陽平は口元だけ微笑みを浮かべ、
「慎也が辛そうだったから。余計なこと、した?」
余計なことなんて、あるわけない。俺は首を振り、
「俺、ありがとうって言ったんだけど。ありがとうって、感謝の言葉だよ? 余計なことって思ってたら、そう言うよ」
陽平は、ハーッと大きく息を吐き出すと、
「よかった〜。俺さ、あの人が次に目の前に現れた時、どうしようかなって思ってるんだ。ハッタリかましたけど、腕に覚えなんて全くないからさ」
笑い出す陽平を見ながら、「え?」と声が出そうになった。それと同時に、鼓動が速くなった。凝視する俺の頭を、陽平が笑いながら撫でる。そうされることに抵抗感がないのは、どうしてだろう。親友だからかもしれない。そう思うことにしよう。
「陽平、それなのに俺を助けてくれたんだ? あの人に殴りかかられたら、どうする気だったんだよ?」
やりかねない奴だと、俺は当然よく知っている。
陽平は、「そうだよな」と言い、
「たぶん大丈夫だろうと思って、とにかく強そうに見せようと思ってさ。声はでっかく出せるんだよ。歌うの好きだから」
「歌うのが好きなんだ? そういえばドーナツ屋さんで、つっちーと歌番組の話、してたよな?」
なんとかいうバンドのギタリストがいいって。どんなバンドなんだろう。ちょっと聴いてみたい気がする。
「そうそう。あの人たち、めったにそういう番組に出ないんだけど、昨日は……」
陽平が、嬉々として推しバンドについて語り出した。本気で嬉しそう。さっきまでの緊張感溢れる時間は何だったんだろう、と思う。
「陽平。よっぽど好きなんだな」
「あ。聴きたい? よし。今度、一緒に聴こう。今度、な?」
何で今度なんだろうと考えていたら、陽平が神妙な顔になって、
「今日でもいいんだけどさ。慎也が疲れてるかなと思ったんだよ。あの風変わりな人と再会? しちゃったから」
再会なんて、しなくていいならしたくなかった。でも、しちゃったから仕方ないか。そのおかげで、かっこいい陽平を見られたし、それはそれでよかったのか?
「取り敢えず、消え失せてくれてよかったよ。次に会ったら、その時に対応策を考えよう。てことで、今日あったことは、もう忘れな」
ヘラヘラな陽平が戻ってきた。昇降口でこの態度を取られた時に苛立ったのが、遠い昔のことのような気がしてくる。そう思ってしまう自分が、不思議だ。
「慎也。念の為、家まで送らせてくれよ。さっきの風変わりな人って、中学が一緒だったんだろ? てことは、この辺に住んでるってことだよな? 危なすぎる。護衛させてくれ」
「護衛……?」
「そうだ。護衛。慎也が断っても、俺はストーカーのようについて歩くぞ」
ストーカー行為は、やめてほしい。それに、俺は断ってない。俺は陽平に深く頷いてみせると、
「断らないよ。お願いします」
少しも笑わないで、そう言った。陽平は、目を細めて、
「よし。じゃあ、行くぞ。どっちだ?」
「こっちだよ」
親友と二人で、家までの道を並んで歩いてるなんて、奇跡みたいな出来事だ。学校が嫌いで、高校にも行きたくないと騒ぎまくっていた俺なのに。
陽平は、さっき話していた推しバンドの話を、またし始めた。いきいきとしている陽平が、眩しく感じる。
「好きなものがあるって、いいな。何か、羨ましいんだけど」
「そうか? 推しがいるとさ、金が掛かるぞ?」
ニカッと笑う陽平。やはり、羨ましい、しか出てこない。
「そうだ。慎也の推し、俺でどうだ? 俺を推してくれよ」
ヘラヘラが始まった。これは、ふざけモードに入った証拠だ。俺は肩をすくめて、
「意味がわかんない」
「わかるだろ? 俺を推してって言ってるだけなんだから」
そんなやりとりをしていたら、もう家の前まで来ていた。俺は、家を指差し、
「ここ」
陽平は、家の上から下まで見て、「へ〜」と言った。それはどういう感じなんだろう。
「いいな。俺もここに住みたい」
また、訳のわからないことを言い出した。
「住みたいって言われても困る」
「何で困るんだよ。別にいいだろ?」
「よくない」
「慎也、意地悪だな」
何だ、この会話。本当に意味がわからない。でも、何でだろう。胸の奥の方が、くすぐったいように感じてしまっている。
俺は、敢えて陽平から視線を外して、
「そのうち、遊びに来いよ」
友達を家に誘うなんて、何年ぶりのことだろうか。小学生の頃が最後だった気がする。
「いいのか? 約束だぞ?」
「約束する」
つい笑顔になって言うと、ヘラヘラが引っ込み、真顔になってしまった。何かやらかしちゃったんだろうか、と胸がざわついた。陽平は俺の顔の前で右手の小指を立てると、
「約束、な?」
これは、指切りげんまんしようとしているのか? 高校生男子二人がすることだろうか。そう思わなくもなかったが、俺は陽平の指に自分の小指を絡めた。
顔が火照るのを感じて、物凄く恥ずかしい。この反応は、何なんだ? 親友と指切りしてるだけのことなのに、過剰反応もいいところだ。
人見知りで人と距離を詰めるのが得意じゃないから、こんなおかしなことになるのかもしれない。きっとそうだ。そう思うことにした。
「慎也が辛そうだったから。余計なこと、した?」
余計なことなんて、あるわけない。俺は首を振り、
「俺、ありがとうって言ったんだけど。ありがとうって、感謝の言葉だよ? 余計なことって思ってたら、そう言うよ」
陽平は、ハーッと大きく息を吐き出すと、
「よかった〜。俺さ、あの人が次に目の前に現れた時、どうしようかなって思ってるんだ。ハッタリかましたけど、腕に覚えなんて全くないからさ」
笑い出す陽平を見ながら、「え?」と声が出そうになった。それと同時に、鼓動が速くなった。凝視する俺の頭を、陽平が笑いながら撫でる。そうされることに抵抗感がないのは、どうしてだろう。親友だからかもしれない。そう思うことにしよう。
「陽平、それなのに俺を助けてくれたんだ? あの人に殴りかかられたら、どうする気だったんだよ?」
やりかねない奴だと、俺は当然よく知っている。
陽平は、「そうだよな」と言い、
「たぶん大丈夫だろうと思って、とにかく強そうに見せようと思ってさ。声はでっかく出せるんだよ。歌うの好きだから」
「歌うのが好きなんだ? そういえばドーナツ屋さんで、つっちーと歌番組の話、してたよな?」
なんとかいうバンドのギタリストがいいって。どんなバンドなんだろう。ちょっと聴いてみたい気がする。
「そうそう。あの人たち、めったにそういう番組に出ないんだけど、昨日は……」
陽平が、嬉々として推しバンドについて語り出した。本気で嬉しそう。さっきまでの緊張感溢れる時間は何だったんだろう、と思う。
「陽平。よっぽど好きなんだな」
「あ。聴きたい? よし。今度、一緒に聴こう。今度、な?」
何で今度なんだろうと考えていたら、陽平が神妙な顔になって、
「今日でもいいんだけどさ。慎也が疲れてるかなと思ったんだよ。あの風変わりな人と再会? しちゃったから」
再会なんて、しなくていいならしたくなかった。でも、しちゃったから仕方ないか。そのおかげで、かっこいい陽平を見られたし、それはそれでよかったのか?
「取り敢えず、消え失せてくれてよかったよ。次に会ったら、その時に対応策を考えよう。てことで、今日あったことは、もう忘れな」
ヘラヘラな陽平が戻ってきた。昇降口でこの態度を取られた時に苛立ったのが、遠い昔のことのような気がしてくる。そう思ってしまう自分が、不思議だ。
「慎也。念の為、家まで送らせてくれよ。さっきの風変わりな人って、中学が一緒だったんだろ? てことは、この辺に住んでるってことだよな? 危なすぎる。護衛させてくれ」
「護衛……?」
「そうだ。護衛。慎也が断っても、俺はストーカーのようについて歩くぞ」
ストーカー行為は、やめてほしい。それに、俺は断ってない。俺は陽平に深く頷いてみせると、
「断らないよ。お願いします」
少しも笑わないで、そう言った。陽平は、目を細めて、
「よし。じゃあ、行くぞ。どっちだ?」
「こっちだよ」
親友と二人で、家までの道を並んで歩いてるなんて、奇跡みたいな出来事だ。学校が嫌いで、高校にも行きたくないと騒ぎまくっていた俺なのに。
陽平は、さっき話していた推しバンドの話を、またし始めた。いきいきとしている陽平が、眩しく感じる。
「好きなものがあるって、いいな。何か、羨ましいんだけど」
「そうか? 推しがいるとさ、金が掛かるぞ?」
ニカッと笑う陽平。やはり、羨ましい、しか出てこない。
「そうだ。慎也の推し、俺でどうだ? 俺を推してくれよ」
ヘラヘラが始まった。これは、ふざけモードに入った証拠だ。俺は肩をすくめて、
「意味がわかんない」
「わかるだろ? 俺を推してって言ってるだけなんだから」
そんなやりとりをしていたら、もう家の前まで来ていた。俺は、家を指差し、
「ここ」
陽平は、家の上から下まで見て、「へ〜」と言った。それはどういう感じなんだろう。
「いいな。俺もここに住みたい」
また、訳のわからないことを言い出した。
「住みたいって言われても困る」
「何で困るんだよ。別にいいだろ?」
「よくない」
「慎也、意地悪だな」
何だ、この会話。本当に意味がわからない。でも、何でだろう。胸の奥の方が、くすぐったいように感じてしまっている。
俺は、敢えて陽平から視線を外して、
「そのうち、遊びに来いよ」
友達を家に誘うなんて、何年ぶりのことだろうか。小学生の頃が最後だった気がする。
「いいのか? 約束だぞ?」
「約束する」
つい笑顔になって言うと、ヘラヘラが引っ込み、真顔になってしまった。何かやらかしちゃったんだろうか、と胸がざわついた。陽平は俺の顔の前で右手の小指を立てると、
「約束、な?」
これは、指切りげんまんしようとしているのか? 高校生男子二人がすることだろうか。そう思わなくもなかったが、俺は陽平の指に自分の小指を絡めた。
顔が火照るのを感じて、物凄く恥ずかしい。この反応は、何なんだ? 親友と指切りしてるだけのことなのに、過剰反応もいいところだ。
人見知りで人と距離を詰めるのが得意じゃないから、こんなおかしなことになるのかもしれない。きっとそうだ。そう思うことにした。


