水……
そう言えば俺、1滴も水飲んでないわ。
最後の記憶から4日も経ってるのに…
喉も乾かないし、腹も空かない。やっぱり変だよな。
4日も飲み食いせずに普通に歩けるもんなのか?
そんな事を考えながら自動販売機の前で佇んでいた。
「あの、すいません。僕、お茶買ってもいいですか?」
「あ、あぁ、どうぞ」
「ありがとうございます。ちょっと前を失礼しま〜す」
ええ?!?ちょ、ちょっと待って!
今、俺に話かけたよな?
俺の顔みたよな
コイツに話かけられる迄、誰とも目が合わなかったのに!
まるで存在すら認めないかの様に、みんなが俺の横を通り過ぎて行くだけだったのに…。
思わず目の前にいるこの男の事をじっと見つめてしまった。
あまりに熱い俺の視線にこの男も何かを感じ取ったの
か、
「えっ、えーーと、何か…?僕、何か失礼な事しましたか。
あっ、もしかしてお金を持ってきてないとか?」
「いや…」
「よかったら、僕が1本買いましょうか?」
「そんなことより、おまえ、お前、俺の事が見えてるのか?なぁ。俺のこと見えてるよな」
「はあ…何を言って?」
その時、向こうからコイツの友達らしき数人が近づいてきた。
「おい、お前〜さっきから何一人でぶつぶつ言ってんだよ。どうかしたのか?」
「はっ?僕が一人でぶつぶつ…ねぇ、今『一人で』って言った?
それってどー言う意味?」
俺の事が見えているであろうこの男は、こっちに向きなおり俺の顔をじっと見つめている。
「まさかお前達、この人の事が見えていないとか…??」
「さっきから何言ってんだよ。ずっとお前1人しかいないだろーが。
そんな事より次の授業遅れちゃうぞ。早く行こうぜ、ほら早く」
ヤバイ!!
友達に連れて行かれそうになっているこの男をなんとかして引き留めねば!
「ちょっと君、待って!
俺の事が見えてるんだよね?俺の事が見えてるのってお前だけなんだよ。頼むよー助けてくれよ。ここって何処なんだよ?」
腕を掴もうとした瞬間
「わーーーぁぁあああ、助けてぇぇええ」
「えっ?ど、、どうした?おい、待ってくれよ〜」
急に走り出した男の後を、友達も追いかけて行ってしまった。
一瞬の出来事で頭が追いつかなかい。
俺はただその場に立ちつくす事しか出来なかった。
「はぁぁ〜〜〜〜どうなってるんだよぉ」
深く大きなため息をつきながら、俺は大学の中庭のベンチに腰掛けている。
「一体ここはどこなんだ?
俺、スマホどうしたっけ?
しかも、ここって俺の通ってる学校じゃないし…」
俺の名前は南条 律(なんじょう りつ)
大学3年生。テニスサークルに入っていて、本屋でバイトもしてる。見た目もそこそこで友達も多い。
遊びに誘われることも多かった。
毎日が充実している…はずだった。
なのに今は一人ぼっち。
誰一人として俺に気づかない。
「すいません」と肩を叩いても、前に立ちはだかっても誰も俺には目もくれない。黙って通り過ぎて行くだけ。
たまたま俺の前を学生風の2人の男が歩いていたから、なんとなく後をついて行った。
「なあ、この喫茶店って前にテレビに出てた所じゃないか?ちょっとお茶でも飲んで行こうぜ」
「別にいいけど」
そう言うと、2人は店の扉を開いた。
カランカランカラン
「いらっしゃいませぇ。カウンター席なら空いてますが」
笑顔の店員が近づいてくる。
「カウンター席でも大丈夫です」
「こちらにどうぞ」
席に案内される2人の後を俺もついていく事にした。
2人が座った横に腰掛けてみる。
「今、お水とおしぼりをご用意しますね」
そう言うと、店員は奥のキッチンに入っていった。
店員が水とおしぼりを持ってこっちにやってきた。
「お水とおしぼり、ここに置いておきますね〜」
店員は2人の前に水とおしぼりを置くが、俺の前には何もない。
「すいません、俺にも水とおしぼりを下さい」
店員はくるっと俺に背を向けて、隣に座っている2人に声をかけた。
「ご注文はお決まりですか?」
「俺はアイスコーヒー。お前は?」
「じゃあ俺は〜ソーダ水にしようかな」
「はい、アイスコーヒーとソーダ水ですね」
そう言うと、奥のキッチンのほうに歩いて行ってしまった。
「なんだよ、無視かよ」
数分後、店員がアイスコーヒーとソーダ水を持ってきて2人の前に置いた。
「ご注文は以上でお揃いですか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」
俺の前に伝票を置いた。
その後どこをどう歩いてここに辿り着いたのか…俺は今、大学の中庭のベンチに座りながら色々と考え込んでいるって訳。
まさか俺は死んだのか?
腹も空かないし喉も乾かない、これって普通じゃないよな・・・。
ちょっと待って!今日って何日?今は何時?
腕にはめていた時計を確認してみる。
時計は普通に動いていた。
今日は6月5日…今は11時か
よく考えてみよう、、最後の記憶は………。
そう、4日前の6月1日!
確か友達と遊園地に遊びに行って、、その後家に戻ろうとしたよな。
それで…遅くなったからタクシーを拾おうとして。
その時後ろにいた車がタクシーを避けるようにはみ出してきて・・・
あれ??俺ってその時はねられた?
いや、そんな事…
でもその後からの記憶が無い。
もう一回よく思い出すんだ!!
うーーーーーーーーん
ダメだぁ
頭の整理が追いつかない。
それに俺が座ってるここって何処なんだろう?
どっかの大学ではあるんだけどー。
辺りを見渡してみたけど、俺の存在などまるで無いかの様に大学生達が横を通り過ぎていくだけだ。
こんな事が実際に俺の身に起こるのか?
ベンチに腰掛けて、行き交う人の流れをぼんやりと眺めていた。
その時ベンチのすぐそばに自動販売機があることに気がついたんだ。
幽霊?に話しかけられて逃げ出してしまった僕の名前は、藤城 四温(ふじしろ しおん)
大学進学を機に上京してきて、今はこのアパートで一人暮らしをしている。
ごくごく平凡な大学2年生。やっとこの生活にも慣れて友達も出来た。
なのに、今日のあれは何んだったんだろう。
僕にしか見えていなかった…んだよね?
あの人はうちの大学の学生じゃなかったって事かな?
うーん、でも僕にしか見えてなかったって事はーー。
やっぱり幽霊??
でも今どきの人って言うか、オバケ〜って感じじゃなかったんだよなぁ。同じ大学生かと思ったし。
幽霊ってあんなに普通に自販機の前に立ってジュースとか眺めるもんなのかな?
そもそも幽霊と会話ってーー。
もしかしたら僕に霊感があるとか?そんなはずはない。
いや、霊感なんて欲しくないかも…
あっ、そうだ電話して確認してみよう!
ぷるるるるるぷるるるる
「あっ、もしもしお母さん?変なこと聞くけど、僕って小さい頃に霊感とかあったかな?
そうだよね。うん、そんな事ないよね…
あぁ、うん大丈夫。
今ちょっと怖い系の映画見ててさぁー。
後ろに何か居そうな気がして聞いてみただけだから。
ごめん、うん分かった。じゃあね。お休み」 「 ・・・・・・・・・」
だよなぁーー。そんな事ある訳ないよなあぁ。
僕が勝手に思い込んでるだけ!
もう忘れよう。今日の事は僕の勘違い
でも、まさか、また学校で会うなんて事は…無いよなね?
いやいや、もう気にしない〜〜おやすみ!
僕は布団を頭までかぶって眠りについた。
次の日の朝
キョロキョロと辺りを見渡して一応確認をしてみる。
「あーーっ、よかったぁ〜。あの幽霊君は居ないみたいだ」
ほっとしながら講義室に歩いて行った。
教科書を広げて授業の準備をしていると、隣の席に誰かが座ったのに気が付いた。
何気なく横を見てみると、まさかのあの幽霊君がこっちを見て笑っている
「うわうわうわーーっっ」
びっくりしすぎて、大きな声を張り上げてその場から立ち上がってしまった。
周りの学生も僕の声に驚いてぽかんとした顔でこっちを見ている。
「す、すいません」
慌てて席に着いた
前に座っていた友達に
「どうしたの、四温?急に大声なんか出して立ち上がって…
隣に幽霊でもいたのかよ」
笑い事じゃないって〜冗談になってないよ!!
「ま、ま、まさか・・・み、見えてないの??」
僕は左隣の幽霊君を指差した。
「何がだよ〜どうかしてんぞ。みんなに迷惑だろぉ」
友達が笑ってる。
「うん、そうだよねハハハ」
誤魔化すのに精一杯だった。
「へー、君、シオンって言うんだ。よろしくね。四温君」
笑顔で僕を見つめている幽霊君。
なんでこんな事になるんだよぉ。平静ではいられない。
講義中、僕は生きた心地がしなかった。
授業を終えて、その帰り道
「なんでついてくるんだよ。やめてくれよ。
僕には何の力もないんだから、何もしてあげられないよ?
まさかまさかまさか…僕に取りつこうとしてる?絶対やめてよ!」
「お前さっきから何言ってんだよ。俺の話、全然聞いてないなぁ。ここはどこなんだよ」
「どこって東京だよ。東京の桜ヶ丘大学だよ」
「東京の桜ヶ丘大学・・・そうなんだ、あっ、俺の名前は南条 律。
大学3年生だったんだ」
んん??だったんだ……
「なぁ頼むよ。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから俺の話を聞いてくれよ」

