その日、私はカイルを連れてウルバリスの城下町に来ていた。
予想以上に騒がしく賑わった町に、馬車から降りた瞬間、あっけにとられてしまったのは内緒。
石畳の道を行き交う人々。
人と獣人が混ざり合いながらも、どこか緊張を孕んだ空気。
市場では肉の匂いと香辛料の香りが入り混じり、活気があるはずなのに、時折ふと、ざわりとした違和感が走る。
それは“気配”だった。
「……濃い、わね」
私はハンカチーフを口元に宛て、小さく呟いた。
この国に満ちているもの。
それは理性ではない。秩序でもない。
――“番”への渇望。
特に今はおそらく発情期。
普段よりよっぽど理性が消えている時期、というわけだ。
「大丈夫ですか、クリスティ様」
隣を歩くカイルがさりげなく周囲を警戒しながら訪ねる。
「ん? ええ大丈夫。むしろ面白いわ」
いや、面白い、というのもあれなんだけれど、人間にはないその衝動が興味深いのは確か。
狂気じみているというのに、同時に、あまりにも純粋なんだもの。
番を求める、その強い衝動が。
「ここまで“本能”に支配された社会は初めて見るもの」
「……誇れることではありませんが」
カイルが呆れたように言うけれど、しっかりと私から離れまいと距離を詰める。
最近カイルは私に対してかなり気を許してくれているように思うけれど、どうにも少し過保護になった気がしてならない。
「ねぇカイル、近い」
「このくらいでちょうどいいんです」
「いやすっごい近いから。ぶつかるわよ?」
「避けるので大丈夫です」
避けるんかい。
にしても、本当に近いし過保護。
最近は本当にどこにいくにもついてくるし、食事だって必ず自分が毒味をするようになった。
曰く、屋敷の人間は信用できないから、と。
それでカイルに何かあったらどうするのかと前に聞いたけれど、毒体勢は出来ている、とかなんとかものすごく物騒な発言をしてから、私が何か言うのは諦めた。
「ふふ。本能に従うこと自体は悪いことじゃないわ。ただ──」
私はふと、視線を遠くに向ける。
「制御できないのは、欠陥よね」
そうつぶやいた、その瞬間だった。
──ドォォォオンッ!!
突然、通りの奥で大きな衝突音が響いた。



