死んだはずの世子嬪は、すべてを知った夫に狂おしいほど愛される




「……分かった。明日、私が自ら離宮へ行く。この手で真偽を確かめる」


 その言葉は、事実上の死刑宣告も同然だった。
 その頃、静蓮閣。

 瑞奈は、肌を刺すような冷たい殺気が周囲に漂っているのを感じ取っていた。堅く閉ざされた門の外からは、時折「妖女を叩き出せ!」という叫び声とともに、大きな石が投げ込まれるような鈍い音が響く。だが、遠いために被害には遭っていない。

 仕えていた傲慢な尚宮たちは、身の危険を察していち早く彼女を置いて逃げ出していた。
 残されたのは、瑞奈を慕って離れなかった一人の幼い下女である丹実(タンシル)だけだった。


「瑞奈お嬢様……いえ、世子嬪様。お願いです、裏門から逃げてください。このままでは本当に殺されてしまいます」


 丹実は泣きながら、瑞奈の擦り切れた袖に縋り付く。しかし、瑞奈は穏やかに微笑み、その小さな手を優しく包み込んだ。

 瑞奈の体は、すでに限界に達していた。毎夜、自分の生命力を極限まで削り、この土地の乾きを癒そうと龍神に祈り続けてきたからだ。
 彼女の肌は雪のように透き通り、指先はわずかな力で折れてしまいそうなほど震えている。


「私は逃げないわ。……私がいなくなることで、この国の怒りが静まり、邸下が安らげるのなら、それでいい。けれど、その前に……最後にもう一度だけ龍神様にお願いをしなければならないの」

「お願い……? そんな、ご自分のお体のことだけを考えてください!」

「雨よ。……あと少しだけ、私の命が灯っているのなら、それをすべて灯し尽くしてでも、この国を潤したいの。それが、この力を持って生まれた私の、最後の役目だから」


 瑞奈は、文箱の奥からボロボロになった婚礼時の髪飾りを取り出した。
 一度も夫の手で触れられることのなかった、悲しい約束の証。彼女はそれを大切に握りしめ、ふらつく足取りでゆっくりと立ち上がった。