「優しい嘘で、私は振られた」

「一回、未来に行ったの」

 その言葉で、空気が止まる。

 彼は、何も言わない。

 ただ、じっとこっちを見ている。

 否定も、笑いもしない。

 それが逆に、怖い。

「……おかしいって思うよね」

 自分で言っておきながら、先に言う。

「でも、ほんとで」

 喉が乾く。

 でも、止めない。

 ここで止めたら、また同じになる。

「そのとき」

 息を吸う。

 震えそうになるのを、押さえて。

「私、あなたに告白したの」

 はっきりと言う。

 彼の表情が、わずかに動く。

 でも、口は開かない。

「屋上で」

「あの日と同じ場所で」

「そしたら――」

 一瞬、言葉が詰まる。

 でも。

「笑われた」

 静かに、言い切る。

 沈黙。

 長い沈黙。

 彼が、ゆっくり息を吐く。

「……それで?」

 短く言う。

「それで、終わり」

 小さく答える。

「だから、戻ってきて」

「同じことにならないように」

「距離、取った」

 全部、言った。

 隠してたこと。

 逃げてた理由。

 全部。

「……」

 彼は、まだ黙っている。

 何を考えてるか、分からない。

「……信じないよね」

 小さく言う。

 当たり前。

 こんなの。

「普通に考えて、意味分かんないし」

 苦笑する。

 自分でも思う。

 でも。

「……信じる」

 ――え。

 顔を上げる。

 彼が、まっすぐこっちを見ていた。

「……なんで」

 思わず聞く。

「分かんねーけど」

 少しだけ肩をすくめる。

「お前、そういう嘘つくタイプじゃないし」

 あっさり。

 でも。

 その言葉が、やけに重い。

「……でも」

「おかしいでしょ」

「おかしいよ」

 即答。

「でも、それで説明つくならそれでいい」

 その言い方に、少しだけ笑いそうになる。

 雑すぎる。

「……ほんとに?」

「ほんとに」

 迷いなし。

 胸の奥が、じわっと温かくなる。

「……じゃあ」

 少しだけ、声が震える。

「なんで、笑ったの」

 一番、聞きたかったこと。

 一番、怖かったこと。

 彼が、少しだけ目を細める。

「……それ」

 ゆっくりと、口を開く。

「俺じゃない」

 ――え。

「少なくとも」

 続ける。

「今の俺は、絶対そんなことしない」

 はっきりと。

 迷いなく。

「……でも」

「したんだよ」

 小さく言う。

「だから、怖くて」

 言葉が、少しだけ震える。

「……そっか」

 短く、返される。

 そのあと。

 一歩、近づく。

「じゃあさ」

 低く、でも優しい声。

「もう一回やってみろよ」

 ――え。

「今の俺に」

 距離が、近い。

 でも。

 さっきまでと違う。

 怖くない。

「同じ場所で」

 まっすぐな目。

 逃げない。

「同じこと」

 心臓が、強く鳴る。

「……無理」

 すぐに言う。

「なんで」

「怖いから」

 正直に言う。

 彼が、少しだけ息を吐く。

「……じゃあ」

 少しだけ、考えてから。

「場所は変えていい」

「今ここでいい」

 逃げ道、なし。

「それで」

「もし、同じことになったら」

 少しだけ、真剣な声。

「そのときは、諦めろ」

 ――っ。

「でも」

 続ける。

「違ったら」

 一歩、さらに近づく。

「もう逃げんな」

 まっすぐ。

 はっきり。

「ちゃんと向き合え」

 その言葉に、胸が強く揺れる。

「……」

 逃げたい。

 でも。

 逃げたくない。

 ここで決めないと。

 また、同じになる。

「……分かった」

 小さく頷く。

 彼が、少しだけ目を細める。

「いいよ」

「じゃあ、どうぞ」

 軽く言う。

 でも。

 その目は、真剣。

 逃げ場、なし。

「……」

 息を吸う。

 震える。

 でも。

「……好き」

 小さく言う。

 心臓が、壊れそうなくらい鳴る。

 数秒の沈黙。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 でも。

「……知ってる」

 ――え。

 顔を上げる。

 彼が、少しだけ笑っていた。

 でも。

 前みたいな、軽い笑いじゃない。

「前からバレてたし」

 その言葉に、思考が止まる。

「……は?」