二人が店を出ていったのを確認してから、俺は陽平を見た。視線を感じるとは思っていたけど、陽平が俺をガン見してたのか。びっくりした。
「陽平。そんなに見られたら、慎也が困るんじゃないか?」
隣のテーブルで、山ちゃんが溜息を吐いた。俺は、うっかり拍手をしそうになった。山ちゃん、いつもありがとう。
「困るのか? 何でだ?」
訊かれて俺は、やはり困ってしまった。上手く説明出来ないけど、普通そんなに見ないだろ?
黙っている俺を横目で見てきた山ちゃんは、「ほらね」と言った。陽平は山ちゃんの方に顔を向けると、
「ほらねって何だ?」
「だって、慎也、明らかに困ってるだろ? だから、ほらねって言ったんだ」
あくまで冷静な口調の山ちゃんは、同じ年齢とは思えない落ち着きを見せている。こういう人になりたい。なれそうもないけど。
俺がそんなことを考えていると、陽平は俺の両手を握った。その表情には、焦りのようなものが見て取れた。
「慎也。困ってるのか? 何でだ。誰のせいだ?」
俺は吹き出してしまった。陽平以外の誰が、俺を困らせていると思ってるんだ? 陽平以外にありえないだろ?
俺が笑っていると、山ちゃんとつっちーも笑い出した。そうだよ。おかしいよな? 笑っちゃうよな?
「誰のせい? 陽平のせいに決まってるじゃないか」
つっちーがそう言うと、陽平は、「え?」と言い、
「嘘だよな? 俺じゃないよな?」
自分じゃないと信じているらしかった。ある意味、すごいな。俺は何とか笑いを抑えると、
「つっちーが正しい。陽平が俺を困らせてるんだよ」
「何で? 俺、何かした?」
「したよ」
じっと俺を見つめて、俺をドキドキさせたじゃないか。どうしてこの人は、そこに気付けないんだろうか。
陽平は、俺の手をギュッと握ると、
「俺、何をした? 言ってくれ。悪いことしたなら、謝る。だから、困らないでくれ」
返事をする為に落ち着こうとしているけど、陽平の一言ひとことが俺を笑わせずにはいられない。そんな俺を、陽平は首を傾げながら見ている。
笑いがどうにか止まったのは、しばらくしてからだった。山ちゃんとつっちーも、ようやく落ち着いたようだ。山ちゃんとつっちーは、お互いに顔を見合わせ頷くと、
「陽平。俺たち、帰るよ。後は二人で頑張りな」
そう言って、山ちゃんが立ち上がった。つっちーも、「頑張りな」と言ってから立ち上がった。二人は、さっき出ていった人たち同様、俺たちに手を振ると店を出ていった。本当に、俺と陽平の二人きりになってしまった。大丈夫かなと心配になる。
俺は、食べかけていたドーナツを少しかじると、俯きながら飲み込んだ。変に緊張してきて、味がわからなくなってしまった。
陽平の視線を感じて、目を上げた。やはり、俺をじっと見ていた。その顔は真剣そのものだった。何か話し掛けた方がいいのか。それとも、黙っていた方がいいのか。これは、どうしたらいいんだろう。
逡巡して、結局は沈黙していた。陽平は、相変わらず俺を見ている。シーンとして見つめ合う俺たち。誰でもいいから、この静けさを破ってほしいと願った。
さらに五分くらいが過ぎた頃、陽平がようやく口を開いた。
「好きだ」
また告白されちゃったよ。何だかくすぐったい。そんな気分だ。俺はニッコリと笑って、
「俺も陽平が大好きだよ。でも、陽平。俺のこと、いつから……」
そんなことを訊いていいのか、わからなかったけど、訊いちゃったんだから仕方ない。陽平は、一瞬も迷った様子もなく、
「入学したその日だ」
「え? そうなんだ」
としか言えない。そんなにすぐだったとは、驚きだ。俺は、その先を訊かずにはいられなくなった。
「何で好きになってくれた?」
めちゃくちゃ気になる。陽平は、顔を横に向け、
「言っただろ? 慎也、可愛いって」
「可愛くないけど?」
「本当に慎也は自己評価が低いなー。可愛いって。もっと自信持て」
俺の方に向き直ると、手を伸ばしてきた。その手は俺の右頬に触れた。今、すごくドキドキしてるんだけど、どうしてくれるんだ?
陽平はニカッとすると、
「顔、赤いぞ。やっぱり慎也は可愛いな」
「からかうなよ。そうだ。靴! あれは、わざとか?」
とうとう訊いてしまった。陽平を見ると、相変わらず笑顔で、
「当たり前だ。自分の靴箱、間違うわけないだろ? 慎也に構われたくて、あんなバカなことをしたってわけだ」
やっぱりわざとだったのか。俺は思わず、長い息を吐き出した。
「親友って言っておけば、しょっちゅうそばにいたって、おかしくない。だから、取り敢えずは親友ってことにしておこうって思って」
「大正解」
確かに陽平が言う通りだと俺も思う。よくそんなこと考えたね。すごいよ。
「ピアノのことは、もう話したし。後は何か訊きたいことは?」
俺は頭を巡らせて真剣に考えたけど、思いつかなかった。
「いや。ないかな」
「そうか。じゃあ、今度はオレが質問するぞ」
陽平はそう言うと、またニカッとしてみせた。
「陽平。そんなに見られたら、慎也が困るんじゃないか?」
隣のテーブルで、山ちゃんが溜息を吐いた。俺は、うっかり拍手をしそうになった。山ちゃん、いつもありがとう。
「困るのか? 何でだ?」
訊かれて俺は、やはり困ってしまった。上手く説明出来ないけど、普通そんなに見ないだろ?
黙っている俺を横目で見てきた山ちゃんは、「ほらね」と言った。陽平は山ちゃんの方に顔を向けると、
「ほらねって何だ?」
「だって、慎也、明らかに困ってるだろ? だから、ほらねって言ったんだ」
あくまで冷静な口調の山ちゃんは、同じ年齢とは思えない落ち着きを見せている。こういう人になりたい。なれそうもないけど。
俺がそんなことを考えていると、陽平は俺の両手を握った。その表情には、焦りのようなものが見て取れた。
「慎也。困ってるのか? 何でだ。誰のせいだ?」
俺は吹き出してしまった。陽平以外の誰が、俺を困らせていると思ってるんだ? 陽平以外にありえないだろ?
俺が笑っていると、山ちゃんとつっちーも笑い出した。そうだよ。おかしいよな? 笑っちゃうよな?
「誰のせい? 陽平のせいに決まってるじゃないか」
つっちーがそう言うと、陽平は、「え?」と言い、
「嘘だよな? 俺じゃないよな?」
自分じゃないと信じているらしかった。ある意味、すごいな。俺は何とか笑いを抑えると、
「つっちーが正しい。陽平が俺を困らせてるんだよ」
「何で? 俺、何かした?」
「したよ」
じっと俺を見つめて、俺をドキドキさせたじゃないか。どうしてこの人は、そこに気付けないんだろうか。
陽平は、俺の手をギュッと握ると、
「俺、何をした? 言ってくれ。悪いことしたなら、謝る。だから、困らないでくれ」
返事をする為に落ち着こうとしているけど、陽平の一言ひとことが俺を笑わせずにはいられない。そんな俺を、陽平は首を傾げながら見ている。
笑いがどうにか止まったのは、しばらくしてからだった。山ちゃんとつっちーも、ようやく落ち着いたようだ。山ちゃんとつっちーは、お互いに顔を見合わせ頷くと、
「陽平。俺たち、帰るよ。後は二人で頑張りな」
そう言って、山ちゃんが立ち上がった。つっちーも、「頑張りな」と言ってから立ち上がった。二人は、さっき出ていった人たち同様、俺たちに手を振ると店を出ていった。本当に、俺と陽平の二人きりになってしまった。大丈夫かなと心配になる。
俺は、食べかけていたドーナツを少しかじると、俯きながら飲み込んだ。変に緊張してきて、味がわからなくなってしまった。
陽平の視線を感じて、目を上げた。やはり、俺をじっと見ていた。その顔は真剣そのものだった。何か話し掛けた方がいいのか。それとも、黙っていた方がいいのか。これは、どうしたらいいんだろう。
逡巡して、結局は沈黙していた。陽平は、相変わらず俺を見ている。シーンとして見つめ合う俺たち。誰でもいいから、この静けさを破ってほしいと願った。
さらに五分くらいが過ぎた頃、陽平がようやく口を開いた。
「好きだ」
また告白されちゃったよ。何だかくすぐったい。そんな気分だ。俺はニッコリと笑って、
「俺も陽平が大好きだよ。でも、陽平。俺のこと、いつから……」
そんなことを訊いていいのか、わからなかったけど、訊いちゃったんだから仕方ない。陽平は、一瞬も迷った様子もなく、
「入学したその日だ」
「え? そうなんだ」
としか言えない。そんなにすぐだったとは、驚きだ。俺は、その先を訊かずにはいられなくなった。
「何で好きになってくれた?」
めちゃくちゃ気になる。陽平は、顔を横に向け、
「言っただろ? 慎也、可愛いって」
「可愛くないけど?」
「本当に慎也は自己評価が低いなー。可愛いって。もっと自信持て」
俺の方に向き直ると、手を伸ばしてきた。その手は俺の右頬に触れた。今、すごくドキドキしてるんだけど、どうしてくれるんだ?
陽平はニカッとすると、
「顔、赤いぞ。やっぱり慎也は可愛いな」
「からかうなよ。そうだ。靴! あれは、わざとか?」
とうとう訊いてしまった。陽平を見ると、相変わらず笑顔で、
「当たり前だ。自分の靴箱、間違うわけないだろ? 慎也に構われたくて、あんなバカなことをしたってわけだ」
やっぱりわざとだったのか。俺は思わず、長い息を吐き出した。
「親友って言っておけば、しょっちゅうそばにいたって、おかしくない。だから、取り敢えずは親友ってことにしておこうって思って」
「大正解」
確かに陽平が言う通りだと俺も思う。よくそんなこと考えたね。すごいよ。
「ピアノのことは、もう話したし。後は何か訊きたいことは?」
俺は頭を巡らせて真剣に考えたけど、思いつかなかった。
「いや。ないかな」
「そうか。じゃあ、今度はオレが質問するぞ」
陽平はそう言うと、またニカッとしてみせた。


