死んだはずの世子嬪は、すべてを知った夫に狂おしいほど愛される





 潤は、絶句した。
 彼女が、婚礼の日から三年。あの荒れ果てた静蓮閣で、腐った食事を投げつけられ、寒さに震えながら毎夜何をしていたのか。
 自分を「母殺し」と憎む夫のため、自分を「呪いの妖女」と蔑む国のため……自らの命を灯火のように少しずつ削り、大地に注ぎ続けていたのだ。



「……お前は、自分が死ぬと分かっていて、それでも舞ったのか」


 潤の声が、激しい後悔で震えた。


「なぜ、そこまで……! 私は、君に、絶望しか与えなかったというのに……っ」

「白蓮の一族は……いえ、特別な浄化の力を持つ巫女と呼ばれる娘は泥中にあっても汚れず、その身を挺して周囲を浄化します」


 瑞奈は、潤の濡れた瞳を真っ直ぐに見つめ、優しく微笑んだ。


「潤さま、泣かないでください。父曰く、私は初代巫女様の生まれ変わりだと聞きました。それと同じくらいの力があります。なのでこの浄化をするということは私が生まれた意味なのですよ。……そして、何より。この国には、潤様が、……夫となられるお方がおられたから。あなたを守りたかったのです」

「瑞奈……!」


 潤は、耐えきれず彼女を強く抱きしめた。
 そこにはもう、慎重な優しさはなかった。二度と離さない、誰にもこの命は奪わせないと決意し力を込める。


「もう二度と、……二度とその力は使わせない。そなたの命だけは私が地獄の果てまで守り抜く。白蓮の宿命など、私がこの手で断ち切ってみせる」

「で、ですが」

「そなたは、私の隣で笑っていてくれれば十分だ」



 数日後。潤は国中から最高の宝飾職人を集め、ある一つの装飾品を作らせていた。
 王家の龍紋と、白蓮の紋様を一つに統合した、かつてない意匠で完成したのは、一本の簪であった。

 素材は、稀少な白金と、最高級の白い翡翠。
 簪の頭には、大粒の翡翠で彫られた満開の白蓮がそしてその花を白金で作られた一頭の龍が、優しく、けれど絶対に離さないという意志を込めて抱きかかえるように巻き付いている。
 龍の眼には、瑞奈の瞳を模した澄んだ蒼玉が嵌められていた。


「白蓮が、自らを犠牲にする必要はない。これからは龍が、お前を守り抜く」


 潤はその簪を瑞奈の髪に差し込み、誓った。