ディリート うその世界で それでも僕達は生きていた


横並びになって2人でテレビを見ていた時、
四温が俺の肩にもたれてきた。
俺も自分の頭を四温の頭に重ねた。
暫くはその体勢のままでテレビを見ていたんだけど
「リツ…」
「なに?」
四温に名前を呼ばれたから顔をむけた。
その時キスをされそうになった…けど俺が、一瞬躊躇して顔をそらしたから、、、。
四温は悲しそうな顔のまま何も言わずに視線を逸らした。
きっと傷つけてしまった。

キスをしないというより、キスが出来ないんだ。
何故できないのか。
四温が俺にとって大切な存在になればなるほど、
大切にしたいと思えば思うほど触れる事が出来なくなる。


ーでも、それには訳があったんだ。

俺の日常

朝、目が覚めて四温を起こすことから1日が始まる。
「おはよー、もう時間だよ」
「うーーん。もうそんな時間?もうちょっとだけ寝てたいなぁ」
「ほら早く起きて」
カーテンを思いっきり開けると、太陽の日差しが降り注いで四温がまぶしそうに眉間にシワを寄せる。

俺は四温の顎をつまんで緩く左右にふる。
「起きないともっと揺らすぞ」
「うわあ、分かったよぉ〜」
「よし」
おでこに軽くキスをすると、四温はヨイショッと体を起こして、やっとベッドから起き上がった。


あっ、言い忘れてたけど、四温はベッドで寝て俺は床に布団をひいてその上で寝てる。
一応幽霊なんで風邪はひかないからね(笑)
この部屋では俺の状態も安定しているから、大概の事は自由に出来る。

四温は朝が弱いから、朝ご飯は食パン1枚とインスタントコーヒーが定番。
インスタントコーヒーを入れて皿に食パンを載せてテーブルに置いておく。
四温が眠たそうな顔で椅子に座る。ずずずってコーヒーをすすって、食パンにかじりつく。これがいつもの朝の光景。

急いで着替えて髪をセットしたら一緒に部屋をでて、大学の講義にもぐり込む。その後は友達と喋べったりして、時間を過ごしてる。

午後も講義がある時は、四温は友達と食堂でランチを食べたりしてるみたいだけど、俺は腹も空かないし、喉も乾かないから、俺だけ先に部屋に戻って時間を潰すことが多い。
食べるふりは難しいとしても、飲むふりだけでも出来たら…なんて考えることが最近増えてきた。

四温が午後の授業を終えて戻ってくる時は
「お腹すいた〜」って言いながら玄関のドアを開けるから、俺は四温の為に料理を作ることが多くなった。

もともと料理を作るのは嫌いじゃない。
カレーに肉じゃが、ポテトサラダに厚焼き卵
それほどレパートリーは多くないが、おいしいと言って喜んで食べてくれる四温の顔を見るのが好きだ。

買い物は近くのスーパーに2人で寄ることが多い。
充電を気にして、重いものは四温が持ってくれる。
大丈夫だって言うんだけどなぁ。

こんな毎日が後一年は続くだろうって、なんとなく思ってた。
でも最近なんか変なんだ。
時々、指先がふわっと軽くなるような、しびれるような感じがする。

その日もいつもの様に校舎を出て、人通りの少ない道を一人で家路に向かっていた。

手のひらがじんとしびれて、思わず指先に視線を落とした。
指先が透けている。

「なんだこれ?」

確かめるように、何度か手のひらを返した。

その時はすぐに元に戻ったから良かったけど。
あれはなんだったんだ?一時的に起こった不具合だったのか…??

不思議に思いながらも、その時はさほど気にもとめていなかった。

それからも時々、指先がふわっと軽くなるようなしびれるような感覚に襲われることがあった。

その度に指が透けている事に気づいた。
俺は何度も手の平を返して確認した。
これは気のせいなんかじゃない。
俺の体に何か異変が起きているんだ。
だからと言って何がどうなると言う訳でもない。
時間が経ったら、また元に戻っている。
だから四温は何も気づいていない。
俺が言わない限りは。


➖ 俺の体で一体何が起こってるんだ➖


俺は電車に乗って友達と遊びに行くところだ。
男ばかり全部で4人。
楽しそうにこれから行くはずの目的地についての話しをしている。
どうやら駅に着いた様だ。
電車を降りると目的地まで続く、長い連絡通路を歩き始めた。
その通路を渡りきると3メートルはありそうな大きな門構えの入り口が見えてきた。
「うわぁ、なんだこれ。見たことない位でかいなぁ。」
4人の中の誰かが言った。

よほど楽しみだったのか友達はスキップするような小走りで、入り口の中に吸い込まれて行った。



ゴゴゴゴゴーーーーッツ

爆音を響かせて、何かが通り過ぎる音が聞こえた。

何だ?と思った瞬間、

キヤーーーーーーーーッ

甲高い悲鳴のような叫び声がして俺は後ろを振り返った。

あっ、ジェットコースターか…

「なあ、せっかくフリーパス買ったんだし、今日は10個以上の乗り物に乗ろうぜ!」
「そーだよな。元は取らないと(笑)
まずはジットコースターから攻めて行くか!」
「いいよ。なんなら2回乗ってもいいしな」

俺達は次々と乗り物を制覇していった。
フリーフォールにトップスピン、バイキング等など。

ハード系の乗り物は思いっきり叫べてストレス解消には持ってこいだが、途中からなんだか目が回ってきた。
バイキングって船みたいな形をした乗り物で、左右に大きな弧を描きながら揺れるだろ。
あれが永遠に止まらないんじゃないかってくらい揺れて気持ち悪かったんだよな。

「次はちょい緩い目の乗り物にして、体を落ち着かせよーぜ」
「コーヒーカップとか?」
「絶対回すだろー、あれ意外と酔うぞ」
「なら観覧車にしようぜ」
「それならいいかもな」
俺達は観覧車に乗って一息つく事にした。

「近くで見ると思った以上に高いなあー。なんかそびえ立ってる感がハンパないんだけど」
高さ120メートルと表示されている。
「やめとくか?」
乗り場でワタワタしている俺達をスタッフが半ば強引に押し込めた。
半分ほど上がった所で絶景なのに気がついた。

「わぁー、見晴らしがいいな」
「全体が見渡せるんだな。ここってこんなに広かったっけ?」
「人が小さく見えるな〜」
「おい、あれって人か?人じゃなくない?」
「はっ?何言ってんだよ?そんな訳ないだろー」
「よく見てみろよ!人の中に牛がいるぞ。
服を着て、2本足で立ってる・・・」
「はっ?なに言ってんだよ、んな訳無いだろう…って
マジかよーーっ、おい!あっちには服着た熊が子供連れて歩いてるぞ」
「何だよここ、俺たちがいるこの世界ってどうなってんだよ!」
「おい!もうすぐ一番高いところに着くぞ」
4人が一斉に顔を上にあげた瞬間

ガタッッ、ガタッタッ、ギリッ、ギッ。

「ええっ?何?」.
観覧車が突然変な音を出して動きを止めた。

「なに?なんで止まった?しかも、ここ、一番高い所だぞ!」

風が吹いているのか揺れている。
俺達は両腕を広げて左右の扉を押さえた。
少しでも安定させなければ、扉が開いて外に落ちそうで怖い!
「誰か助けてええぇぇ」
「どうやって助けを呼べいいんだよー」

その瞬間、観覧車がぐるんぐるんと 一回転を始めた。
「うわぁー、床が上にきてる」
頭から下に落ちる!
そう思った瞬間、俺達はフードコートにいた。

ラーメンを啜っているヤツもいれば、たこ焼きを食っているヤツもいる。
俺の目の前にはカレーライスが置かれていた。
「美味そうだなあ」
一口カレーライスを食べた途端、俺達は帰りの電車に乗っていた。

最初はゆっくり進んでいた電車が突然スピードを上げ始めた。

うわぁー、なんだ、どうなってる?

その瞬間電車はまるで波模様のうねうねした線路を走っているかのように上下に動き出した。

「何かに捕まれ、投げ出されるぞ!」
叫んだ瞬間、隣にいるツレがこっちを見て笑っているのに気が付いた。


「流石に疲れたなぁー」
「でも、10個は乗れたよな?」
「メリーゴーランドも入れたら11個じゃない?まあ、
元は取れたんじゃないかなぁ?」
「そうだなぁ、やっぱりフリーパス買って良かったな。また皆んなで来ようぜ」
「こー言う所は男ばっかしで来た方が気を遣わなくっていいよなぁ」
「そうそう、男同士が一番だよなーー」

あれ、さっきまで電車が上下に揺れて凄いスピードが出てたんじゃ・・・??

電車の揺れが心地いいな。ダメだ、瞼が重い…話し声が遠くなる。


気がついたら俺は駅に1人で立っていた。
外はすっかり暗くなっている。
母さんに迎えに来てもらおうかなあ・・・。

その時たまたま俺の前に一台のタクシーが止まった。
フロントガラスの下の赤く光る『空車』の文字が目をひいた。
あっ、丁度いいや。このタクシーに乗って帰ろう…
俺はタクシーの方へ歩き出した。
その時止まっていたタクシーを追い越すように、一台の車が飛び出して来た。
俺の目の前に車のライトが迫ってくる。

ドガーーーーーーーーーーン

「キヤーーーーーーッ」
「誰かーーっ、救急車呼んでー」
「人が跳ねられたぞ」

んん?ここは、何処だ?
四角い白い部屋、簡素な棚の上にはテレビが置かれている。
俺はどうやら病院のベッドで眠っている様だ。
腕や頭には包帯が巻かれ、脚はギブスで固定され何かの装置に吊るされている。なんて痛々しい姿なんだ。

あれ?
俺が俺を見ている……??
どー言う事?
ベッドで寝ているのも俺で、俺の横で立っているのも俺?

俺が俺を見ているんだ!

ガバッ ハアハアハアハア……ゴクッ

なんだったんだ今のは?
夢…ゆめだったんだっ!
あーっ、良かったぁ
俺は生唾を飲み込んだ。
手が微かに震えている。
うなされてなかったったよな?


大丈夫、四温はまだ寝ている。気づいてない。
ありもしない鼓動がドクドクと脈打っているように感じた。

一体なんだったんだよ、さっきのは。
でも夢でよかった。
俺はホット胸を撫で下ろした。
でもやけにリアルで、、、、、。
友達と遊園地に行ったところとか、
車のライトが眩しかった事とか。
なんだか俺の最後の記憶と一緒じゃないかよ。

「う〜〜〜ん」

四温が寝返りをうってタオルケットを蹴飛ばした。
「あーーぁ、もう、腹冷えるぞ」
タオルケットをかけ直してやった時、四温のあどけない寝顔に戸惑った。

「こんな可愛い顔して寝てたんだ、俺だけの物にしたいな」

唇にキスしようと思った。あと数ミリで触れるって所で止まった。
四温の寝息が顔にかかる。
俺は頬にキスをして布団に転がった。
俺と四温は同じじゃないんだ。

手のひらを広げて何度も確認してみる。
まさか、このまま消えて無くなったりしないよな?



この夢を見てから、俺は四温にキスするのを躊躇う様になってしまった。
指が透け始めたのもなにか関係がるのかもと思ってしまう。
考え過ぎならいいんだけど。

それからなんだ。キスをすると四温の命を奪ってしまいそうで怖くなる。
キスをする度に、少しずつ少しずつ…



最近律が僕にキスをしてくれなくなった…気がする。
一度は軽く拒否られたよーな感じもしたし。
案外ショックだったりして。

でもあの不安そうな顔は今まで見た事がない。
拒否られたって言うよりかは、僕のことを考えて避けたって気がした。

律が存在していること自体が奇跡なんだよな。
このまま一緒にいられるだけで幸せなのかもしれない。たとえ僕たちのいるこの世界が、ウソの世界だとしても。
どんな事があっても僕の気持ちは変わらない。
律は何を考えていたんだろう?