死んだはずの世子嬪は、すべてを知った夫に狂おしいほど愛される




 夜、月が中天に昇り王宮が深い眠りにつく頃。
 瑞奈は素足のまま、荒れ果てた庭へと出た。かつて蓮が咲いていたはずの池は、今や泥が乾ききり、ひび割れた大地がむき出しになっている。

 瑞奈は、擦り切れた白いチョゴリの裾を整え、その泥の淵に立った。
 彼女の家系は、表向きは没落した文官の家柄だったが、真の姿は代々「龍神の加護」を受け継ぎ、国の気を整える聖一族。
 その浄化の力は、汚れなき心を持つ娘にしか宿らない秘術であった。

 瑞奈がゆっくりと細い腕を上げると、夜の静寂の中に、どこからともなく鈴の音のような澄んだ響きが混じり始めた。

 彼女が舞い始める。履くべき靴など、もうとうに底が抜けている。鋭い小石が柔らかな足の裏を傷つけても、彼女の動きは水面を滑るようにしなやかで、見る者を圧倒する神々しさを放っていた。


(どうか、飢えた民に安らぎを。乾ききったこの大地に、命の雫を……)


 彼女が指先を天に向ければ、一瞬だけ、熱を帯びた夜風が涼やかな薫風へと変わる。
 瑞奈が祈る間だけは、腹を空かせた空腹も、凍える寒さも、最愛の夫となるはずだった男から向けられた憎悪の言葉も、すべて忘れることができた。

 彼女の足元からは、真珠のような微かな光が滴り、ひび割れた大地へと吸い込まれていく。

それは、瑞奈自身の生命力を削って大地に分け与える、身を挺した無償の祈りだった。