陽平が固まってしまった。周りを見ても、同じだった。これは、どうすればいいんだろうか。まさか、こんな状況になってしまうとは思ってなかった。
「慎也。今、何て言った? もう一度、言ってくれるか?」
陽平が恐る恐るといった感じでそう言ったのは、随分経ってからだった。一度言うのも二度言うのも、変わりはない。俺は陽平を見つめながら、
「大好きだって言ったんだよ。今度は、わかった?」
「俺を好き?」
「好きだってば。好きじゃダメなのか?」
あんまり疑うように言われたから、つい言い返してしまった。陽平は首を勢いよく左右に振ると、
「ダメじゃない。ダメなわけ、ないだろ?」
そう言いながらも、まだ信用していないのが何となく伝わってきた。
「でも……」
「陽平、しつこいぞ。そんなに言うなら、嫌いになる」
心にもないことを口走ってしまった。俺が一人で反省していると、陽平は目を見開き、
「嫌いになったらダメだ!」
いや。そんなに大きな声で言わなくても。恥ずかしいから、声を落としてほしい。
握られていた手には、さらに力が込められ、痛くなってきた。さすが陽平。人のこと、構わないんだから。でも、そんな陽平なのに、嫌いになれない。もう、ずっと前から知ってたんだ。
「陽平。俺の気持ちを信じてくれれば、嫌いにならないよ」
「信じる。信じるから、嫌うなよ?」
何だよ、この可愛い人は。必死すぎなんだけど。俺は、我慢出来ずに笑い出してしまった。周りからも笑いが起こり、拍手までしてくれた。温かい空気を感じていた。陽平、みんなに愛されてるな。俺もさっきの翡翠さんみたいに、陽平の頭を撫でてやりたい。そんな気持ちになっていた。
その時、園路さんが椅子から立ち上がり、陽平の隣へ移動してきた。園路さんは陽平の肩を軽く叩くと、
「よかったね」
優しい響きの声で言った。その表情の柔らかいこと。こんな顔で見つめられたら、誰だってドキッとするよな。さすが、バンドの看板だ。
陽平は園路さんの方に顔を向けると、「兄貴……」と呟くように言った。本当に、この兄弟は……。
「慎也くん。こんな弟だけど、よろしくね? ちょっと変わってるけど、悪気はないから」
悪気があるんじゃないかと勘繰った時もあったけど。実際、あの靴の取り違え事件は、悪気があったんじゃないのか? 本気で間違えたのか? 確認した方がいいだろうか。
「あの……陽平……」
俺が、ためらいながら呼び掛けると陽平は、
「どうした、慎也」
「……ごめん。何でもない」
「言いかけたんだから、言えよ」
「いや、やっぱりやめておく」
「何だよ、それ」
陽平がさらに訊いてくると、そばに立つ園路さんが陽平の頭を軽く叩いた。園路さんを見上げる陽平は、口を尖らせていた。それ、可愛いから、今はやめてくれ。
「陽平。慎也くんをいじめたら、ダメだってば」
「いじめてないだろ?」
「嫌がってるんだから、やめてあげなよ。いつか、話してくれるから」
陽平は、俺の方に視線を向けると、
「そうなのか?」
詰問口調。やっぱり、訊こうとするなんてやめておけばよかった。俺は俯き、
「いつかね」
訊けるかどうか、わかんないけど。そっと顔を上げてみると、陽平はニカッとしていた。もう、機嫌が直ったらしい。よくわからない。でも、そんな陽平が好きなんだから仕方ない。
「じゃあさ、慎也。約束」
「約束?」
陽平は、握り合っていた手を離すと、小指を立てて俺の顔の前に差し出してきた。こんなにギャラリーがいるところで、この人は何を俺にさせようとしてるんだ? 恥ずかしくないのか? 俺は恥ずかしい。
俺が小指を絡めようとしないからか、陽平は表情を曇らせ首を傾げた。これは、首を傾げるところ? わかってくれよ。
「恥ずかしいから、指切りげんまんなんかしない」
はっきり言ってやると、陽平は口をポカンと開けてしまった。そんなに驚くこと?
「陽平。慎也くんに嫌われたい?」
園路さんが、またそう言って釘を刺してくれる。陽平は頭をブンブン振ると、
「嫌われるのは嫌だって言ってるだろ」
「じゃあ、嫌われないようにしないとね」
口元に笑みを浮かべる園路さんは、本当にスターって感じだ。
「陽平は、自分勝手。わかった?」
園路さんの言葉に、ギャラリー三人が笑い出した。俺も笑わずにはいられなかった。陽平は、また口を尖らせてしまった。すねてる陽平も、俺はお気に入りだ。好きって感情は、こんなことも受容しちゃうんだな、と呆れる思いだ。そんなこと、初めて知ったよ。ありがとう、陽平。
「陽平。慎也くんを好きなら、自分を押し付けない。慎也くんがどうしたいか、それも考えてあげなきゃ。じゃないと、嫌われるよ」
断言して、園路さんは陽平の頭を撫でた。
「僕の大事な陽平に、悲しい思いをしてほしくないから言ってるんだよ。お兄ちゃんの言うこと、聴いときな?」
「兄貴……」
「本当に陽平は可愛いんだから」
仲良しの二人。割って入ったのは、翡翠さんだった。翡翠さんは立ち上がると、園路さんのそばへ行き、
「陽平を好きなのは知ってる。でも、妬けるからそれ以上仲のいいのを見せびらかすなよ。もう、行くぞ」
園路さんの腕を軽く引いた。園路さんは翡翠さんを見て頷くと、あっさり陽平から離れた。兄弟愛より、恋愛か。手を振って店を出ていく二人を、俺たちは手を振り返しながら見送った。
「慎也。今、何て言った? もう一度、言ってくれるか?」
陽平が恐る恐るといった感じでそう言ったのは、随分経ってからだった。一度言うのも二度言うのも、変わりはない。俺は陽平を見つめながら、
「大好きだって言ったんだよ。今度は、わかった?」
「俺を好き?」
「好きだってば。好きじゃダメなのか?」
あんまり疑うように言われたから、つい言い返してしまった。陽平は首を勢いよく左右に振ると、
「ダメじゃない。ダメなわけ、ないだろ?」
そう言いながらも、まだ信用していないのが何となく伝わってきた。
「でも……」
「陽平、しつこいぞ。そんなに言うなら、嫌いになる」
心にもないことを口走ってしまった。俺が一人で反省していると、陽平は目を見開き、
「嫌いになったらダメだ!」
いや。そんなに大きな声で言わなくても。恥ずかしいから、声を落としてほしい。
握られていた手には、さらに力が込められ、痛くなってきた。さすが陽平。人のこと、構わないんだから。でも、そんな陽平なのに、嫌いになれない。もう、ずっと前から知ってたんだ。
「陽平。俺の気持ちを信じてくれれば、嫌いにならないよ」
「信じる。信じるから、嫌うなよ?」
何だよ、この可愛い人は。必死すぎなんだけど。俺は、我慢出来ずに笑い出してしまった。周りからも笑いが起こり、拍手までしてくれた。温かい空気を感じていた。陽平、みんなに愛されてるな。俺もさっきの翡翠さんみたいに、陽平の頭を撫でてやりたい。そんな気持ちになっていた。
その時、園路さんが椅子から立ち上がり、陽平の隣へ移動してきた。園路さんは陽平の肩を軽く叩くと、
「よかったね」
優しい響きの声で言った。その表情の柔らかいこと。こんな顔で見つめられたら、誰だってドキッとするよな。さすが、バンドの看板だ。
陽平は園路さんの方に顔を向けると、「兄貴……」と呟くように言った。本当に、この兄弟は……。
「慎也くん。こんな弟だけど、よろしくね? ちょっと変わってるけど、悪気はないから」
悪気があるんじゃないかと勘繰った時もあったけど。実際、あの靴の取り違え事件は、悪気があったんじゃないのか? 本気で間違えたのか? 確認した方がいいだろうか。
「あの……陽平……」
俺が、ためらいながら呼び掛けると陽平は、
「どうした、慎也」
「……ごめん。何でもない」
「言いかけたんだから、言えよ」
「いや、やっぱりやめておく」
「何だよ、それ」
陽平がさらに訊いてくると、そばに立つ園路さんが陽平の頭を軽く叩いた。園路さんを見上げる陽平は、口を尖らせていた。それ、可愛いから、今はやめてくれ。
「陽平。慎也くんをいじめたら、ダメだってば」
「いじめてないだろ?」
「嫌がってるんだから、やめてあげなよ。いつか、話してくれるから」
陽平は、俺の方に視線を向けると、
「そうなのか?」
詰問口調。やっぱり、訊こうとするなんてやめておけばよかった。俺は俯き、
「いつかね」
訊けるかどうか、わかんないけど。そっと顔を上げてみると、陽平はニカッとしていた。もう、機嫌が直ったらしい。よくわからない。でも、そんな陽平が好きなんだから仕方ない。
「じゃあさ、慎也。約束」
「約束?」
陽平は、握り合っていた手を離すと、小指を立てて俺の顔の前に差し出してきた。こんなにギャラリーがいるところで、この人は何を俺にさせようとしてるんだ? 恥ずかしくないのか? 俺は恥ずかしい。
俺が小指を絡めようとしないからか、陽平は表情を曇らせ首を傾げた。これは、首を傾げるところ? わかってくれよ。
「恥ずかしいから、指切りげんまんなんかしない」
はっきり言ってやると、陽平は口をポカンと開けてしまった。そんなに驚くこと?
「陽平。慎也くんに嫌われたい?」
園路さんが、またそう言って釘を刺してくれる。陽平は頭をブンブン振ると、
「嫌われるのは嫌だって言ってるだろ」
「じゃあ、嫌われないようにしないとね」
口元に笑みを浮かべる園路さんは、本当にスターって感じだ。
「陽平は、自分勝手。わかった?」
園路さんの言葉に、ギャラリー三人が笑い出した。俺も笑わずにはいられなかった。陽平は、また口を尖らせてしまった。すねてる陽平も、俺はお気に入りだ。好きって感情は、こんなことも受容しちゃうんだな、と呆れる思いだ。そんなこと、初めて知ったよ。ありがとう、陽平。
「陽平。慎也くんを好きなら、自分を押し付けない。慎也くんがどうしたいか、それも考えてあげなきゃ。じゃないと、嫌われるよ」
断言して、園路さんは陽平の頭を撫でた。
「僕の大事な陽平に、悲しい思いをしてほしくないから言ってるんだよ。お兄ちゃんの言うこと、聴いときな?」
「兄貴……」
「本当に陽平は可愛いんだから」
仲良しの二人。割って入ったのは、翡翠さんだった。翡翠さんは立ち上がると、園路さんのそばへ行き、
「陽平を好きなのは知ってる。でも、妬けるからそれ以上仲のいいのを見せびらかすなよ。もう、行くぞ」
園路さんの腕を軽く引いた。園路さんは翡翠さんを見て頷くと、あっさり陽平から離れた。兄弟愛より、恋愛か。手を振って店を出ていく二人を、俺たちは手を振り返しながら見送った。


