翡翠さんは園路さんから離れると、山ちゃんたちのテーブルから椅子を一つこちらに引っ張ってきて座った。そして、さも当たり前のような顔で、園路さんの食べかけのドーナツを口に運んだ。それに対して、園路さんも何も言わない。本当にこの二人は、恋愛しているらしい。人のことなのに、胸がドキドキしてきた。
翡翠さんはドーナツを飲み込むと、
「それで? どんな楽しいパーティーが始まるの?」
本気で楽しみにしている感じだ。いや、楽しいことは始まりません。俺がみんなの前で告白をするだけです。そう説明したらいいんだろうか。
迷っていたら、園路さんが俺にちょっと視線を向けてから、
「慎也くんにとっては、楽しくも何ともないんだ。陽平が、慎也くんに無理なこと言って困らせてる最中。こんな大人数の前で、陽平は何を言わせようとしてるんだろうね。初めは僕だけだったから、まあいいか、と思ってたけど」
よくないです、と突っ込みそうになったが堪えた。
「三人増えて、まだ言わせようとしてるなんて、どうなんだろう」
「どうなんだろう、って何だ?」
翡翠さんが訊き返したけど、園路さんは首を振っただけだった。そんな仕草でさえも、ブラティーの園路だと思うと、普通にドキッとする。
「ま、今の説明で何となくわかった。陽平。まずは、おまえだ。慎也くんに何か言わせる前に、おまえが言ってみな?」
ニヤッとして陽平を見る翡翠さん。さすがプロのロッカー。かっこよすぎる。何でこの人たち、こんなにすごいんだろう。
翡翠さんに言われて、陽平は俯いた。ドーナツは三個残っているけど、今はそれどころじゃないみたいだ。しばらくそうしていた陽平が、急に顔を上げた。俺はびっくりして、体がビクッとしてしまった。もう一度、告白するつもりか? もう言わなくてもわかってるから、勘弁してほしい。翡翠さん。余計なこと言わないでください。もちろん、口に出したりはしない。
「言う気になったか? よし。じゃあ、言ってみな」
促されて陽平は、俺を睨みつける勢いで見てきた。怖いから、その顔はやめてほしい。陽平は、俺の気持ちなんか全くわかっていないようで、強い目つきで俺を見続けている。陽平は、大きく息を吸い、吐き出すと同時に、「好きだ」と言った。顔が赤くなっている陽平を見て、俺は思わず微笑んでしまった。可愛すぎる。
翡翠さんは手を伸ばし、陽平の頭を撫で始めた。
「小学生だった陽平が、人を好きになっちゃうんだな」
しみじみとした感じで、翡翠さんが言った。そんなに前からの知り合いだったのか、と驚いた。
「ねえ、陽平。今、慎也くんに告白してみて、どうだった? 僕と翡翠くんと山ちゃんとつっちーがいるここでの告白」
園路さんが、口元に笑みを浮かべながら言った。というか、山ちゃんとつっちーは、あだな呼び? 何だか羨ましい。それしか呼び方を知らないだけかもしれないけど、そんな呼ばれ方したら、俺なら普通に喜んじゃうな。二人は別に気にしてなさそうだけど。
園路さんに訊かれて、陽平は赤らんだ顔を下に向けた。
「陽平。答えてよ」
「何でそんなにしつこく訊いてくるんだよ」
ぼそっと言う陽平に、園路さんは、
「だって、陽平が慎也くんに酷いことをしようとしたから。どう感じたのか、言ってごらん?」
お兄さんモードに入った園路さんは、簡単には引いてくれなかった。諦めたのか、陽平はゆっくりと顔を上げ、
「めちゃくちゃ恥ずかしかった」
「ほら。誰だってそうなんだよ。僕が帰るって言っても引き留めるし。ま、僕も慰めるなんて言ったからよくなかったけどさ。あとの三人が現れた時点で、ちょっと考えなきゃだったんじゃない? 慎也くんに嫌われたければ別にいいけど」
「兄貴!」
「僕なら嫌だけど。ギャラリーがいる状態での告白なんて。僕は、二人きりの時にしたよ?」
そうなんだ、と興味を持ってしまう俺を許してほしい。だって、スターだから。
陽平は、眉が下がっていて残念な感じになっている。俺は、ただ陽平を見つめていた。陽平は俺の手を握ると、小さな声で、
「ごめん……」
「陽平……」
「俺が悪かった。兄貴をここにいさせたり、山ちゃんとつっちーをそばに呼んだり。でもさ、翡翠さんは、俺呼んでないけど」
反省の中にも、これだけは譲れない、みたいな気持ちがあるようだ。不謹慎かもしれないけど、俺はつい吹き出してしまった。ごめん、陽平。
「何だか、一人で聴くのが怖くなってきてさ。兄貴がそばにいてくれたら。山ちゃんたちがそばにいてくれたら、なんて思い始めちゃって。本当にごめん」
「もう、いいよ。わかったから」
俺は、握られた手に目を落とした。さっきより少し、力が込められている。もう大丈夫なのに、まだ心配なのかもしれない。俺は目を上げると陽平を見つめた。陽平が、首を傾げて俺を見返してきた。俺は陽平に微笑みかけると、
「俺も陽平のこと、大好きだよ」
ためらいなく、そう言った。
翡翠さんはドーナツを飲み込むと、
「それで? どんな楽しいパーティーが始まるの?」
本気で楽しみにしている感じだ。いや、楽しいことは始まりません。俺がみんなの前で告白をするだけです。そう説明したらいいんだろうか。
迷っていたら、園路さんが俺にちょっと視線を向けてから、
「慎也くんにとっては、楽しくも何ともないんだ。陽平が、慎也くんに無理なこと言って困らせてる最中。こんな大人数の前で、陽平は何を言わせようとしてるんだろうね。初めは僕だけだったから、まあいいか、と思ってたけど」
よくないです、と突っ込みそうになったが堪えた。
「三人増えて、まだ言わせようとしてるなんて、どうなんだろう」
「どうなんだろう、って何だ?」
翡翠さんが訊き返したけど、園路さんは首を振っただけだった。そんな仕草でさえも、ブラティーの園路だと思うと、普通にドキッとする。
「ま、今の説明で何となくわかった。陽平。まずは、おまえだ。慎也くんに何か言わせる前に、おまえが言ってみな?」
ニヤッとして陽平を見る翡翠さん。さすがプロのロッカー。かっこよすぎる。何でこの人たち、こんなにすごいんだろう。
翡翠さんに言われて、陽平は俯いた。ドーナツは三個残っているけど、今はそれどころじゃないみたいだ。しばらくそうしていた陽平が、急に顔を上げた。俺はびっくりして、体がビクッとしてしまった。もう一度、告白するつもりか? もう言わなくてもわかってるから、勘弁してほしい。翡翠さん。余計なこと言わないでください。もちろん、口に出したりはしない。
「言う気になったか? よし。じゃあ、言ってみな」
促されて陽平は、俺を睨みつける勢いで見てきた。怖いから、その顔はやめてほしい。陽平は、俺の気持ちなんか全くわかっていないようで、強い目つきで俺を見続けている。陽平は、大きく息を吸い、吐き出すと同時に、「好きだ」と言った。顔が赤くなっている陽平を見て、俺は思わず微笑んでしまった。可愛すぎる。
翡翠さんは手を伸ばし、陽平の頭を撫で始めた。
「小学生だった陽平が、人を好きになっちゃうんだな」
しみじみとした感じで、翡翠さんが言った。そんなに前からの知り合いだったのか、と驚いた。
「ねえ、陽平。今、慎也くんに告白してみて、どうだった? 僕と翡翠くんと山ちゃんとつっちーがいるここでの告白」
園路さんが、口元に笑みを浮かべながら言った。というか、山ちゃんとつっちーは、あだな呼び? 何だか羨ましい。それしか呼び方を知らないだけかもしれないけど、そんな呼ばれ方したら、俺なら普通に喜んじゃうな。二人は別に気にしてなさそうだけど。
園路さんに訊かれて、陽平は赤らんだ顔を下に向けた。
「陽平。答えてよ」
「何でそんなにしつこく訊いてくるんだよ」
ぼそっと言う陽平に、園路さんは、
「だって、陽平が慎也くんに酷いことをしようとしたから。どう感じたのか、言ってごらん?」
お兄さんモードに入った園路さんは、簡単には引いてくれなかった。諦めたのか、陽平はゆっくりと顔を上げ、
「めちゃくちゃ恥ずかしかった」
「ほら。誰だってそうなんだよ。僕が帰るって言っても引き留めるし。ま、僕も慰めるなんて言ったからよくなかったけどさ。あとの三人が現れた時点で、ちょっと考えなきゃだったんじゃない? 慎也くんに嫌われたければ別にいいけど」
「兄貴!」
「僕なら嫌だけど。ギャラリーがいる状態での告白なんて。僕は、二人きりの時にしたよ?」
そうなんだ、と興味を持ってしまう俺を許してほしい。だって、スターだから。
陽平は、眉が下がっていて残念な感じになっている。俺は、ただ陽平を見つめていた。陽平は俺の手を握ると、小さな声で、
「ごめん……」
「陽平……」
「俺が悪かった。兄貴をここにいさせたり、山ちゃんとつっちーをそばに呼んだり。でもさ、翡翠さんは、俺呼んでないけど」
反省の中にも、これだけは譲れない、みたいな気持ちがあるようだ。不謹慎かもしれないけど、俺はつい吹き出してしまった。ごめん、陽平。
「何だか、一人で聴くのが怖くなってきてさ。兄貴がそばにいてくれたら。山ちゃんたちがそばにいてくれたら、なんて思い始めちゃって。本当にごめん」
「もう、いいよ。わかったから」
俺は、握られた手に目を落とした。さっきより少し、力が込められている。もう大丈夫なのに、まだ心配なのかもしれない。俺は目を上げると陽平を見つめた。陽平が、首を傾げて俺を見返してきた。俺は陽平に微笑みかけると、
「俺も陽平のこと、大好きだよ」
ためらいなく、そう言った。


