死んだはずの世子嬪は、すべてを知った夫に狂おしいほど愛される




 その時。
 離宮の古びた門の影に、ひとつの人影があった。

 現国王の世子であり、瑞奈の夫である潤である。
 彼は今、苛立っていた。国を覆う長引く日照りと、それによる民の暴動。重臣たちの権力争い。すべてがうまくいかない原因を、ふと思い出した呪いの根源にぶつけに来たのだ。

 惨めに這いつくばる彼女の姿を見て、罵声を浴びせ、追い詰めるつもりだった。

 しかし。


「……何だ、あれは」


 潤は思わず息を呑み、動けなくなった。

 青白い月の光を背に受け、泥の中で独り舞う女。
 汚れ一つない雪のような肌、夜風に舞う漆黒の髪。そして何より、慈愛に満ち、すべてを許すかのような、悲しいほどに美しい瞳。

 それは、彼が三年間想像し、憎み続けてきた醜い呪術師の姿では到底なかった。