その好きは隠しておいてね


 学習時間が終わり、22時の点呼に出るために甲斐と光希はいったん部屋を出た。
 点呼には全員が揃っていて、六階で幽霊騒ぎが起きたことなど知らないのか、いつもと変わらなかった。
 部屋に戻り、落としていたスマホの電源を入れなおした途端、史苑からメッセージが入った。

「あっ」

 光希は急いでメッセージを開いた。
 あれほど史苑に迷惑をかけたくないと思っていたのに、連絡がきた途端、嬉しさを隠しきれなかった。
 今から部屋に行ってもいいか? とある。光希は逸る気持ちを抑えて大きく息を吸い込むと、いつでもいいですと答えた。
 数分すると部屋をノックする音がした。光希が部屋のドアを開けると、史苑が静かに入った。

「先輩っ」

 甲斐が嬉しそうに手を振る。

「お邪魔するよ」
「大歓迎っす。俺も一緒に寝たい」
「ダメ。狭いから」

 光希がぶっきらぼうに言うと、甲斐がちぇっと口を尖らせた。

「あいつ……」

 光希が思わず呟くと史苑がクスッと笑った。それから光希の方を見た。

「光希、もう大丈夫か?」
「はい。すみません、先輩、勉強しなきゃいけないのに」
「誘ったのは俺だから、何も気にしなくていいよ」
「はい……」

 目を閉じてもあの光景が浮かんでくる。

「先輩、しっかり見ましたか?」
「うん? 見たよ。若い女の人だったね」

 史苑はどこまで見たのだろうか。

「先輩は怖くないんですか?」
「光希がそばにいたから、そこまで怖いと思わなかったな」
「どういう意味ですかそれは」
「まあでも、何もできないのは歯がゆい気はするが、仕方ないのかなとも思う」

 史苑はそう言うとベッドに腰かけた。

「何か変わったことはなかった?」
「あ……」

 光希は先ほどの電話とメールの話をした。史苑がすぐにそれを見せてと言った。

「前と同じだね。それに、時間と携帯番号も前と同じだ」
「あ……」

 そこまで確認をしていなかった。前に謎の相手に電話した史苑の発信履歴と今日の電話の自分の着信履歴を確認する。同じだった。
 あの時、電話に出た相手が女の人だったように思う、と言った史苑の言葉を思い出して思わず身震いをした。

「どうしたの?」
「あ、その……。先輩が前に言ったことを思い出して」
「ああ、女の人か」

 今日の幽霊も女の人である可能性が近い。光希はこれ以上、想像するのは怖いと思って顔を振った。

「もうやめましょう、考えるの」
「ああ、怖いからね」

 史苑がからかうように言った。
 消灯まで残り数分だ。光希は布団に入る前にスマホを枕元に置いた。

「電源落とさないのか?」
「メールが気になって」
「確かに。今夜、相談に来て欲しいって書いてあるもんな」

 本当にメールを送った相手が待っていたらどうしよう、という気持ちと前と同じで、からかわれているかもしれない、というジレンマを感じた。
 一体、相談とは何なのだろう。

「光希は何が気になる?」
「あ……。その相談ってやつです。何を相談したいのか」
「そうだよね、相談って言っても人それぞれ違うからね」

 史苑にも相談事ってあるのだろうか。ふと、横になろうとする史苑を見て思った。

「まあいいや、眠ろう」

 甲斐の部屋はすでに真っ暗で、光希も部屋の明かりを消した。まだ、廊下は煌々と明かりがついている。
 史苑が先にベッドに入ったので、その隣に横になりながら、光希は小さく深呼吸をした。
 なんだか胸がざわつくというか、今日に限って変に緊張していた。
 いつもの事なのに。

 史苑に背を向けて目を閉じた。すると、消灯時間になったのだろう、ふっと廊下の明かりがいっせいに消えて真っ暗になった。
 史苑は上を向いているのだろう。背中に肩がぶつかっている気がする。
 肩を並べて眠ればいいのに、史苑が一緒に寝る時は顔を向けることが出来なくて、背を向けてしまう。史苑は気づいているだろうが、何も言わない。
 横を向いていると、マナーモードにしているスマホが振動し始めた。
 光希は、あっと声を上げそうになって急いでスマホを取った。

「メール?」

 背中から史苑の囁く声がした。

「は、はい」

 急いで開くと、暗闇にぼうっと光るスマホの明かりがまぶしかった。背中に史苑を感じながら、光希はメールを読んだ。

『藤崎寮長へ 相談に乗って欲しい。あなたしか話せる相手がいない。霊道を塞がれて困っている』

 その文章を読んだ瞬間、光希は思わず声を上げそうになった。

「しっ」

 史苑が耳元で言った。