く、と太郎君が肩をふるわせて笑った。その笑い声に弾かれたように、はっと気を持ち直す。
「し……失礼いたします……っ」
母にきつく叱られてしまうような足音を立てながら、于子は足早に太郎君のもとから逃げ去った。西の対を離れ、桜の木のそばの透渡殿でようやくひとつ息を吐く。高欄に手をついて、薄い色合いの花びらが舞う空を見上げ、小刻みにふるえる指で髪の束を掬う。
――ものがたりの中の、公達みたい。
掬った髪の束を耳に掛ける。耳挟みははしたないと母によく叱られていた髪型だけれども、そんなことを気にしている余裕はなかった。だって、胸を満たした伽羅がまだ、身体の芯に残っているみたい。どきどきと変なふうに胸が上下して、痛いような、苦しいような、そんな感覚が身体の隅々にまでひろがる。衣の合わせをてのひらで押さえて、于子はたどたどしく息を吸った。浅くなった息は未だ整わない。
多くの公達や女君が集う宮中では、こんな、ものがたりのようなやりとりが絶えず行われているのだろうか。
きっとそうだわ、と于子は思った。そして宮中の女君たちは、ものがたりの中の姫君のように、気の利いた和歌なんかを詠んでいるのだろう。
だとしたら自分は、何と無粋な姿をさらしてしまったのだろうと今更ながら思い至り、肩を落としながら、右近が待っている北の対まで戻った。
「し……失礼いたします……っ」
母にきつく叱られてしまうような足音を立てながら、于子は足早に太郎君のもとから逃げ去った。西の対を離れ、桜の木のそばの透渡殿でようやくひとつ息を吐く。高欄に手をついて、薄い色合いの花びらが舞う空を見上げ、小刻みにふるえる指で髪の束を掬う。
――ものがたりの中の、公達みたい。
掬った髪の束を耳に掛ける。耳挟みははしたないと母によく叱られていた髪型だけれども、そんなことを気にしている余裕はなかった。だって、胸を満たした伽羅がまだ、身体の芯に残っているみたい。どきどきと変なふうに胸が上下して、痛いような、苦しいような、そんな感覚が身体の隅々にまでひろがる。衣の合わせをてのひらで押さえて、于子はたどたどしく息を吸った。浅くなった息は未だ整わない。
多くの公達や女君が集う宮中では、こんな、ものがたりのようなやりとりが絶えず行われているのだろうか。
きっとそうだわ、と于子は思った。そして宮中の女君たちは、ものがたりの中の姫君のように、気の利いた和歌なんかを詠んでいるのだろう。
だとしたら自分は、何と無粋な姿をさらしてしまったのだろうと今更ながら思い至り、肩を落としながら、右近が待っている北の対まで戻った。
