はなのゆめ

     *        *         *

 四年の間に、縫物の腕はさらに上がった。上手いと言われる縫い目の美しさはそのままに、昔は三日かかった仕事を、今は一日でできる。数えきれないほど布に針を刺し、糸を針に巻き付ける。針を抜いて、糸を切る。そうして、美しい布は美しい衣となった。

 外を見ると、あけ放した半蔀から覗く空は茜色に染まっていた。出来上がった衣をそれぞれ丁寧に畳んで、ひとつ、ふたつ、まばたきをする。太郎君が邸に戻っているのは知っている。けれども匂い袋を握りしめたまま、なかなか心が定まらなくて、于子は空を見つめ続けた。

 決心したのは、茜色が深い藍色に変わった頃だった。于子は匂い袋を胸の合わせに仕舞い、静かに衣を持ち上げる。

 日が落ちても風は温く、夏が近づいてきていることを思わせる。釣灯籠の火に照らされて白く浮かび上がる簀子を進み、西の対の奥へ向かった。母屋の手前で膝をつき、声を掛けた。「どうぞ」という返事を聞いて中へ入る。ふわり、と伽羅が香った。

「桜」

 文台に向かっていた太郎君がこちらを振り返った。高貴で儚げな笑みが燈台の炎を受けてゆらりと揺れ、よりいっそう儚げに見える。于子の身体の中で、ぴしりと心が音を立てる。

「御衣が出来上がりましたので、お持ちいたしました」

 内心の動揺を気取られぬよう、努めて平坦な声で言った。

「ああ、……ありがとう」
 伸ばされた腕に衣を渡す。まばたきをするくらいの間、自分の指が太郎君の指に触れた。なよやかだと思っていた指は、于子の指よりもずっと太く骨っぽかった。