ディリート うその世界で それでも僕達は生きていた

「一体どうなってるってだよぉ。あぁぁ〜〜もーーーっ
なんで僕があんなのに付き纏われなきゃいけないんだよ」
頭を掻きむしりながら嘆かずにはいられない!

「どうしよう〜まさか今晩こっそり僕の部屋に入ってきたりなんて…しないよね? えっ、 する?
いやいやいや、分かんないよ。なんたって相手は幽霊なんだから。
どうしよう…どうしたらいい?

そうだ、こういう時は親友であるAIのルルに相談してみよう!」

僕は自動販売機の前で一人の男性に声をかけられた。
まあ、最初に声をかけたのは僕なんだけど。
その人はじっとドリンクを眺めていたけど、全然ボタンを押さないから『なーんだ。見てるだけか』って思って先に買ってもいいですかって声をかけたんだ。

大学内にある自販機だから同じ大学の学生だって思うよね?

でもその人、何故か僕にしか見えなくて、しかも僕に話を聞いて欲しいってまとわりついて来て。

僕にしか見えないって時点でもう既にアウトだろ?
本当に話を聞くだけで済むなんて気がしない。
絶対なんかお願いしてくるつもりだよね
そんなの無理、無理、絶対むりーっ!


なんとかその場から逃げて来たけど、次に会った時は・・・
見た目は割と、イケメンで背の高い人だった。
物腰も柔らかそうだし生きていたら友達位にはなれたかもしれない。
でもそうじゃない、となったら話は別だよ。

僕はパソコンを開いた。
「ねえ、ルル、部屋に幽霊が出たら、僕を守ってくれる?」
どんなことにも優しく親切に答えてくれるルル。

「幽霊の科学的根拠はありませんが、この話は結構奥が深いです。」
ルルの声が耳の奥に響いた。

えっ?奥が深い…どう言う意味…

「脳が疲れているだけかもしれません。」
話を続けるルル。
いや、僕は実際に幽霊を見て、話もしたんだ。

「じゃぁさぁ、安心して眠れるようにするにはどうしたらいいかなぁ」
脳が疲れているだけって言うんだから、幽霊対策を聞いたところで納得のいく答えは出してくれないだろう。

「1人が心細いのであれば、人の画像を流してみては如何でしょうか。少し落ち着く事がありますよ」
あっ、それがいいかも!!って言うか、もうそれでいい!

たとえ気を紛らわすだけだとしても、なんとなくの安心感がある。

僕はパソコンにプロジェクトを取り付けて、壁に人の画像を映し出して眠ることにした。

画像はなんでもいいや〜。適当に背の高い男の人を選んでみた。

「明日も授業が早いんだから、早く眠らないと〜。
頼むからここにまで来ないでくれよ。幽霊君、、」
徐々に眠りに落ちていく僕。
その時は、そこに映る誰かが本当に安心出来る存在なのかを全く分かっていなかった。


深夜2時過ぎ、何やら黒い人影がゴソゴソ動きだしたかと思ったら、壁に映し出された画像の前で立ち止まった。

「ん?何なの?これ?」
映し出された人に興味を示すのは…そう、幽霊君の律

「これってもしかして〜俺対策とか?ボディガードのつもりかよー(笑)
こんなのが通用するって、、まさか本気で思ってないよな。子供かよぉー。」

壁には黒Tシャツにデニムパンツを履いた青年が映し出されていた。
俺は何故かその画像に興味が湧いた。
腕の線をそっとなぞってみる。
まさかだけど、この画像の中に入れたりして…
壁に映し出された手に自分の手を合わせてみた。
振り返って後ろのパソコンを見た瞬間、
グィンと引き込まれるような感覚がして、俺は画像の中に吸い込まれていった。


「ふわぁーよく眠たぁ」

僕は大きな伸びをしてベッドから起き上がった。

「おはよう、よく眠れたみたいだね」

突然の声に驚いて振り返った。
「おはようって言うか。なんでお前がここに居んの!」

「なんでって、そんな事はどーでもいいから、俺の体を触ってみてよ。俺、触れるんだよ。ほら」

「いやいやいや、いつの間に入って来たんだよ。
それはプライベートの侵害だろ?
僕の寝顔をずっと見てたとか?
違う!取り憑こうと思って僕の後を追ってきたんだぁ」

「いいから触って。って言ってるんだよ」
「えっーーー、なんで僕がそんな事」

ほらっ!!早く、と言わんばかりに腕を差し出してくるから仕方がない。
差し出された腕に恐る恐るふれてみた。

「えっ、なんで?本当に触ってる感覚があるんだけど」

「だろー。俺も信じられないよ!
昨日さあ、壁に映し出された人の画像に触れてみたんだよ。
そしたらその中に吸い込まれるみたいな感覚になって、、、。
気が付いたら朝になってたんだよな。
あれ、俺どうしたんだろう?って思って
なんとなくそこに置いてある鏡を見てたら俺が映ってるだろぉー。
二度見、いや三度見ぐらいしたね。

体だって空気の塊って言うのかなあ?風の塊って説明した方がわかりやすいかのか…とにかく触れたんだよ。
腕にふれてみたら感触がちゃんとあってさぁ、信じられないよーーっっ!

これってAIの器の中に入ったって考えたらいいのかな?
もしかしたら何かの偶然で同化しちゃったとか…。
テレビ番組でもゴーストには電磁波があるとかよく言うしさぁ、パソコンと俺の電磁波の波長があっちゃったとかなのか?
結局のところ俺も良く分かんないんだけど、これにプラス音声も手に入ってるとしたらー。

他の人にも俺の事が見えるし、話も出来るんじゃないかと思って!
今迄話しかけても誰も振り向いてくれなかったのに、もしそーだとしたら凄くない??」


「でもぉ〜そんな事本当に可能なのかなぁ…?」
「イヤ、わからない。俺だって初めての事なんだから。
取り敢えず一緒に大学に行って、他の人の反応を確かめたいんだけど。付き合って貰ってもいい?」

「あーーっ。そうだね〜って、
ちょっと待てーー、本気で言ってるの?」
「本気も本気、四温以外の人と話が出来たら俺の選択肢も増えるって事だろ〜、さあ行こうぜ」

「なんで僕がぁぁぁ」
何故か2人揃って大学に登校する羽目になってしまった。
「あーーーーーーーもう!!」


「おはようー、四温」
前から来た友達に声をかけられた。
「あっ、おはよう」

「四温、やっぱり俺…一人で大学の周りをぐるっと回ってくるよ」
僕にボソッと耳打ちをした。
友達を前にして幽霊君は少し不安を感じたのかもしれない。

「あっ、うん、じゃあ、また後で…」
「中庭のベンチで座ってるから授業が終わったら来て」
幽霊君はそう言い残すと一人で行ってしまった。


「なあ四温、あの人誰?」
「えっ、見えるの?」
「見えるのってバカにすんなよ。俺、視力1.5だぞ」
「あははは、ごめん、そーだよな。そうか…見えるんだ」
「で、誰なの?2年生ではないよな?」
「うん、たしか3年生の幽霊君」
「幽霊…??
「あっ、ごめん…えっとぉ南条 …そう南条 律」
「3年生かぁ、いつ知り合ったんだよ
「ははは、ほんの2〜3日前だよ」

幽霊君なんて呼んでたら変に思われるよな。なんて呼べばいい…南条さん、南条くん??僕の事はシオンって呼んでるよなぁ〜。
じゃあ、今度からは律、そう律って呼べばいいかー。
心の中で囁いた。

授業を終えて中庭のベンチに向かった。
「お腹減ったなぁ。もうすぐお昼だ」

幽霊君あらため律は、既にベンチに座って僕を待っていた。

「お待たせ、他の人の反応はどんな感じだった?」

「うん、みんなに俺の事が見えてるみたいで、前に立ったらちゃんと避けてもらえたよ!!
すいませんって声をかけたら振り向いて貰えたし。

俺の本当の体は何処にあるのかって言う不安はあるけど、これで一旦、家に帰れるかもしれない。ありがとうな四温」

「いやいや、そんなぁ〜。さっき会った僕の友達も、律の事がちゃんと見えてたよ。
一刻も早く家に帰って、家族を安心させてあげてよ。
あっ、律って呼んでも良かったかな。」
「勿論だよー。本当にありがとう」
「気にしなくってもいいから、早く家に・・」

律が僕の肩を抱き寄せようと手を置いたその瞬間

「あれ??体が変…動かない…」
「えっ、どーしたの?」
「お…お…かし…いなぁ、、体の動きが…急に悪くなって」
「動かないってどー言う事?もしかしたら、パソコン?電波?とか…まさか、バグってる??」
「四温、パソコンとスマホって…連動してる?」
「してるよ」
「ちょっと…スマホを出して…画面みてくれる?」
「うん、出したよ」
「因みになんか変わった…とこある?いつもと違う…みたいな」
「えーっ、何処だろ?いつもと違うって、、
あっ、もしかしてこれか? 充電が……」
「充電が…何?今何パーあるの?」
「うわっ!今、58%だ!今朝充電したばっかりだから100%だったのに」
「それかも・・・」
明らかに充電の減りが異常だ。
「今、四温に触れた途端に体が重くなって…動きが…鈍い。取り敢えず四温のアパートに…戻りたい」
「うん、分かった」
急いで部屋に戻ったらさっきまでの事が嘘みたいに律が元気に動き回ってる。
やっぱりパソコンの電波と充電に、なにか関係があるのは間違いなさそう。

「アパートから学校までの距離は問題ないと思うんだ。普通に歩いて来たし。

僕の体に触れた途端に調子が悪くなったのに、この部屋に戻ってきたら自由に動き回れる様になったって事は〜もしかしたらパソコンにコンセントが刺さったままだからかも?
生存状態が安定しているからかもしれないよ」

なんとなくの僕の仮説。

「もしかしたら人に触れると充電の消耗が激しいとか?・・・なぁ、今度一緒に探ってくれないかなぁ。
俺1人ではどーにもならないよ。な、頼む!

お願いついでに暫くここに俺を置いてくれないかなあ〜」
手を合わせながら様子を伺う様に、こちらをチラッと見てる。

「なっ、なんでだよ!イヤだよ!僕は関係ないだろ。
それに、男の人と一緒に住むとか、そんなの考えられないよ」
「なあ、そう言わずに〜、
腹も空かないし、喉も渇かない。そこらへんの迷惑はかけないから。
こんな可哀想な俺を見捨てるとか?ありえないよな…
そもそもお前のパソコン?AIが悪いんだし。それとも俺に化けて出られたいわけ??
呪っちゃうかもしれないよ〜。おれは幽霊なんだし」
これでもかって顔をして僕を挑発している…つもりなのかな?

「もうーーなんだよ、分かったよ。いいよって言えばいいんだろう〜」
「ありがとう。本当にありがとう、感謝するよ」
律が僕を抱きしめた。
その瞬間ハッとして、体を離した。
コンセントが繋がっているからか不具合は起きない。
この部屋なら少しずつ人と触れ合う事に慣れていけるのかもしれない。


そう、ここからが律(幽霊)と僕との共同生活の始まり、はじまり〜。