お昼過ぎ、史苑と怜が光希の部屋を訪ねてきた。
どうやら二人は外出をしていたようだった。
怜の表情が少しけだるげに見えるのは気のせいだろうか。
甲斐は別の部屋に遊びに行っており、入ってきた二人は部屋の絨毯に座って話をした。
「調べたよ」
史苑が言った。彼が調べたというのは、おそらくハギモリマリアのことだと思われた。
「俺も少しだけ、ネットで検索しました」
「俺たちもそれは見た。もっと詳しい話を地元の人から聞いたんだ。な、怜」
「うん」
怜がこくんと頷いた。
「何か分かったんですか?」
「ハギモリさんはね、失恋したらしい。自暴自棄になって一人で飲み屋をハシゴして家に帰る途中、道路で寝てしまった。そこを運悪く通った車に跳ねられて死亡した。新聞に載ったから、知っている人は多かったよ」
「案外、簡単だったね」
怜がボソッと言う。
ハギモリマリアが亡くなった原因は分かったが、彼女はどんな想いを抱えていたのだろう。それほど好きな人がいたのだろうか。
もし自分が失恋した時、どうなるだろう。お酒は飲んだことはないからそこは理解できないが、かなり落ち込むような気がする。
「そうだったんですね。一応、ハギモリマリアさんにはニュースで調べた内容をメールで伝えたんです。返事はないけど」
「伝えたんだ。それはえらかったね」
史苑がよしよしと光希の頭を撫でた。
「それよりもね、そのハギモリマリアさんの使っているスマホに、君の事しか入力されていない件なんだけど」
怜が静かに言った。
「そっちの方が重要な気がするんだよ」
「重要ですか」
「うん」
光希は自分のスマホを取って眺めてみる。
このスマホの中の情報が自分一択である。そう考えたらゾッとした。
「ヤバ……」
「ね、やばいでしょ。なぜ、光希くんの情報しかないのか、僕なりに理由を考えてみた。一つは君に好意を持っている。もう一つは、君で商売をしようとしている」
光希はあんぐりと口を開けた。
「は? 商売って何ですか?」
「光希くんは、史苑と付き合っている時点から実はかなり目立ってしまってるんだけど、気づいていないよね」
「それは……」
史苑が人気のある先輩なので、隣にいるとジロジロ見られることがある。
もしかして俺って嫉妬の対象になっていた? 光希はそのことに今、気がついた。
「俺、恨まれてたんだ……」
呆然とすると怜が呆れたように首を振った。
「どうしてそっちの思考に向くのかな? 僕が考えたのは、ハギモリさんが使用しているスマホの持ち主は多分、二つスマホを持っていると思う。一つは日常で使用している。もう一つは君専用だ。そのスマホをハギモリさんが見つけて、メールを打ってるんじゃないかな」
「ハギモリマリアとスマホの主の繋がりまでは分からないけど、電話番号だけは分かるな」
史苑が、以前ハギモリマリアに電話した時の発信番号を書いたメモを取り出した。
「電話番号は個人情報になるから、探ることは不可能に近い。寮生全員に聞くわけにいかないし」
史苑がぶつぶつ呟く。
「調べられるのはここまでか。光希、ゴールデンウイークだけど」
「え?」
急に話が代わり、ドキッとして史苑を見た。
「光希は実家に戻るんだろ?」
当たり前のように言われて光希は黙った。
「帰らないの?」
「……はい。ここに残ります」
光希は寮が閉まらない限り、ここに残っていた。中学生の頃から、実家に戻ることはあまりない。家に戻りたくない理由があるからだ。
怜と史苑は顔を見合わせた。
「怜は?」
「僕は帰るつもりでいるんだけど」
「そうか……」
寮生のほとんどが県外から来ている学生だが、帰省しない生徒もいるので、夏休みなどの長期以外は寮を開けてくれている。休みの間の食事は自分たちで何とかしなくてはいけないが。
「光希が残るなら俺も残るよ」
史苑の言葉に光希は目を見開いた。
「え、な、何でですか?」
「だって心配じゃないか。幽霊だって出るのに」
ハギモリマリアの話をされると背筋がゾッとする。残ると言ってもらえて嬉しいのに、素直にありがとう、が言えなかった。いや、本音は嬉しくてたまらない。
「そうだな……」
史苑が残ると聞いて、怜が少し考える顔つきになった。
「史苑が残るなら、僕もちょっと考えようかな」
「そうしろ。仲間が多い方が心強い」
史苑がニッと笑う。
「ふ、二人が残ってくれるなら嬉しいです」
怜も残ってくれたら、さらに安心だ。
甲斐はよく帰省するから、二人がいてくれるとさみしくない。
寮生がどれほど残るか分からないが、気の重いゴールデンウイーク問題が少し気楽になった。
「あ、そうだ。寮で起きている問題を箇条書きにしてみたんです。これ、見てください」
光希は自分が書いたメモを二人に見せた。

