* * *
――どうして。
月影に白く浮かび上がる簀子に、花びらがひとつ、ふたつ。見上げれば、細く伸びた枝の先に、鈴のようにその身を固く閉ざしたつぼみがあった。つぼみを辿って、端から端まで眼差しを流せば、柔らかに綻んだ花びらが枝陰に隠れるように佇んでいた。ようやく咲いたばかりだろうに、もう散ってしまったのか。よのなかにたえてさくらのなかりせば、と彼の歌人は美しい花が散ることを嘆いたけれども、初めから何もなかったのなら、この胸をきりきりと締めつけるものに、眩暈がするほど強く目を瞑ることはなかったのか。
三月ぶりに京に戻った父に呼び出され、あるいはと思っていたことをまさに告げられた。ひとひらの花びらのような願いは儚く散った。これでようやく、観念することができるのだろうと思った。
香りの失せた匂い袋を後生大事に握りしめて、朝を待つ夜を正しく終わらせられると思った。
それなのに、今夜も匂い袋をきつく握って、明けぬ夜を過ごしている。
――太郎君。
強く瞑った瞼の闇に、美しい微笑を思い浮かべる。
藤原北家嫡流、左大臣が嫡男、正二位権大納言。同じ藤原の氏を持てど、遙か雲の上のひと。
あのお方の優しさに、それを忘れていた自分がいけないのだ。
