撃者。愛河秀彦。
・幽霊騒動。幽霊は恐らくハギモリマリア。
・三階でケンカ。愛河秀彦と一色拓馬のケンカの原因は、前田が亡くなったと思い込んだためと思われる。
・一色拓馬の部屋に行く。事情を聞く。その時、部屋から煙草の臭いがしている。
・六階のトイレが壊れる。それが原因で怪奇現象が起こる。
・トイレを壊した人物は不明。
・ハギモリマリアの使用しているスマホに光希の情報しか入っていない問題。

 怜が真剣な表情でそれを見つめている。

「このトイレを壊した人物というのは誰か分かっていないんだね。後、前田和明くんの痴漢事件の事なんだけど、四月の最初に起きたよね」
「はい」
「目撃者は愛河くんと一色くんだけ……?」
「あの……」
「何?」
「俺、その場にいたんです」
「あ、そうなんだ」

 史苑がちょっと驚いたように言った。

「はい。ちょうど俺は風呂から上がったところで、愛河が前田を指さして、なに見てんだよって叫んだのが最初だった気がします」
「なに見てんだよ……。見られていたのは誰?」
「あー、それが覚えていなくって」
「記憶によると確か、二年生だった気がするね」

 怜が言った。
 見られていた二年生も気持ち悪い思いをしただろうが、その場に居合わせた一年生たちも恐ろしかっただろう。
 高校に上がったばかりで、いきなり二年生同士の揉め事に巻き込まれたのだから。

「見られた生徒よりも、前田と愛河の言い争いがすごくて。そこに一色が割り込んだんです。前田はそんな事していないって。もう一人も同じように言っていた気がする。でも、愛河の勢いに圧倒されて、二人とも委縮して言い返せなくなったんですよね」
「愛河くんは気が強いんだね」

 史苑がふうっと息を吐いた。

「彼は要注意人物だね」
「この間、僕たちが一色くんの部屋に言った時、部屋からは煙草の臭いがしていたね」
「はい」
「一色くんが愛河くんにケンカを売ったのも、前田くんが亡くなったと思ったから。でも、それも誰かに言われたから」
「愛河と一色の件はもう俺には分からないです。うやむやになったのか、寮父さんの方から動くと思います。ただ、煙草が寮父さんに見つかったらどうにもできないですけどね」
「そうだね」

 意外と怜は話しを聞くのが上手だなと思った。穏やかで柔らかい口調だから話やすい。

「このメモにちょっと書き込んでいい?」
「はい」

 怜が箇条書きに文字を書き込んでいった。

「これらの中に、誰か分からない人物が複数いる。トイレを壊した人物A。一色くんに前田君が亡くなったとけしかけた人物B。そして、ハギモリマリアが利用するスマホの持ち主C。ハギモリマリアが使用するスマホに、光希くんの情報を流している人物D」

 光希がギョッとした。

「なんですか、この人物Dって」
「よく考えてよ。光希くんに好意を持っている可能性のある人物は、君を隠し撮りしているかもしれない。もしくは誰かから君の写真を購入している可能性もあるんだよ」
「はあっ? 俺の写真なんかどうするんですか」
「お風呂場で痴漢事件があったんだ。隠し撮りされている可能性があるじゃないか」
「先輩、漫画の見過ぎじゃないですか?」

 光希の言葉に、怜が初めてムッとした。史苑がクスクス笑っている。

「光希、言い過ぎだよ。笑い事じゃないけど、怜の言う通りだ。気を付けた方がいい」
「すみません。俺もひどいことを言いました」

 ごめんなさい、と怜に謝った。
 怜は、いいけど、とちょっとすねた顔をした。その隣で史苑が怜をなだめた。

「怜がこんなに必死になるのを初めて見たよ。光希の事を心配しているんだよな」
「まあね」

 史苑になだめられて少し気をよくしたようで、怜が背筋を伸ばした。

「謎の人物が四人はいる。この中でも一番気をつけなきゃいけないのは、君の事を見ている誰かだ。ハギモリさんは幽霊だから悪さはできないと思うからいいけどね」
「いや、俺にとっては幽霊が一番怖いです」

 光希はぶるっと身震いした。
 いきなり横に現れたら、俺泣ける、と思う。

「本当に光希は怖がりなんだな。よく夜中一人で出歩けたね」
「それは幽霊なんていないと思っていたからです。目の前で見たらもう信じないわけにいかないですよ」
「そうだね」
「史苑先輩は怖くないんですか?」
「え? まあ、怜と一緒にいたらね。怖い映画を見過ぎて慣れたのかも」

 怜を見て笑いかける。

「そんなによく見るんですか?」
「ほぼ毎週じゃないか? ねえ」
「そうかなあ」

 怜がとぼけると史苑が笑った。同室だから仲がいいのは当然だよな、と自分に言い聞かせた。

「じゃあ、僕は部屋に戻るよ。史苑はどうする?」
「俺は少しここにいる」
「分かった。じゃあね、光希くん」
「あ、ありがとうございました」

 怜はスッと立つと部屋を出て行った。
 史苑と二人きりになって、光希は急にドキドキしてしまった。