はなのゆめ


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 帝の妹宮が太郎君に降嫁することが決まったのは、二月前。真白き空からちらちらと雪が散る頃だった。誰より貴い妻を得るという貴族としての誉に、左大臣邸は色めき立つ。その中で、于子の心は地面に降り積もった雪のように、しんと静かに冷たくなった。けれどもすぐに思い直す。自分はいったい何を思ったのか。他でもない太郎君の慶び事だというのに。

 このたびは、おめでとうございます。

 ああ、ありがとう、と太郎君は薄いくちびるを緩めて笑った。高貴な微笑だった。いつもと同じ穏やかな声だった。穏やかな眼差しもいつもと同じ。

 儚げで優しい、高貴な微笑が瞳に映ったとき、まるで鋭い氷柱に切り裂かれたように、心が引き攣れた叫び声を上げた。

 そのときに判ったのだ。自分が、随分けしからぬ女房なのだと。

 自分が抱くにはふさわしくない思いが、心の中にあることは知っていた。それであっても、きちんと弁えているつもりでいたのに。それはほんの少し、心の端に芽生えたばかりのものにすぎない。細い指で容易く手折ることのできるくらいのものだ、と。

 けれどもそれは、細く儚い枝のままでとどまれてはいなかった。いつのまにか心の隅々にまで根を張って、容易くは抜けない太い幹となっていた。今になっていくら必死で枝を手折ろうと、幹が枯れないならば、それは決して無くならない。