その好きは隠しておいてね


 二人で六階まで上がり、トイレに向かおうとして足を止めた。他の階と違って廊下全体が薄暗い。

「先輩……」
「うん。ずいぶん暗いねこの階は」

 史苑も天井を見上げたり横を見たりしながら、暗い原因を探そうとしている。光希が先に六階のロビーに向かうと北側の明かりがチカチカと点滅しているのに気づいた。

「電灯が消えかかってるんだ」

 報告も何も聞いていない。トイレといい電灯といい、六階はかなりずさんな状態のように思えた。問題のトイレにも行ってみようと光希はそちらへ向いた。
 史苑は立ち止まって何か考えているように見えた。生徒たちは誰もいないようで廊下はシーンと静まり返っている。

「トイレ、見てみましょう」

 トイレの方へ行き、問題の便器を確認する。トイレは狭く三人分のスリッパが並べられている。
 光希は明かり取りが差し込む一番奥側のトイレのドアを開けた。水浸しだ。それにかなり汚れていて臭いがきつい。顔をしかめて戸を閉めた。

「明日は土曜日だから、月曜日は見積に来てもらわないといけないですね」
「そうだな」

 いつの間にか後ろにいた史苑がトイレをのぞき込んで頷いた。
 このトイレは臭いと汚れがきついからだろう、気が急くような、数秒でもここにいたくない、という衝動に駆られた。
 トイレを出てホッと息を吐くと、史苑が笑った。

「何でため息ついているんだ」
「いや、気持ち悪くって。嫌な感じしませんでした?」
「そうか?」

 史苑が言って洗面所で洗い始める。なぜか、光希も手を洗って手を拭いていると、電灯が点滅している北側の廊下に誰か立っているのが見えた。

「先輩、あれ……」

 誰かいると言おうとしてぎくりとする。
 髪が異様に長いのだ。
 光希は腕に鳥肌が立ったのを感じた。史苑にぐいっと腕を引かれてしゃがみ込んだ。震えているつもりはないのに、がたがたと体が震えた。

「俺もいるから」

 史苑が囁く声を聞いて、息ができた。うんうんと頷いて腕にしがみついた。
 甲斐の言っていた言葉を思い出していた。今見た何かは、体つきは細くて髪が長い。そして赤かった。

「こっちへ」

 史苑が腕を引いて東側か階段の方向へ逃げようとすると、北側の廊下から悲鳴が上がった。バタバタと数人の足音が聞こえる。
 前と同じ状況に似ている。やはり、何かいるのだ。

「行こうっ」

 史苑が言って、光希は意を決すると声のする方へ飛び出した。
 腰を抜かした生徒のそばに裸足の人物が立っていて、スーッと消えていった。光希も腰が抜けそうなほど怖かったが、史苑がしっかりと光希を支えてくれていた。

「先輩……」
「うん」

 史苑の顔を見ると、彼も青ざめて見えた。

「寮父さんに知らせないと……」

 光希はそれだけ言うのがやっとだった。