「優しい嘘で、私は振られた」

「……で」

 少しの沈黙のあと、彼が口を開く。

「これ、どうすんの」

「……なにが」

「今の」

 さっきのやり取り。

 告白。

 両想い。

 全部。

「……どうって」

 急に現実に引き戻される。

 確かに。

 気持ちは伝えた。

 返事ももらった。

 でも――

「……付き合うの?」

 小さく聞く。

「普通そうだろ」

 即答。

 迷いなし。

「……だよね」

 分かってる。

 でも。

 少しだけ、怖い。

「なに」

 彼が少しだけ覗き込む。

「……いや」

「なんか、実感なくて」

「まぁ分かる」

 あっさり頷く。

「さっきまで避けられてたし」

「……それは」

 言葉に詰まる。

「まぁいいけど」

 軽く言う。

 でも。

 その目は、少しだけ優しい。

「で」

 また、少しだけ距離が縮まる。

「どうする」

 逃げ場、なし。

「……付き合う」

 小さく言う。

「うん」

 短く返される。

「じゃあ決定」

 あまりにもあっさりしていて、少しだけ拍子抜けする。

「……そんな軽く決めるの」

「重くしたい?」

「……いや」

「じゃあいいだろ」

 少しだけ笑う。

 その笑顔を見て、少しだけ力が抜ける。

「……うん」

 やっと、実感が少しだけ湧いてくる。

 ――付き合った。

 本当に。

「……」

「なに」

「……なんでもない」

 でも。

 次の瞬間。

「……じゃあ」

 彼が、少しだけ真面目な顔になる。

「約束な」

「……なに」

「もう逃げんな」

 まっすぐな目。

「何あっても」

「ちゃんと話せ」

 その言葉に、少しだけ胸が締まる。

「……うん」

 小さく頷く。

「お前も」

 続ける。

「思ってること、ちゃんと言え」

 ――あ。

 それは。

 ずっと、できなかったこと。

「……頑張る」

「頑張るじゃなくて、やる」

 即訂正。

「……やる」

「よし」

 少しだけ満足そうに頷く。

 そのやり取りが、少しだけおかしくて。

 小さく笑ってしまう。

「……なに」

「なんか」

 少しだけ顔を逸らす。

「普通だなって」

「普通だけど」

「でも、なんか」

 言葉がうまく出てこない。

「……よかった」

 やっと、それだけ言えた。

 彼が、少しだけ目を細める。

「……そっか」

 その声は、少しだけ柔らかかった。

 少しの沈黙。

 でも。

 嫌じゃない。

「……帰る?」

「帰る」

 並んで歩き出す。

 前と同じ道。

 でも。

 距離は、少しだけ違う。

 触れそうで、触れない。

 でも。

 前よりずっと、近い。

「……」

「……」

 無言。

 でも。

 気まずくない。

 そのとき。

「ねぇ」

 小さく呼ばれる。

「……なに」

「さっきの」

「……なに」

「未来の話」

 少しだけ、心臓が跳ねる。

「……うん」

「まだ信じてない部分ある」

「……は?」

「でも」

 続ける。

「どうでもいい」

 ――え。

「今がこうなら、それでいい」

 その言葉に。

 胸の奥が、じわっと温かくなる。

「……そっか」

「うん」

 少しだけ、安心する。

 未来がどうだったとしても。

 今は違う。

 それだけで、十分。

 そう思えた。

 そのとき。

 指先が、少しだけ触れる。

「……」

 一瞬だけ、止まる。

 でも。

 そのまま、離れなかった。

 ほんの少しだけ。

 指が、重なる。

「……」

「……」

 何も言わない。

 でも。

 それだけで、分かる。

 これは。

 ちゃんと、今の時間だって。