連夜、煙の立ち込める中で祈祷が行われていた。しかし、供えられた牛や豚の血が虚しく乾くだけで、空はあざ笑うように一点の曇りも見せない。
その混沌の渦中で、朝廷の権力を掌握する金大監は、密かに不敵な笑みを浮かべていた。
彼は私邸の奥まった、陽の光も届かぬ薄暗い部屋で、一人の占い師と対峙していた。
三年前、瑞奈に“龍の血を枯らす”という偽りの託宣を下し、彼女を地獄へ突き落とした男だ。
「……機は熟したな。王様も、世子様も、もはや正気ではない。積み重なる民の怒りを逸らすための、都合のよい『生贄』を求めておられる」
金大監の真の狙いは政敵の一族である瑞奈をこの世から完全に排除し、自分の孫娘を新たな世子嬪の座に据えること。
そして、この未曾有の干ばつの責任をすべて呪われた世子嬪という個人に押し付けることにあった。
「まもなく、町中に噂を流せ。『静蓮閣の世子嬪が、離宮の池の底に禍々しい呪いの札を沈め、龍神の喉を絞め殺そうとしている』とな。雨が降らぬのは、あの女が王家の血を絶やし、国を滅ぼそうと夜な夜な呪詛を吐いているからだと……な」
その毒を含んだ噂は、風に乗って瞬く間に喉を枯らした民の間に広まった。
行き場のない絶望は、容易に激しい憎悪へと姿を変える。昨日まで「静蓮閣」に誰が住んでいるかさえ忘れていた人々が、今や「あの妖女を殺せ」「火にかけろ」と拳を突き上げ始めた。
一方、蒼龍宮では、潤が冷え切った執務室で一人頭を抱えていた。
彼の耳にも、瑞奈を糾弾する不穏な噂は届いていた。



