太郎君は膝に衣を置いて、いちばん上の一枚を取り上げる。伏せた目が、おもむろに縫い目を辿った。
「相変わらず、上手いね」
「ありがとうございます」
きしんだ音を立て続ける心を身体の奥に隠し、于子は微笑む。太郎君が衣から眼差しを上げた。瞳と瞳が重なった。于子は何かを言おうとした。けれども、何も言うことができなかった。この後はどうしたら良いのか、瞳を逸らしたほうが良いのかすらも判らず、于子はただ黙り込む。
「結婚するの?」
黙を破ったのは太郎君の問いだった。身体の前で重ねた手に力が籠る。はい、と于子は頷いた。瞳をまっすぐに見つめたまま頷いた。
「源の兵衛佐殿と聞いたけど」
はい、と于子はまた頷いた。
「兵衛佐殿と、先日内裏で会って話したんだ。私を訪ねてきたあちらを、きみが取り次いだらしい。春の花のように愛らしい姫君だから、ぜひ妻に迎えたいと思ったそうだよ」
その言葉を聞いて、于子はわずかに目を見ひらく。
「そう……なのですね」
重ねた手に籠る力が、ふっと緩んだ。結婚するひとは顔を知らない。言葉も文も交わしたことがない。それでもあちらは、于子のことを何も知らなかったわけではなかったのか。
いつかお目にかかったわたくしのことを覚えていて――その上で、わたくしを妻に迎えたいと思ってくださったの?
張りつめた心が不意にほぐれて、つられて表情もほんの少しだけ緩むのが判った。それを自覚した次の途端だった。
「相変わらず、上手いね」
「ありがとうございます」
きしんだ音を立て続ける心を身体の奥に隠し、于子は微笑む。太郎君が衣から眼差しを上げた。瞳と瞳が重なった。于子は何かを言おうとした。けれども、何も言うことができなかった。この後はどうしたら良いのか、瞳を逸らしたほうが良いのかすらも判らず、于子はただ黙り込む。
「結婚するの?」
黙を破ったのは太郎君の問いだった。身体の前で重ねた手に力が籠る。はい、と于子は頷いた。瞳をまっすぐに見つめたまま頷いた。
「源の兵衛佐殿と聞いたけど」
はい、と于子はまた頷いた。
「兵衛佐殿と、先日内裏で会って話したんだ。私を訪ねてきたあちらを、きみが取り次いだらしい。春の花のように愛らしい姫君だから、ぜひ妻に迎えたいと思ったそうだよ」
その言葉を聞いて、于子はわずかに目を見ひらく。
「そう……なのですね」
重ねた手に籠る力が、ふっと緩んだ。結婚するひとは顔を知らない。言葉も文も交わしたことがない。それでもあちらは、于子のことを何も知らなかったわけではなかったのか。
いつかお目にかかったわたくしのことを覚えていて――その上で、わたくしを妻に迎えたいと思ってくださったの?
張りつめた心が不意にほぐれて、つられて表情もほんの少しだけ緩むのが判った。それを自覚した次の途端だった。
