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そして数ヶ月後。王宮を包む空気は、かつての刺々しさを微塵も感じさせないほど瑞々しく穏やかなものに変わっていた。
あの大雨以来、山々は緑を取り戻し、民の蔵には豊かな実りが約束された。人々は、静蓮閣にいた「真の守護者」の奇跡を聖母の伝説として噂されている。
今日は、瑞奈を再び世子嬪として正式に冊立し、その名誉を全土に宣言する儀式の日だ。
鏡の前で、まばゆい紅の唐衣に身を包んだ瑞奈は、背後から近づく潤に肩を抱かれる。
「……信じられません。私、本当に、あなたの隣にいても良いのでしょうか」
「信じられないのは私の方だ。……これほどまでに美しい妻を、私は三年間も暗闇に閉じ込めていたのかと」
潤は、かつて自分が投げ捨てたあのボロボロの婚礼の髪飾りを大切に絹の布に包み、懐に収めた。
「あの日の後悔は、一生私が背負っていく。二度とお前を泣かせぬよう、私の肌身離さず持っているつもりだ。……代わりに、今日はこの笑顔だけを見せてくれ」
二人が正殿へと続く大階段に現れると、集まった数千の臣下と民が一斉にお辞儀をした。
「世子嬪邸下、千歳、千歳、千々歳!」
その歓声は、かつて彼女に投げられた石の音を完全に消し去るほど、高く、遠くまで響き渡った。瑞奈は凛として前を見据えた。彼女の歩む道にはあの頃とは違い、色鮮やかな絹の絨毯が敷かれた。
その先には愛し合う夫と共に歩む、光輝く未来が待っているのだと信じることができていた。



