「優しい嘘で、私は振られた」

 放課後。

 チャイムが鳴ると同時に、私はすぐに席を立った。

 今日は、もう誰とも関わらない。

 そう決めて。

「ねぇ!」

 明るい声に、足が止まる。

 振り返ると、あの女子。

「一緒に帰らない?」

 にこっと笑う。

「ちょっと話したいことあってさ」

「……いいよ」

 断る理由もない。

 むしろ、断った方が不自然。

「やった」

 嬉しそうに笑う。

 そのまま並んで、教室を出る。

 校門を出て、少し歩いたところで。

「でさ」

 早速、話し始める。

「今日、結構いい感じだったんだよね」

 ――やっぱり、その話。

「……そうなんだ」

「うん」

 頷く。

「なんかさ、普通に話してくれるし」

「うん」

「思ってたより全然冷たくないし」

「うん」

 相槌しか出てこない。

 それ以上、何も言えない。

「ね、あの人ってさ」

 少しだけ声を落とす。

「好きな人とか、いないのかな」

 心臓が、ドクンと鳴る。

「……どうだろ」

「いると思う?」

「……知らない」

 それしか言えない。

 本当は――

 分かってたはずなのに。

 前の私は。

 でも今は。

 何も、分からない。

「……ねぇ」

 ふいに、足が止まる。

 つられて、私も止まる。

「なんかさ」

 少しだけ、真剣な顔。

「やっぱ、まだ好きでしょ?」

 ――え。

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「……誰が」

「○○くんのこと」

 まっすぐ言われる。

 逃げ場、なし。

「……好きじゃない」

 すぐに答える。

 迷いなく。

「ほんとに?」

「ほんと」

 言い切る。

 それしか、できないから。

「……ふーん」

 少しだけ、考えるような顔。

 そして。

「じゃあいいや」

 あっさりと言う。

「安心した」

 ――え。

「だって、かぶってたらやりにくいし」

 にこっと笑う。

 悪気、ゼロ。

 でも。

 その言葉が、やけに刺さる。

「……かぶってないよ」

 小さく言う。

「そっか」

 満足そうに頷く。

「じゃあ遠慮なくいくね」

 その一言に、胸がぎゅっと締まる。

 遠慮なく。

 そうだよね。

 遠慮する理由なんて、ない。

 私はもう――

 関係ないんだから。

 別れたあと。

 一人で歩く帰り道。

「……はぁ」

 大きく息を吐く。

 疲れた。

 なんか、すごく。

「……関係ない」

 小さく呟く。

 そう。

 関係ない。

 もう、何も。

 あの人が誰と話そうと。

 誰を好きになろうと。

 全部。

「……関係ない」

 もう一度、言う。

 自分に言い聞かせるみたいに。

 でも。

 頭に浮かぶのは、昼の光景。

 楽しそうに話してた顔。

 近い距離。

 笑い声。

 全部。

「……っ」

 胸が、痛い。

 なんで。

 どうでもいいはずなのに。

 関係ないはずなのに。

 家に帰って、ベッドに倒れ込む。

 天井を見上げる。

「……最悪」

 ぽつりと呟く。

 気づいてしまった。

 認めたくなかったのに。

 ずっと、無視してきたのに。

 でも、もう無理。

 ――全然、どうでもよくない。

「……好きじゃない」

 小さく言う。

 でも、その言葉は。

 全然、説得力がない。

 だって。

 こんなに、苦しいのに。

 こんなに、気になるのに。

 こんなに――

 そのとき。

 スマホが震えた。

 画面を見る。

 ――彼から。

 一瞬、心臓が跳ねる。

 でも。

 すぐに、目を逸らす。

「……見ない」

 小さく呟く。

 見たら、終わる。

 また、戻ってしまう。

 あの頃に。

 でも。

 手が、勝手に動く。

 画面を、開く。

『今日さ』

 たった、それだけ。

 続きはない。

 それだけなのに。

 胸が、ざわざわする。

「……なに」

 小さく呟く。

 意味が分からない。

 なんで送ってくるの。

 さっき、あの子と話してたじゃん。

 楽しそうに。

 返信、する?

 しない?

 迷う。

 でも。

 結局――

『なに』

 短く、返してしまった。

 数秒後。

『なんでもない』

 ――は?

「……なにそれ」

 思わず声が出る。

 意味分からない。

 じゃあなんで送ってきたの。

 そのとき。

 また通知。

『明日、話す』

 ――え。

 それだけ。

 それだけ送られてきて。

 既読もつけずに、終わった。

「……なにそれ」

 もう一度、呟く。

 意味が分からない。

 でも。

 なぜか、分かる。

 ――明日、何かが起きる。

 そんな予感だけが、胸に残った。