ディリート うその世界で それでも僕達は生きていた

俺はついこの間まで大学の3年生だった。
この学校に通っていた訳では無いけれど、どこの大学も講義の受け方は大体一緒。
最近の俺の日課は、講義に潜り込んで四温と一緒に授業を受けたり、3年生の専門科目を覗きに行ったりする事。
部屋に1人でいてもつまらないし、やっぱり元は大学生だったわけで。
どこかで繋がっていたいって言う思いがあるんだと思う。
四温の友達とも普通に立ち話くらいは出来る様になってきた。

午前の授業を終えて俺と四温はキャンパスの小道を歩いていた。

プルルルル,プルルルル

四温のスマホが鳴った。

「もしもし、お母さん、どーしたの?
うん、お姉ちゃん…別に何も聞いてないけど。
そうなんだ、わかった。うん、後で電話してみるよ、
じゃあね。」

「なに?お母さんからの電話?」
「うん、今度お姉ちゃんが友達と一緒に東京に来るみたいなんだけど、土地勘がないから、どの順番で回っていいのか分からないらしいって。
お姉ちゃんからなんか連絡あった?って言うから」

「そうか…お姉さんいたんだ」
「お父さん、お母さん、お姉ちゃん、僕の4人家族だよ。話してなかったか〜」
「仲がいいんだな」
「普通だよ。普通」

その時後ろから俺達の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「おーーい、四温、律さーん、これから食堂で昼飯食べるんだけど、一緒に行かない?まだ食べてないでしょ〜?」

最近話すようになった小野くんと亮だった。
四温が俺の方をチラッと見たのに気付いた。

「あぁーっ、そうだなぁ。でも一旦部屋に戻って、昼ご飯食べてこようかなぁ〜」

「四温は皆んなと昼ご飯、食べにいけよ。
俺は……調べたい事があるから先に帰るよ。じゃあな」

「えっ、そうなの?
残念だなぁ〜。
じゃあ四温、俺達はお言葉に甘えて……。
律さん、また今度いきましょうー。
四温、行こうぜ。ご飯〜ご飯、何食べる?」
「えっ,ちょ、律」
四温はこっちを気にしている様に思えたが、俺は振り返らずに手を振った。

まっすぐアパートに戻る気にはなれなかった。
俺は大学の中庭を通り過ぎて、移動範囲内でバッテリーの消耗が少ない所はどこかなぁ?などと考えながら歩いていた。
その時四温と古着屋に行った帰りに立ち寄った、公園の事を思い出した。
ちょっとだけ公園に寄って行こうかなぁ…。

平日の昼の時間帯に人はほとんどいなかった。
四温と一緒に座ったベンチに腰掛けてみる。

夏のむわんとした風が頬に当たる。

母さんかぁ〜
今どうしてるのかなあ?
父さん、今日も仕事で遅いのかなあ。
弟、あいつちゃんと勉強やってんのかな?
俺…俺の部屋はまだあるのかなー。
もし今、家に帰れたとして、、、
仏壇に俺の写真が飾ってあったりとか…するのかなあ?
お墓…
お墓に俺の名前が掘ってあったりとか・・・。
あぁーーーっ
家には帰ってみたいけど、考えれば考えるほど怖くて帰れない。

あの日、車のライトが目の前に迫ってきた。そこで俺の記憶は途切れている。


俺、どうしたらいいんだろうー。
もうあれから2ヶ月もたってるんだぞ。
この体のまま会いに行ったとして、いや会いに行けたとして、なんて説明したらいい??
問題が山積みで頭を抱える事しか出来ない。

パラパラパラパラ

「あれ…雨?」
俺、どれくらいここにいたんだろう。
辺りを見回した。
「とりあえず、あのキノコの家で雨宿りでもしようかなぁ」
西の空はそんなに暗くない。すぐ止むといいなぁ。



僕は今、友達の小野っちと亮と一緒に大学の食堂でご飯を食べている。
律のなんだか寂しげな…思いにふけるような、あの顔が気になって仕方がない。

律、どっかに行っちゃわないかなぁ?
ちゃんと部屋に戻ってるかなぁ?
小野っちに話しかけられても、話が全然頭に入ってこない。
「なんだよ四温〜、食欲ないのか?」
「別に・・・」
「亮〜お前、課題は提出したのか?」
「したよー。あの教授、結構厳しいからさぁ」
「次の授業ってその教授じゃね?」
「そうそう、あの人って必ず出席取るからさぁー、遅刻できないんだよなぁ。そろそろ行こうか」
立ち上がる亮に続いて、僕達も一緒に食堂を出た。


「僕、やっぱり帰ろうかな」
「帰るって…。家に帰るって事?次の授業出ないの?」
「うん、次の講義は余裕を持って受けてあるから1回位休んでも大丈夫なんだ。
それに、なんか心配なんだよね。あの顔がさぁ」
「あの顔??」
「僕、やっぱり帰るよ!じゃあね」
「お、おう、そうか、なんか良くわかんねーけど、気をつけて帰れよー」

僕は急いでアパートに戻った。

「律、ただいま」
急いで部屋のドアを開けた。
何の反応もない。
「あれ……律、いないの?」
どこを探しても律の姿は無い。
部屋にもお風呂にもトイレにも
こんな小さな空間で見つからないはずはない。

僕は慌てて部屋を飛び出した。

律、何処だよ?どこに行ったんだよー。
近くの神社や学校の裏も探しに行ったけど見つからない。
充電の減りはあまり気にならない程度。
そんなに遠くには行っていないはずだけど・・・

まさか、僕の嫌な予感が当たったりとか?
そんな事はない!黙って消えたりしない。
頭を横に振りながら、僕はまた走り出した。

ポツポツポツポツ
「あっ、雨…」

律が雨に当たり続けたら充電が消耗してしまうかもしれない。僕はスマホを確認してみた
充電はまだ80%ある。この近くにいるはず。とにかく早く律を見つけ出さなければ。
西の空はそんなに暗くない。
通り雨だといいなぁ。


「あれ?四温、どーした!」

キノコの家で雨が止むのを待っていた時、四温がずぶ濡れで俺の前に現れた。

「やっぱりここにいた。僕、探したんだよ。」
「探したって…俺を?」
「そうに決まってるだろう。部屋に戻ったら律がいないし。探し回っても全然見つからないし。
どこにいるんだろうって考えた時、もしかしたらここに居るんじゃないかって…そう思って」

「ごめん。ちょっと考え事がしたくって。気がついたら公園のベンチに座ってたんだよ。」
「考え事って何を?僕の前から消えちゃうって事?」
「そういう訳じゃなくて…」
「家族に会いたくなったとか、そー言う事?」
「うーん、そうだな…っていうか四温、お前、雨でずぶ濡れだぞ」

ハンカチで四温の濡れた頭を拭いた。
「どんだけ俺のこと探してくれたんだよ。髪が雨でビシャビシャだぞ。こんなに濡れたら風邪ひくぞ」
「律だって濡れてるよ」
「俺は少し濡れただけだから、それに俺は幽霊だから風邪なんてひかないし、、、。
四温は生きてるんだから…生きてるから風邪ひくだろ」

「お願いだから、急に僕の前から消えないでよ。
律がいなくなっちゃうんじゃないかって…僕不安で仕方がなかったんだ」


頭を拭いていた俺の手首を四温がぎゅっと握っている。

俺は小さく「うん」と頷いた。
「黙っていなくなったりしないよ。心配させてごめん」
「僕、律の事が・・・」
その続きが聞きたくて四温の顔を見ていたら、ある事に気が付いた。
「四温の瞳に俺の顔が映ってるよ」

俺は四温の唇に自分の唇を重ねた。

その時、俺の体に電流が流れるような衝撃を感じた。
でも今はただ四温を抱きしめ、キスをしていたい。
たとえ充電が50%を切ってしまったとしても。
キスを止める事は出来ない…そう思った。