死んだはずの世子嬪は、すべてを知った夫に狂おしいほど愛される




 誰も近づけない。近づくこともできない。

 その中心で、瑞奈は最後の一歩を力強く踏み出した。そして、天へと腕を突き上げる。



「……どうか。この命と引き換えに……慈悲の雨を」


 彼女の声が、掠れた。
 次の瞬間――空が真っ二つに裂けた。凄まじい轟音。

 そして、叩きつけるような、生命の重みを孕んだ大粒の雨。三ヶ月の間、一滴も降らなかった雨が乾ききった大地を打つ。

 人々は驚愕し、やがて歓喜の声を上げながら天を仰いだ。大地が、息を吹き返す音がした。



「……瑞奈!」


 潤は馬を飛び降り、走った。気がつけば泥を跳ね飛ばし、なりふり構わず彼女のもとへ駆けていた。

 糸が切れた人形のように、泥の中に倒れ込む彼女を、間一髪で抱き上げる。

 軽い。
 あまりにも、軽すぎる。