「東京って言っても、都心までは電車で1時間位かかるし、少し外れた場所だからさ。
最寄駅から15分位歩くかな。
母さんは昼間の仕事をしていて帰りが大体15時位、父さんは毎日仕事で遅いし、弟も帰ってくるのは大抵17時すぎ。
やっぱり、母さんだけが家に居る時間帯に行った方がいいと思うんだ…。
俺の友達だって言えば家にあげてくれるはずだから。
明日は15時半ごろに着くようにアパートを出ることにしようか」
「分かった。それがいいかも」
「俺も一緒について行くから大丈夫だよ。
家の中には四温一人で行ってもらわないとダメだけど。」
「うん、分かってる・・いよいよこれでハッキリするね」
「そうだな」
律の家は東京郊外にある。
以前2人で行った古着屋のそばに小さな駅があって…
まぁ〜小さな駅とは言っても何本かの線が通っていて、都心に行くにも郊外に行くにしてもそこそこアクセスがいい。
今迄は学校とバイトの往復で、そんな駅があるなんて知らなかった。
勿体ない事してたかも〜。
ここからなら律の家まで1本で行けるらしい。
いよいよ明日、律の家に行ってお母さんに話しを聞く。
なんだかドキドキするなぁ。
僕は明日に備えて、買い込んだバッテリーをカバンに詰め込んでいた。
「四温、なにそれ?、なに入れてるの?」
「これ?バッテリーだよ。何かあったら困ると思って。
初めて行く所だし、充電は余裕をもっておいた方がいいと思って」
「何かあったらって…いくらなんでも多すぎなんじゃ?
全部で何個あるの?」
「1.2.3……全部で5個かな」
「5個!!多すぎない?」
「これぐらいないと心配だから」
律は呆れたように笑っていた。
「これでよしっと、、、」
カバンのファスナーを閉じて準備完了。
律のお母さんと初めて会うけど、上手く話せるかなぁ?ちょっと不安。
翌日、僕と律は昼過ぎに家を出て、駅までの道を歩いていた。
「ねえ、律、前も、この道を一緒に歩いたね。
初めて歩いたのは、充電の境界線を探るためだったの…覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
「最初は幽霊に取り憑かれるんじゃ無いかと思ってすごく怖かったんだよ」
「確かに、、、すごいスピードで俺から逃げてったもんな。小野っちがびっくりして律の後を追いかけて行ったのを覚えてるよ。」
「仕方ないだろ〜、幽霊に声をかけられるなんて初めての経験だったんだから」
「でも今となれば、出会ったのが四温で良かったなって。本当にそう思うよ」
「僕も……でもあの時は本当に怖くてさぁ。夜、寝た後に部屋に入って来たらどうしよう〜って幽霊対策に壁に画像なんて映し出しちゃって。
まさか、AIと同化するなんて思ってもみなかったから。
律、ごめんね。何とかしてあげなきゃって思ってたんだけど」
「いや俺は良かったと思ってるよ。そうじゃなきゃ、四温と生活する事も無かっただろうし、好きになる事も無かったと思うしさ」
「うん」
「それに結果、こーやって真実を探りにいけるんだから、俺一人では出来なかった事だよ」
「どんな結果が待っていたとしても、僕と律なら何とかなるよね」
「そーだな」
律が僕の頭をクシャって撫でてくれた。
「そーいえばあの時、古着屋さんによって服も買ったよね。初めて2人で服を選んでさ、楽しかったなぁ」
「また行こうって言ってたけど行けてないな」
確かに…。すぐに行けるって思ってたけど、なんだかんだ行けてない。
「俺思ってたんだけど、パソコンを使った仕事なら俺にも出来るんじゃないかなぁって。いつも四温だけがバイトしてたから。そしたらまた一緒に服を選びに行こうよ」
「えっ?…律…うん、そーだね」
律の気持ちが嬉しい。
その時、渡ろうとしていた横断歩道の信号が赤に変わった。
僕たちは白線の少し後ろに立って青になるのを待つことにした。
あっ、そう言えば昨日神社でひいた鳥のお守り、カバンの中に入れっぱなしにしてたなぁ。
確かここに入れたはず…
僕は背負っていたカバンを前に回し、ファスナーを開けて中を探った。
ガサガサガサガサ
あった!あった!
僕はそれを律の目の前に差し出した。
「見て!僕は、これをカバンにつけようと思うんだけどどーかな?
あと、預かってた律のお守りはどうする?」
「そうだなぁ。俺は帰ってから考えるよ」
「わかった。律、悪いけど、僕のお守りを持っててくれる?」
「いーよ」
僕は、鳥のお守りを律に渡して、カバンのファスナーを閉めた。
その時耳を裂く様なタイヤの悲鳴に反射的に顔を上げた。次の瞬間、信号に一直線に突っ込んでくる車が見えた。
右折しようとしていた車は直進してくる車に気付いてブレーキを踏もうとしたけど間に合わない。
[ドガーーーーーーーン]
ぶつかった1台の車が僕たちの方に迫ってきた。
「はっ??」
僕は1センチも動けない。
「四温!!」
律に背中を押された。
僕は押された勢いで前に倒れ込んだ。
グワーワンッ、ガッシャッ
車は僕の背後をかすめて、フェンスに激突して止まった。
あと1歩遅れていたら、巻き込まれていたかもしれない。
「きゃーっ、大変車が!」
「人がぶつかったみたいだけど」
周りが騒ぎ始めた。
「いててててて」
転んだ弾みで足を擦ったらしい。ズボンが破れて膝から血が流れている。両腕も擦りむいていた。
何が起こった?
一瞬理解が出来なかっけど、すぐに事の重大さに気が付いた。
慌てて立ち上がり、辺りを見回すけど
ーーいない
「えっ??律…律は…何処?律、何処にいるの?」
律が僕を庇って背中を押したのは間違いない。
もしかして飛ばされた・・・?
「律ー、律!返事してよぉ!何処なの?」
何度呼んでも返事がない。
まさか…
僕は慌ててポケットからスマホを取り出して充電を確認した
3%……
嘘だろお!!!
車とぶつかったんだ
どうしよう、どうしよう、どうしよう
「あなた、大丈夫?怪我してるじゃない!」
「いや、あのぉ、律が…律が…」
「律?もう1人いたの?」
もう1人いたの…?
この言葉の意味ってーーーーー
あぁぁ、早く律を探さないと
「ちょっと君、病院に行ったほうが・・・」
病院ーー?なんで僕が病院に?怪我の痛みなんて全く感じない。
僕の事なんてどうでもいい。律が見当たらない事の方がヤバイんだ!
僕はふらつきながら前へ進んだ。
道路を挟んだ道の向こう側も、草むらの中も探せる所は探した。
あっ!もしかして充電したら戻ってくるかも!
慌ててバッテリーを差し込むけど、手が震えて上手くさせない。
あぁぁ、何やってんだ。一秒でも早くしないといけないのに…。
もともとAIと同化しただけで、体があった訳じゃない。
そう、律の体は幻像なんだ。
律は僕を庇ったから消えちゃったんだ。
律が消えたのは僕のせいだ。
1週間経っても律が戻ってくる事はなかった。
一緒にお化け屋敷に行った小野っちに聞いてみた。
「律を見かけなかった?ずっと探してるんだけど、何処にいるか知らない?」
「律?誰その人?」
「何、言ってるんだ律だよ。一緒にお化け屋敷に行っただろ。」
「はっ?お化け屋敷には俺と四温の2人で行ったんだよ。誰だよ律って?」
「律だよ!覚えてないの?律の事忘れたの?」
「大丈夫か?律なんて人、俺は知らないよ。そんな人、最初からいないだろ…」
「大学の講義も一緒に受けてたのに、なんで忘れてるんだよ。もういいよ」
「四温・・・・」
そうだ!亮は?亮なら覚えてるかも
プルルルルルルル
「はい、もしもし、四温か、どーしたの?」
「亮、聞きたい事があるんだけど、僕がいつも一緒にいた人を覚えてる?律ってい…」
「いつも一緒にいるのは小野っちだろ。何を今更言ってんだよ〜」
「そんな…」
僕以外誰も覚えていないなんて・・・。
笑うと少し下がる眉毛
緊張すると唇をペロっと舐める癖
困った時は首を少し傾けて話す
僕はこんなにはっきりと覚えているのに。
僕のカバンの中には律と2人で引いたおみくじと、黄色い紐で結ばれた鳥のお守り(根付け)が入っている。
夢なんかじゃない。律は絶対に僕と一緒にいたんだ。
必ず見つけるから・・・
律を探す事が僕の生きる理由になった。
学校が終ると律が消えた場所まで走った。
バイトの前にも探し、終わってからもまた探した。
土日になれば、1日中あてもなく探し続けた。
探せる場所はもうとっくに探し尽くしていたのに、それでも諦めきれなかった。
律の家に行く事も考えたけど、それだけは出来なかった。僕は弱い。律と一緒じゃなきゃ行けない。
結局律が戻ってこないまま、3ケ月が過ぎていった。
その日は講義が詰まっていて、終わったのは夕方近くになってから。帰りにコンビニに寄って弁当とお茶を買った。
何かを作って食べる気にはなれなかった。
部屋に戻るとソファーに腰を下ろしてテレビをつけた。
たまたま映った夕方のニュースを何となく見ていたら思った以上に時間が過ぎていた。
「あ〜なんか、お腹すいてきたなぁ」
買ってきた弁当とお茶をテーブルの上に置いて、一気に食べた。
隣に置いてあったお茶もゴクゴクッと飲み干した。
空になった弁当箱を見ていたら、何故だか分からないけど涙が出てきた。
なんの涙…?別に悲しくもないのに…。
訳もなく涙がでる。
最近こんな事が増えた気がする。
居酒屋のバイトを終えてアパートに戻ってきた。
真っ暗な部屋の電気をつける。
「疲れたなぁ〜、コーヒーでも飲もうかなぁ」
僕は台所に立ってドリップコーヒーを入れた。
コーヒーカップをテーブルに置いて椅子に座わる。
熱々のコーヒーを一口啜ってみた。
ずずずっ…
「あ〜〜美味しい」
最後まで飲み干して、コップを流し台まで持っていった。
1人でコップを洗っていた時、頬に何かが伝うのに気がついた。
なに?
手で拭ってみたら ー涙ー?
とめどなく流れてくるのか止まらない。
「あれ?なんで涙なんか…」
コップを洗う手が止まる。
本当はわかってる。
でも認めるのが怖かった。
僕は流し台の下に座り込んで膝を抱えた。
一体何日経てば涙は枯れて出なくなるんだろう?
僕だけがここにうずくまって抜け出せない。
時間は平等に流れていくのに…。
律、会いたいよ。僕も皆んなみたいに忘れる事が出来たら良かったのに・・・このままだったら僕・・・いつか壊れちゃうよ。
昨日の夜はいつの間にか眠りについていたらしい。
太陽の日差しで目が覚めた。
時計を見たら、もう朝の9時半だった。
急いで支度をして大学に向かった。
大学に行って友達と話したり、講義を受けている間は律の事を忘れられる。
こうやって少しずつ、少しずつ忘れていけたらいいな。
もう疲れたよ…
きっと時間が忘れさせてくれる。そんな事を思いながら教科書をしまっていた時、小野っちに声をかけられた。
「シオン〜っ今日久しぶりに亮と買い物行くんだけど、一緒に行かない?服でも見てから、飯食いに行こうぜ。冬用のアウターを探してたんだよなぁ」
「今日…か。でも僕ちょっと寄る所が」
「なに?時間かかるの?」
「そんな事は無いけど」
「ならいいだろう〜、最近遊んでないじゃん。
それに今日はバイトない日だろ?来るまで待ってるからさ」
「うーん、そうだね、いいよ。」
「オッケー、なら学校の近くに時計台があるだろ、そこの前に集合な」
「分かった」
きっと小野っちは僕の事を気にしてくれているんだ。
態度を見ていたら分かる。
僕は用事を済ませて、小野っちと亮が待っている時計台に向かった。
「小野っち、亮〜お待たせ」
「お〜っ、来た来た、さっ、行こうぜ」
3人並んで歩き始めた。
「四温はどこに行ってたの?って言うか、手に持ってるその紙袋はなに?結構な厚みあるけど」
「あっ、これ?写真だよ。現像してもらったんだ。」
「えっ、わざわざ?
俺なんかカメラのストレージが一杯でさぁ。もう保存出来ないけど、現像するより昔の写真を消したほうがいいかなぁ〜なんて思ってるくらいだけどな。わざわざお金を出して容量を大きくするのもなんだしさぁ」
「小野っちならやりそうだなぁ。俺なんてカメラロールが写真で埋め尽くされた〜なんて事一度もないね!あんまり写真とか撮らないからさ。
女の子ってどっか行く度に写メ撮らなきゃとか言ってるだろ〜あれ、マジで信じられないよな。ケーキと一緒にパチ、乾杯〜でパチとかなー」
「そうそう、どんだけ思い出撮るんだよ」
「んで、四温はどんな写真撮ってるの?」
「あーっ、僕はフィルムカメラで撮ったんだよ。
スマホで撮ったのもあるにはあるけど。
景色とか……。だから一緒に現像して貰ったんだ」
「へえーーっ、意外かも」
「意外か……確かにそうかも」
「逆に現像しないといけない不便さがエモいって人気らしいよ」
亮が得意げに付け加えた。
少し歩いて気が付いた。
「あれ?この道…何処に向かってるの?」
「あぁ、俺達?もう少し歩くとオシャレな古着屋さんがあってさぁ、店の前は何度が通った事があるんだけど、一度も中に入った事が無くって。
亮に話たら、一回行ってみたいって言うから」
「古着屋…さん」
間違いない。ここは律と最後に歩いたあの道。
何度も何度も律を探しに来た道。
でも暫く来るのを躊躇っていた。
もうすぐあの信号だ。
信号を渡たって、少し歩くと目的の古着屋さんが見えてくる。
その手前で右に折れると、本当は律と乗るはずだった駅がある。
1人で歩くのと3人で歩くのではこんにも感覚が違う物なのか。
交差点の景色はまだモノトーンのままだ、それは変わらない。
僕は平静を装って2人と一緒に信号のところまで来た。
信号は青。僕たちは、そのまま信号を渡りきった。
大丈夫、大丈夫、僕はもう大丈夫ー。
そのまま歩いて何気なく右手にある駅を見た。
律の家までを繋ぐ駅・・・。
その時、駅の方に歩いて行く2人の男性の姿が目に飛び込んできた。
楽しそうに笑い声を弾ませながら歩いている。
僕はその2人に目が釘付けになった。いや、2人というより1人、左側の……僕から見たその人の横顔は、まさに律だった。
髪型も背の高さも、体型も律だ!!
「律…?」
急に立ち止まって動かなくなった僕を、小野っちと亮が気づいたみたい。
「四温?どーした」
「誰か知ってる人でもいたの?」
「今、律が、律が駅の方に……」
僕は小野っちの顔を見た。
「律?誰それ?」
亮が小野っちに尋ねている。
「四温、お前、また」
「ごめん、分かってる、言いたい事は分かってるけど…僕、どーしても行かないと!行って確かめないと。
本当にごめん」
「えっ、どー言う事?」
亮が、僕と小野っちの間でオロオロしている。
でも無理なんだ!体が勝手に走り出して止められそうにない。
「しおーーん!・・・・あーぁ、行っちゃた。
なに?なに?何があった?小野っちは知ってるの?」
「うーん、なんかさー。四温、ず〜っと探してる人がいてさ。
でも今だにその人に会えずにいるみたいで・・。
学校にいたって言うんだけど、どーしても思い出せないんだよな、俺。
だから、そんな人は最初から居なかったんじゃないかって、思い過ごしだろうって言ったんだけど。あいつ、全然諦めなくって。
んで、ずっと元気がなかった訳よ。
でも最近やっと落ち着いてきたみたいで、笑顔も見れるようになって…。
だから楽しい事は他にもあるんだぞって、四温に笑ってもらいたかったんだよ。だから今日誘ったんだけどさ。
でも今は、アイツのやりたい様にやらせてやるのがいいのかもしれないなぁ」
「なんだよ、それ!お前、めっちゃ男前じゃない?でも、そのどーしても会いたい人って男なの女なの?」
「あんなに必死に探してるんだからよっぽど大切に思ってんだろ。男でも女でもどっちでもいいから会わせてやりたいよなぁ」
「そうか…」
「まっ、なんかあったら電話してくるでしょ」
「そーだよな、俺達はこのまま買い物の続きでもするか!」
「だな」
*****
「すいませーーーーん、待って、律、リツーーっ」
僕はその時、2人の後を必死に追いかけていた。
なんとか、追いつかないと。
2人は改札口に続く階段を登っている。
僕もその後に続いた。
階段を登り切った所で息がきれた。膝に手をついて口で呼吸を整えるのが精一杯。
何処に行った?律の姿を探すけど
あれ、いない、見失った…?
あぁ、あそこで1人で立ち止まって時刻表を見ているのはー。
「律!!」
走り寄って肩を掴もうとした。と同時に振り返ったその顔はーーー律じゃ無かった・・。
よく似ているけど、眉毛が違う、口も違う。
掴もうとした腕を引っ込めた時、前から来たおじさんとぶつかってしまった。
「うわっ」
尻餅をついたと同時に手にしていた写真がバラバラッと散らばってしまった。
「大丈夫ですか?」
律によく似たその人が僕に駆け寄って散らばった写真を集めてくれた。
「もしかして僕の事を追いかけてました?」
「あっ、すいません、人違いだったみたいで」
「律さん…でしたっけ?もしかして僕の事を呼んでいるのかなぁ〜とは思ったんですが、僕の名前はリツじゃないもので(笑)
ヘエ〜、写真をとるのが好きなんですか?綺麗ですね〜。2人の目線から見た景色なのかな…。
これ、律さんに渡せるといいですね」
僕に写真を渡すと、律によく似た男性は戻ってきた友達と改札口の中に消えていってしまった。
馬鹿だなぁ、律はいつも僕の右側に立ってたのに。忘れてたなんて…。
確かにあの人が言った様に、僕は律と一緒に見た景色を写真に収めていた。
だって ー 律はスマホのカメラには映らないから。
律と散歩した坂道。
律と寄った公園
律と見た川と橋
律が入れてくれたコーヒーカップ
律と初めてあった大学の中庭
キノコの家
クラゲ
花火
古着屋さん
そして自動販売機
2人が一緒に生きた証。現像した写真達
あの人は綺麗だって言ってた。
2人の目線からとった景色を➖僕には色褪せて見えていたけど。
ーこのまま一生会えないんだろうなー
いつか自然に色褪せていく。それまでは無理をしなくていい。
そう、自分に言い聞かせた。
僕は元来た道を一人歩いていた。
気がつけば律と寄った公園にいた。
一緒にお茶を飲みながら休憩したベンチに腰かけてみる。
「会えたと思ったのに、律じゃなかったなぁー」
ふっと顔を上げた時、キノコの家が目に止まった。
「ここで初めて律とキスしたなぁ」
きのこの家の中に置かれていたベンチに腰かけてみた。
僕は手にしていた袋から写真を取り出して一枚ずつ丁寧に並べた。
テーブル一杯の思い出のアルバムが出来上がった。
あの人が言った様に、敢えて2人の目線から撮った写真ばかり。
僕はその中の1枚を手に取った。
律と初めて言葉を交わした自販機の写真。
あの時、水をじっーって見てたんだよなぁ。なんで買わないのかなあって不思議に思ってたんだけど。
まさか、幽霊だったなんて思いもしなかったなあ。
もとあった場所に写真を戻した。
それで、こっちの写真は、、、
一緒にお参りに行った神社の写真。
2人でお願い事して一緒におみくじ引いたっけ。
僕の財布の中には、まだおみくじもお守りも入ったままだよ。
こっちは一緒に見た花火の写真。
夜空に咲く花みたいで、きれいだったなぁ。
たんぽぽやマーガレットみたいだったよね
こっちは一緒に買い物に行った古着屋さんの写真
あの頃はまだ出会ってそんなに経ってなくて、
こんなに好きになるなんて思ってなかったなぁ。
また一緒に行くって約束したのに、結局行けずじまいかぁ。
毎年少しずつ処分して、最後には無くなればいい。
そんな気持ちでカメラに収めていたつもりだった・・・けど、
いつか律に渡せる日が来る、そんな微かな望みで写真を撮っていたのだろうか?
胸が締め付けられるような思いで一杯になる。たまらず僕はテーブルの上に顔を埋めた。
・・・・・・ガサッ
あれ??
隣に誰かが座った気がした。
「・・・・・・・・」
「四温…」
その声に、思わず顔を上げた
「・・・・・・・・・えっ?」
この顔は・・・・・・うそだろ??
涙で滲んで上手く見えない
喉が詰まって声が出せない。
僕の頬を1粒の涙が伝たった気がした。
「り・・・・・つ」
「遅くなってごめん」
「ううっ、ううぅ」
「待たせたね」
ダメだぁ、涙を止める事が出来ない。
律が僕の目から溢れる涙を拭いてくれた。
「四温、会いたかったよ」
「ううっっつ、僕だってずっと、ずっと会いたかった
よ。
律が消えたあの日に僕の心は死んだんだぁ」
「四温、もうそれ以上は何も言わなくていいよ。
寂しい思いをさせてごめん。迎えに来たよ」
僕に何も言わせないかのように、律の唇が重なった。
何度も何度もその唇を重ねて欲しい。
僕は律を抱きしめたまま離れる事が出来なかった。
「幽霊になる前の俺は、友達と一緒に遊園地に遊びに行った。その帰りにタクシーに乗ろうとした所を車に跳ねられて病院に運ばれたんだ。
病院に運ばれてからはずっと意識不明の状態で入院していて、四温をかばって車に接触したあの日に、ようやく意識を取り戻したらしいんだよ。
でも、その後も意識が安定しなくって」
律が消えたあの日からの事を説明してくれた。
「やっと安定したと思ったら、今度は長い入院生活で体を動かす事がまったく出来なくて。
ベッドから起き上がる事も出来ずに介助してもらう生活をしてたんだ。
まずはリハビリから始めようって事になったんだけど、このリハビリが辛くてさ。
毎日3回の歩行練習に指先を動かす訓練をして。
腕を動かす練習も徐々に始めたんだよ。
とにかく体を元に戻すことに専念してたんだ。
何とか体が動かせるようになったから退院したんだけど、やっぱり思った様には回復しなくって。
意識がない間の事はずっと夢を見ていた感じで、現実味がなかったよ。
記憶が曖昧ではっきりしてなかったんだよなぁ。
家に戻ってからは大学の友達がお見舞いに来てくれるようになって、それで張り合いが出たのかもしれないなぁ。
そのうち大学にも通えるようになって、今まで通りの生活がやっと戻ってきたって思ったんだけど、大学に行くと誰かが足りないって気がして。
大切に思ってた人がいた様な気がするんだけど、それが誰だかどうしても分からなくて。
なんでこんな風に思うんだろうって不思議だったよ。
まさか俺が眠ってる間に色んな事を体験してるなんて・・そんなことが現実に起こってたなんて思わないだろう。
でも家でコーヒーを飲んだときに、誰かの為にコーヒーを入れたような気がしたんだ。大切な誰かの為に。
一緒に散歩して、公園で笑い合ってた。でも、顔に霧がかかったみたいにどうしても思い出せないんだよ。
眠っていた間の夢なのかなぁ〜って…思ったりもしたけど。
胸がモヤモヤしてさぁ、すごい不安な感じが襲ってきたんだよなぁ。思い出せそうで思い出せない、そんな日が続いてた。
そしたら今日、母さんが何かを思い出したみたいにー。
「「そういえばあなたが目を覚ました日、手に赤い紐のついた鳥のお守りを握り締めてたのよ。鳥というよりかは鳩・・?
これ、どうしたのかしら?って思って
お父さんや看護婦さんに聞いてみたけど、誰も知らないって言うし。
お友達が来て、あなたの手に握らしてくれたのかしら?
でもそのおかげであなたが目を覚ましたって、お母さんは思ってるのよ。
だから無くさない様に、あなたの手からそのお守りをとって大切にしまっておいたの。
落ち着いたら教えてあげようと思って。
でも一体誰が握らしてくれたのかしらねー。
あなた、何も聞いてないの?
そのお守りは確かここに入れたはず…
えっとぉ、どこにいったかしら?
あっ、あったあったこれよ、これ
はい、どうぞ」」
俺は母さんから手渡されたそれを見て思い出したんだ。
夢じゃない!あれは四温……そう、四温だって。
俺達は桜ケ丘大学で初めて会った。
いてもたってもいられなくてすぐに電車に飛び乗ったんだ。
記憶を辿ってここまで来た。
ごめんなずっと待たせて」
「待たせすぎだよ。でもまた会えたぁ、
思い出してくれてよかった
迎えに来てくて・・・・ありがとう。
でも、僕がここにいるってどうして分かったの?」
「最初は初めて会った大学の中庭に行ったんだけど見つけられなくて(笑)
部屋にも行ったんだよ。
そこにもいなかったから、絶対ここだと思った。
俺たちが初めてキスした場所だから、ここにいるかもって」
「そっか、そうなんだ」
「四温」
「何?」
「もし良かったらだけど俺が就職したら一緒に住まないか?」
「えっ・・・・・・・・うん!いいの?・・・
でももし僕の事、思い出せて無かったらどうしたんだよ」
「絶対思い出してたさ」
「どうだか」
人は一度、愛してしまえば、愛されてしまえば…忘れる事が出来ないんだ。
今迄こんなに人を愛した事なんて無かったんだからさ。
忘れられる怖さを感じた事もな。
律が赤い紐のついたそれを僕の手に握られせてくれた。
「僕達の宝物だね」
「そうだな」
ー 暗くなる前に 一緒に帰ろう ー
これからは二度と離れないように
今まで出来なかった分のキスをしよう。
2年後
「おーーーーい、四温、時間だぞーっ。一緒に出るんだよなー?」
「はーい、今行くよ、あっ、時計忘れた。ちょっと待ってぇー。時計もしたし、これでよし!お待たせ」
玄関の鍵を閉めてエレベーターに乗り込んだ。
「四温、ネクタイ曲がってるぞ」
「えっ、マジで?」
「ほら、直してやるからこっち向いて」
「うん、ありがとう。まだネクタイとか慣れないよ」
「ほら、これでよし。カッコいいな。四温も社会人1年生か〜」
「そうだよ。僕も社会人の仲間入りだよ」
僕達は新しく借りたマンションのフロントを出て並んで歩き始めた。
「少しは仕事、慣れたのか?」
「うーん、慣れたって言うよりは〜今はまだ言われたことをやってるだけって感じ」
「律は今日から新しい部署に異動になるんだっけ?」
「そうなんだよ。だから今日は新しい部署に行って挨拶しなきゃいけないんだよね。ちょっと緊張するよ」
「へー、そうなんだ。僕も律の挨拶、聞きたかったなぁ」
「何言ってんだよ、それより今日って定時で終わるの?仕事終わったらどっかで待ち合わせして飯食いに行こうぜ」
「うん、わかった。新人は残業なんてしないからさー。終わったらメールするよ。
「オッケー、じゃあまた後で」
四温は左に折れて角の先に見える会社のビルに入って行った。
俺はそのまままっすぐに進んで、大きなビルのエレベーターに乗り込んだ。
「なぁ、今日、異動があるの知ってる?」
「経営企画部からうちの営業推進部に1人移ってくるらしいぞ」
「ヘェ〜。話は聞いてたけど今日だったんだ。
あっ、噂をすればだよ」
「おーい、ちょっといいか〜紹介したい人がいる。
今日からうちの営業推進部に異動になった南条 律くんだ。
これからみんなと一緒に頑張ってもらうから仲良くしてやってくれ。
南条君からも一言あれば」
「今日からお世話になります。南条 律です。
早く仕事を覚えて、皆さんのお役に立てるようにがんばります。宜しくお願いします」
パチパチ、パチパチパチパチパチ、パチパチパチ
「おはよう…」
「あれ三浦さん、どうしたんですか?遅刻ですか?」
「いや、お客さんに呼び出されたんだよーー。
っていうか、あの人誰?」
「あぁ南条さんですか?南条 律さんですよ。今日から異動になったんです。経営企画部にいたみたいだから、7階から5階に降りてきたって感じですかね」
「へー、そうなんだ」
「おい、三浦、どこ行ってたんだよ。探してたんだぞ。
この書類、ちょっと見てくれよ」
「あー、はい、はい」
「あっ、南条君も後でいいかな?これから一緒に進めていく企画だから。こいつは三浦って言うんだ」
「南条です。これから宜しくお願いします」
俺は頭を下げた。
「三浦です。宜しく」
南条……?
どこかで見た気がする?どこだったかなぁ?
この顔この目・・どこで見た?
同じ会社にいるんだから、エレベーターですれ違ったとか?食堂で会ってたりしたのかなぁ。
俺の勘違いかー。
まっ、いいや、そのうち思い出すだろう。
三浦……さん?
どこかで会ったような?
どこだっけ?どっかで見たよ、この口元
えーーっとぉ
あっ!!!
橋だ!俺が四温に八つ当たりして部屋を飛び出した日、俺に声をかけてきた人。
絶対そうだ。
今はスーツを着てあの時とイメージが違うけど、この顔は間違いない。
なんだかこの人、訳アリっぽいな〜。
俺と出会ったあの日・・・実は幽霊だったんですって言ったらなんて答えるんだろ?
四温以外は俺の事、忘れてたんだよな。この人はどうなんだろう?
覚えてんのかな…
幽霊だったなんて信じてくれないか〜っ?
何を馬鹿な事言ってるんだって笑いとばすとか?
それとも気味悪がるかな、、、
まさか、こんなところで再開するなんてね
この先が少し楽しみかも
四温にも教えてやらないとな ふふふ
《 完 》

