「……嬉しい?」
聞いたことのない低い声がそう問うた。太郎君の声だった。心がまったく読めない声に、どこか空恐ろしさを感じた。動揺しながらも、それでも不格好に笑み、于子はたどたどしく言葉を紡ぐ。
「互いの家のためだけに結婚するのだと思っておりました。わたくしの家は高貴な家とのつながりを求めて……あちらは、父が蓄えている財を求めている。けれども、兵衛佐様はそれだけではなかったのなら、わたくしは、随分冷たい女だと思いました」
「だから、きみは結婚するというの?」
だから、とはどういうことだろう。判らないまま、「お断りする理由がございませんので」と于子は答えた。途端に、太郎君の瞳が歪む。
「どうして、取り次いだのがきみだったのだろう」
「え、」
「きみは……随分大人になったね」
先程よりもいっそう低い声がそう囁いたかと思うと、目の前の景色がまたたく間に反転した。ゆらり、と燈台の火が揺れる。伽羅が身体を絡めとる。
聞いたことのない低い声がそう問うた。太郎君の声だった。心がまったく読めない声に、どこか空恐ろしさを感じた。動揺しながらも、それでも不格好に笑み、于子はたどたどしく言葉を紡ぐ。
「互いの家のためだけに結婚するのだと思っておりました。わたくしの家は高貴な家とのつながりを求めて……あちらは、父が蓄えている財を求めている。けれども、兵衛佐様はそれだけではなかったのなら、わたくしは、随分冷たい女だと思いました」
「だから、きみは結婚するというの?」
だから、とはどういうことだろう。判らないまま、「お断りする理由がございませんので」と于子は答えた。途端に、太郎君の瞳が歪む。
「どうして、取り次いだのがきみだったのだろう」
「え、」
「きみは……随分大人になったね」
先程よりもいっそう低い声がそう囁いたかと思うと、目の前の景色がまたたく間に反転した。ゆらり、と燈台の火が揺れる。伽羅が身体を絡めとる。
