四温の身体に触れた途端にスマホの充電が一気に減った。
出来なかった事が出来る…に変わる度に充電の消耗が激しくなる。
つまり『初めての経験をした時』にエネルギーが必要になるんだと思う。
カッコ良く言えば難易度が上がれば上がるほど俺の体に負荷がかかるって事なんだけど。
あと、びっくりした時とか。
体がビクってなると結構しんどいんだよなぁ。
部屋にいれば状態が安定しているからコツを掴めば、改善できるかもしれない。
実際練習をして、消耗を減らす事も出来ているし。
例えば手に触れるとか、肩にぶつかるとか。
でも心配な事があってーーーー。
体が動けなくなったり、苦しくなる時って大体充電が50%台まで減ってる時なんだよな。
スマホは充電が0%になったら充電切れで使えなくなるだろ。
俺の場合は、50%を切ったらそういう状態になるんじゃないのかって…。
50%未満になったら充電切れで俺の身体は消えてしまうかもしれない。
そんな仮説を俺と四温はたててるんだ。
じゃあ50%のラインってどこまでなんだって思わない?
大体の範囲を把握しておくって大切な事だよなぁ。
電波が届く範囲なら、俺1人で行動できるかもしれないし。
そこが知りたいって思ったんだ。
「充電は100%にしてきたから〜。
何もせずにただ歩いてるだけなら、学校までは電波の範囲内みたいだよ。ほとんど充電の減りがないから」
俺達は電波と充電の境界線をさぐる為、学校より遠くに出掛けてみることにした。
四温が側にいてくれて本当に心強い。
「そうかあ〜、殆ど減ってないか」
「学校まではそれ程減ってないけど、それ以上進んだらどーなるんだろうね?取り敢えず電車に乗って隣の街まで行ってみる?」
「うーーん、電車って混んでると人との接触が多いからなぁ。
このまま歩いて、いける所まで行ってみたいな」
「分かった、そうしようか」
俺達は右手に見えている駅を通りすぎてそのまま歩くことに決めた。
「ここまで来ると流石に充電が減り始めてるね。
学校までが範囲内って思っておけば安心なんじゃないかなぁー」
「そうだな、一人で歩くのは学校までにしておくよ」
少し歩いたら商店街が見えてきた。
「あっ、ここの古着屋さん、ちょっと覗いてみない?
こんな所にお店があるなんて知らなかったなぁ〜」
四温が指差したお店は古着屋というにはかなりセンスがいい様に思えた。
着古したと言うよりは、大切に着ていた服が売られていると言う感じ。
「うん、いいよ」
店内は俺達2人だけ。誰かとぶつかる心配も無さそう。
久しぶりに服を見ていたら、楽しかった俺の大学生活を思い出した。
「ねえ、このトレーナー可愛くない?このパンツと組み合わせたら凄くいいかも」
「あっ、本当だ。可愛いな」
アッシュ系のオーバーサイズのトレーナーに紺色のデニムパンツ。意外と合うもんなんだ。
「あっ、こっちのTシャツもいいかも〜」
俺は無邪気に笑う四温が可愛いな、、と思った。
本当なら俺より仲のいい友達と来た方が楽しかっただろうな…とも。
「僕と律の身長が同じくらいで良かったよ。
律がいつも僕の服を着てくからさぁ、服が足りなかったんだよね。これ共有しようよ」
「そっか、ごめんな四温。でも、ありがとう」
「何言ってんだよ。バイト代が入ったばっかりだから大丈夫だよ。会計してくるから外で待ってて」
「あっ、うん」
会計を済ませて四温が店から出てきた。
「お待たせ〜このお店、可愛い服が多かったね。また、来ようよ」
「そうだな、また来よう」
俺は四温の荷物を持とうとした。
「ダメだよー荷物なんて持っちゃ。充電が減っちゃうだろ?」
「でも部屋で物に触れる練習はしてたんだから、もしかしたらそんなに消耗しないかも…。
四温、充電の減りを確認してて」
「分かった」
スマホをポケットから取り出す。
俺はゆっくり四温の手から荷物を受け取った。
「あっ、なんか前より衝撃が走らないっていうか重くないって言うか…」
「本当に?充電の減りもそんなに激しくないよ!!
もしかして慣れてきてるとか?
だとしたらやれる事がどんどん増えていくかもしれないよ!」
そうだったらどんなにいいだろう。
少し商店街をブラブラしてから部屋に戻ることにした。
「疲れたから公園で少し休んでかない?」
「そうだな。いいよ」
「えっと、スマホの充電は…まだ72%もあるよ。これなら大丈夫だね。アパートまで余裕で帰れるよ」
「よいしょ」
公園のベンチに2人で腰掛けた。
葉っぱの匂いがする風が心地良い。
向こうの方にキノコの形をした休憩所が見えた。
「あっちにキノコの家があるよ。可愛いなぁ…
おとぎの国に出てきそうだね」
キノコの家か…なんとも四温らしい言い方だなぁ。
キノコの家は、房の部分がオレンジ色に塗られていて、白い水玉模様。男の目から見ても可愛いなぁと思えた。
「僕、ジュース買ってくるけど律は?」
「俺は喉とか渇かないから」
「そっか…じゃあ、ちょっと行ってくるね」
遊んでいる子供や犬の散歩をしている人達を眺めながら四温が戻ってくるのを待っていた。
「冷たいほうじ茶にした〜」
買ってきたペットボトルを見せながら、俺の横に座った。
「この冷たい感じ分かる?」
俺の頬に冷えたペットボトルをあててきた。
「冷た!」
その瞬間少しグワンと体が波打った様な感覚を覚えた。
「ごめん、律、大丈夫?」
「あっ、大丈夫だよ。ちょっとだけバグったみたいな感覚がしただけ…」
俺の様子を見て四温が慌ててスマホを取り出した。
「充電が65%に減ってるよ。冷たいって感覚があったんだね」
「そうか、どーなんだろう?でももう一回やる気はしないけどなあ」
「そうだね。無駄に充電使うだけだし。
生きてた頃の記憶がそーさせてるのかもしれないし。
今度からはモバイルバッテリーを持ち歩いた方がいいかもしれないなぁ」
四温が飲み残したペットボトルを鞄に仕舞いながら 立ち上がった。
「そろそろ帰ろうか」
「うん,今日は一緒に境界線を探してくれてありがとう。何事も無かったら、もう少し遠くまでいけそうだよなぁ。今日は楽しかったよ」
「僕も楽しかったし」
四温が照れ臭さそうに横を向いた。
ワンワンワンワンワン!
その時たまたま散歩をしていたワンコに四温が持っていた紙袋が当たってしまった。
今にも飛びかかりそうな勢いで吠えているー。
「うわっっ!!」
俺の体は一気にフリーズして、動かなくなった。
「律,大丈夫??大変だ!充電がもう55%しかないよ」
「マジでか……」
びっくりすると消耗が激しいのは分かってたけど。
身体を引きずる様にしてアパートに戻った。
バッテリー残量50%……
やっぱりここが、俺の生存できる境界線なのかも知れないな。
律がAIと同化してしまったのは僕のせいだ。
僕があんな画像を流していたから…。
少しの間だけこの世にさまよって、今頃天国に行っていたかもしれないのにー。そう思うと複雑な気持ちなる。
AIの体を手に入れたとしても、この状態をずっと維持するのは難しいだろうから。
もし充電が50%を切ってしまったら、律はこの世からいなくなってしまうんだろうか?
そしたらこの世に未練が残ってしまうのではないか・・・。
「AIから抜け出せる方法ってあるのかなぁ〜?
何か見つかればいいんだけど」
この時の僕は近い未来、幽霊に恋をするなんて思ってもいなかった。

