はなのゆめ

「少女のように素直なのか……それとも、」

 息をふくんだ太郎君の声が、艶をまとって囁いた。

「きみにとって私は、言葉を取り繕う必要などない、面白みのない男だってこと?」

 駒に伸ばした手を、ぴたりと止めた。于子は頬に上った熱を自覚しながら、せめて大人びた言葉を取り繕った。

「また……そんなことを仰って」

 動揺で舌足らずになった声は、あきらかに少女のものだった。于子が決まり悪さにうつむくなか、太郎君は明朗に笑って、于子の駒を目的の場所に動かした。なおも笑い続ける太郎君を恨めしく見つめると、太郎君は于子に賽ころの筒を差し出した。

「ほら、すまなかった。きみがもう一度振っていいよ。だから、どうか機嫌を直して」

「……子ども扱いなさらないでください」

 むうと口を尖らせたら、おっと……と恐れ入ったように、貴いひとは目を見ひらく。

 風が、緩やかに室内を吹き抜けた。

 ふ、と緩く笑った太郎君は、脇息のそばに置かれていた文箱から何かを取り出した。

「それなら……こちらを受け取っていただけますか。姫君?」

 差し出されたのは、桜の花びらの色をした匂い袋だった。

「ちょうど、きみに渡すつもりだった」

 太郎君の袖が揺れて、伽羅がふわりとあたりを満たした。高貴な甘い香りを吸いこんだ胸は、どくどくと忙しなく早鐘を打つ。

 ――もう、三年も前のこと。それでも目を瞑れば、あの香りを鮮明に思い出せる。空間を朗らかにふるわせた太郎君の笑い声も、自分の中にうるさいほどに響いた心音も。