死んだはずの世子嬪は、すべてを知った夫に狂おしいほど愛される



 その場所は、王宮のきらびやかな喧騒から切り離された、忘れ去られた淵のようだった。

 名を【静蓮閣(ジョンリョンガク)】という。
 かつては池一面に美しい蓮が咲き誇り、歴代の王族が詩を詠み風流を楽しんだというその離宮は、今や見る影もない。

 手入れの途絶えた石畳の隙間からは醜い雑草が這い出し、かつて鮮やかだった建物の朱塗りの柱は、無残に剥げ落ちて灰色に煤けていた。

 そこに、この国の世子嬪――次期后となるべき至高の座にありながら、存在を消された女性、瑞奈(ソナ)が住まわされていた。


「……また、これだけですか」


 瑞奈は、目の前に置かれた粗末な小盤を見つめ静かに呟いた。
 運ばれてきたのは、芯の残った冷や飯と、塩辛すぎる干し魚の切れ端、そして具のない濁った汁物だけだ。およそ王族の食事とは程遠く、下働きですら口にしないような代物である。

 食事を運んできた尚宮は、瑞奈に対して一礼すら満足にせず、鼻で笑いながら背を向けた。


「お嫌でしたら、召し上がらなくとも結構ですよ。どうせ、誰も見てはおりませぬもの。国を滅ぼす呪われたお方に、これだけのお食事を用意するだけでも、こちらとしては相当な手間なのですから」


 乱暴に閉められた扉の音が、虚しく響く。
 瑞奈は反論しなかった。声を荒らげたところで、翌日の食事がさらに減らされ、仕えさせられている数少ない下女たちが八つ当たりされるだけだと知っていたからだ。