ディリート うその世界で それでも僕達は生きていた


「ねえ、ほんとにお腹も空かないし、喉も乾かないの?
匂いとかは分かるの?
お風呂には入らなくてもいいとか?
眠くはなるんだよね?
寝る時はどうするの?」
分からない事だらけで?(はてな)を取り除くことが難しい。

幽霊と生活を共にするなんて、小学生の僕が聞いたら悲鳴をあげただろう。


「とりあえず僕はベッドで寝るけど、律は下に布団を敷いてあげるよ」

律と同居する事になって、初めての夜を迎えようとしている。

でも話を聞く限り、律も気の毒ではあるんだよなぁ。
車に跳ねられて気がついたらこうやってさまよっていた
なんて・・・
自分の置かれた状況がまだよく把握できていないみたいだし。

歳だって、僕と1つしか変わらないんだよ。

でも、こっちだっていきなりの事で、怖さマックスだったんだから仕方ないよね?
初めて幽霊と『こんにちわ』した訳だし。
どんなヤツかも分からないんだから余計に恐怖だよ。

対策した事で幽霊とAIが同化するなんて夢にも思わなかったからそこんとこは責任は感じている。
充電が50%以上ないと不具合が起きそうなのもちょっと不安だし…。

こうやって一緒に住む事になった以上、僕なりに手助けはしてあげたい。

「なあ、ここに来る前って自由に移動とか出来たの?
壁をすり抜けてスーッってあっち側行くとか、
空を飛ぶとかさぁ」

「うーーーん、気が付いたら他の場所にいたって事はあるよ。
でも俺、まだ新人だからさあ。
若葉マークよ」

「若葉マークってなんだよ〜」

「だってそうだろ、ほんの数日前までは友達と遊びに行ってたくらいなんだから。
ベテランにでもなれば話は別だろうけど。
行きたいと思った所に瞬間移動できたりするのかもしれないよなぁ。
あーっ、でも やっぱりベテランにはなりたくないなぁ」
「ベテランってなんだよーっ、ただ言いたいだけじゃないの?」
「でもさ、やっと自分の置かれた立場を理解し始めたところでこの体よ。
どうなの?この状況は、、、ラッキーと言えばラッキーなのか?」

うーん、答えに困る。

「じゃあ、彼女とかはいたの?
家族は?何処に住んでたの?」

「彼女?いないよ。
いたこともあったけど、男友達とつるむことが多くて。
そうするとさ、私の事は大切じゃないの?ってすぐ振られちゃうんだよ」
「ありがちだなぁー(笑)

「家族は俺と母さんと親父と弟の4人家族。
出身は東京だよ。ずっと東京に住んでる。
ここも東京なんだよな?
自分がどこにいるのかも分からなかったから、帰るに帰れなかったんだけど。
冷静に考えたら、この体では帰れないよな?
もし俺がこの世にいなかったらって考えてみ。
あの時は気持ちが舞い上がってて家に帰れる〜って喜びで一杯だったけど、どうするかなぁ、これ」

「そっ、そうだね」

「四温は一人暮らし…って事は地方出身とか?」

「そうだよ。僕は名古屋出身。
でも、東京から名古屋までは新幹線で1時間半なんだよ。ただ、運賃は高いんだけど」

「名古屋だったのかぁー。
東京から名古屋だったら、名古屋を通り越して京都とか大阪だな。それかいっその事、博多まで行くかもな。
俺、京都なら旅行で行ったよ。
名古屋ってなんでか通過地点…?みたいな感じがするんだよなー。あんまり知らないかも」

「みんなそう言うんだよね。
おいしい物も沢山あって良い所なんだけど、やっぱり京都や大阪は強いかあー!
僕のお母さんなんて隣の岐阜県出身なんだけど、天下分け目の関ヶ原が岐阜にあるって知らない人が殆どなんだよ。日本人なら関ヶ原を知らない人なんていないんじゃないか…ってくらいなのにさぁ」

「悪い。俺も知らなかったよ」

「でしょうねー」

「そんな拗ねるなよ。なっ、名古屋はいい所だよ。そうだろ」

「なんか僕、慰められてるみたいな?」

「はははははははっ、そんなつもりは無かったんだけど。なんなんだよこの会話は〜〜」

思った以上に、律は気さくで話しやすい人なのかもしれない。
よかった〜。

ふと目をやった目覚まし時計は24時

「もう遅いし、そろそろ寝ようか。
ではでは、おやすみなさい。あっ、一言っておくけど寝込みを襲わないでよ」
布団に潜って天井を見た。

「誰がだよ。襲いません!本当は襲ってほしいとか?
でもさぁ、なんかこうやって四温と話てたら安心したぁ。俺も眠くなってきた気がするよ。これからも宜しくな。」
律が敷布団の上にゴロンと寝転がった。

ベットのすぐ下には律がいる・・・。

今どんな顔してるんだろう?
目を開けてるのかなぁ?それとも閉じてる?
ここからでは見えないなー。
寝顔にもちょっと興味が湧いてきたかも。
覗いてやろう〜〜(笑

クルッと体をひねって下を見た。
「ねぇ、律……おっ、うわっっつ!!」

ベッドの淵で滑ってバランスを崩してしまった。
下にズルっと滑り落ちたと思った瞬間、ギリギリの所で止まった。
セーフ!

あれ?律の顔が僕の目の前にー。


「おいおい、誰が寝込みを襲わないでだよ〜。
こっちが襲われてるって」
「違うよー。やめてくれよー。バランスを崩しただけだろう」
「そうかー?俺はてっきりキスして欲しくてわざとやったのかと思ったよ」
「はあーーー?んな訳…」
言い返そうと思ったけどやめた。
だって律が僕の返しを期待している様に思えたから。

ベッドとその下で、僕達はこんな初めての夜を過ごしたんだ。