「あ……あの……俺……」
自分の気持ちを伝えようと口を開いたその時だった。動画で聴いたあの曲が流れ出した。これは、園路さんのスマホの着信音だ。
園路さんを見ると、上着のポケットに手を入れていた。そこにスマホがあるようだ。ポケットから出された手には、やはりスマホが握られていて、画面を操作し始めた。
「ごめん。待った? 今ね、陽平と一緒にいるんだ。陽平のお友達も。え? 来るの? どこにいるって、ほら、僕たちが出会ったドーナツ屋だよ。わかった。待ってる。ウサギの格好してきちゃダメだよ? じゃあ、後でね」
どうやら、電話の相手は翡翠さんらしい。ウサギの格好って……。さすがにしてこないと思うけど、普段からそういう人なんだろうか。それより、このドーナツ屋が二人の出会いの場? 気になる。でも、そんなこと訊いたらダメなことはわかっている。プライバシーの侵害だよな。
俺がそんなことを考えていると、園路さんがニッコリと笑って俺たちを見た。
「来るって」
「何で? 翡翠さん、何考えてるんだろう」
陽平が、不機嫌な表情で言った。いや。俺が今から陽平に気持ちを伝えるなんて、翡翠さんは知らないんだから。それは、八つ当たり? 八つ当たりは変か。
陽平のそんな態度に、園路さんは全く動じず、
「僕たちの出会いの場だからね。ま、いいじゃない」
「兄貴」
「大丈夫だよ」
「……って、何だよ」
園路さんは陽平に微笑むと、
「可愛いね」
慈愛に満ちた顔をして、囁くように言った。そうされて陽平は、何だか気まずそうな顔になってしまった。二人を見てると、兄弟っていいな、と思ってしまう。
と、その時、店のドアが開いてよく知っている声が聞こえてきた。そちらに振り向くと、やっぱり山ちゃんとつっちーだった。二人はここで打ち上げだろうか。二人ともすごく頑張ってたから、お互いを労いたいと思うのも道理だ。
でも、この店を選んだのは、わざと? そんなはずはないか。俺たちがこの店に来ることなんて、そもそも知らなかったはずだし、わざと嫌がらせみたいなことをする人たちではない。
陽平も二人が来たことに気が付いたのか、ドアの方に目をやった。どうするのかと思ったら、二人に向かって呼び掛けて、手を振った。しかも、隣のテーブルを指差し、ここに来いとばかりだ。二人は頷き、俺たちのそばに来たが、
「いいの? っていうか、ここで慎也は答えを伝えるの? その場に俺たち、いてもいいの?」
つっちーが、遠慮がちに確認してくる。俺たちが二人でいる理由。それをつっちーたちは当然知っている。陽平があの約束をさせた時、その場にいたんだから。
陽平は、深く頷き、
「いてくれ。それで、結果がどうであれ、証人になってくれ」
何だか、話が大きくなってきた。しかもこの後、翡翠さんまで来る。俺はどうすればいいんだろう。
陽平の言葉に、山ちゃんが溜息を吐き出した。額に手を当てると、
「陽平。おまえが身勝手なのは知ってるけど、慎也が可哀想じゃないのか? 俺たちとお兄さんまでいるところで、言わせようとするなんて。答えがイエスでも、言いにくいだろ? だって、普通に恥ずかしい。わからないかな?」
憐れむような表情の、大人な山ちゃん。そうだよ。俺は、どうしていいのかわからないくらい、恥ずかしい。何で大勢の前で、俺の気持ちを伝えなきゃいけないんだ? こんなはずじゃなかったのにさ。
陽平を見ると、首を傾げていた。山ちゃんの発言に納得していない? やっぱり陽平だな、と思ってしまう。
「山ちゃん。どうせわかることなんだから、同じだろ? イエスでもノーでも。俺たち、友達なんだから」
山ちゃんは、もう一度大きく息を吐き出すと俺を見て、
「慎也。こんなに人の気持ちを理解しない陽平がいいのか? それとも……」
「俺は……」
陽平が好きなんだ、と言おうとしたその時、もう一人のギャラリーが到着した。ドアが開き、園路さんの背中に抱きつく無邪気な感じの人、登場。初めて見る、本物の翡翠さんだ。よかった。ウサギの格好はしていない。ウサギの着ぐるみ着て現れたらどうしよう、と思っていたから、ホッとした。人がどんな格好しててもいいけど、やっぱりウサギが来たら、びっくりするからな。
これで、登場人物は出揃った。この人たちを目の前にして、俺は陽平に告白しなきゃいけないのか? それは、どんな嫌がらせなんだろう。本当に、わからないことばっかりだ。
翡翠さんは園路さんの背中に抱きついたまま、俺たちを見回すと、
「初めまして、かな? ブラティーのギタリストの翡翠です」
そんな、はっきり名乗りますか? しかも、抱きついたままですよ? いいんですか?
訊きたいけど、そんなことはしない。俺たちは口々に翡翠さんに挨拶をした。翡翠さんは、園路さんの髪を優しく撫でながら、
「で? 何か面白いことが始まるのかな? それじゃ、園路。決めゼリフ、言って?」
甘く囁かれた園路さんは、逆らうこともせず、
「ブラックティーパーティーへようこそ」
動画と同じ口調で言ってくれた。
自分の気持ちを伝えようと口を開いたその時だった。動画で聴いたあの曲が流れ出した。これは、園路さんのスマホの着信音だ。
園路さんを見ると、上着のポケットに手を入れていた。そこにスマホがあるようだ。ポケットから出された手には、やはりスマホが握られていて、画面を操作し始めた。
「ごめん。待った? 今ね、陽平と一緒にいるんだ。陽平のお友達も。え? 来るの? どこにいるって、ほら、僕たちが出会ったドーナツ屋だよ。わかった。待ってる。ウサギの格好してきちゃダメだよ? じゃあ、後でね」
どうやら、電話の相手は翡翠さんらしい。ウサギの格好って……。さすがにしてこないと思うけど、普段からそういう人なんだろうか。それより、このドーナツ屋が二人の出会いの場? 気になる。でも、そんなこと訊いたらダメなことはわかっている。プライバシーの侵害だよな。
俺がそんなことを考えていると、園路さんがニッコリと笑って俺たちを見た。
「来るって」
「何で? 翡翠さん、何考えてるんだろう」
陽平が、不機嫌な表情で言った。いや。俺が今から陽平に気持ちを伝えるなんて、翡翠さんは知らないんだから。それは、八つ当たり? 八つ当たりは変か。
陽平のそんな態度に、園路さんは全く動じず、
「僕たちの出会いの場だからね。ま、いいじゃない」
「兄貴」
「大丈夫だよ」
「……って、何だよ」
園路さんは陽平に微笑むと、
「可愛いね」
慈愛に満ちた顔をして、囁くように言った。そうされて陽平は、何だか気まずそうな顔になってしまった。二人を見てると、兄弟っていいな、と思ってしまう。
と、その時、店のドアが開いてよく知っている声が聞こえてきた。そちらに振り向くと、やっぱり山ちゃんとつっちーだった。二人はここで打ち上げだろうか。二人ともすごく頑張ってたから、お互いを労いたいと思うのも道理だ。
でも、この店を選んだのは、わざと? そんなはずはないか。俺たちがこの店に来ることなんて、そもそも知らなかったはずだし、わざと嫌がらせみたいなことをする人たちではない。
陽平も二人が来たことに気が付いたのか、ドアの方に目をやった。どうするのかと思ったら、二人に向かって呼び掛けて、手を振った。しかも、隣のテーブルを指差し、ここに来いとばかりだ。二人は頷き、俺たちのそばに来たが、
「いいの? っていうか、ここで慎也は答えを伝えるの? その場に俺たち、いてもいいの?」
つっちーが、遠慮がちに確認してくる。俺たちが二人でいる理由。それをつっちーたちは当然知っている。陽平があの約束をさせた時、その場にいたんだから。
陽平は、深く頷き、
「いてくれ。それで、結果がどうであれ、証人になってくれ」
何だか、話が大きくなってきた。しかもこの後、翡翠さんまで来る。俺はどうすればいいんだろう。
陽平の言葉に、山ちゃんが溜息を吐き出した。額に手を当てると、
「陽平。おまえが身勝手なのは知ってるけど、慎也が可哀想じゃないのか? 俺たちとお兄さんまでいるところで、言わせようとするなんて。答えがイエスでも、言いにくいだろ? だって、普通に恥ずかしい。わからないかな?」
憐れむような表情の、大人な山ちゃん。そうだよ。俺は、どうしていいのかわからないくらい、恥ずかしい。何で大勢の前で、俺の気持ちを伝えなきゃいけないんだ? こんなはずじゃなかったのにさ。
陽平を見ると、首を傾げていた。山ちゃんの発言に納得していない? やっぱり陽平だな、と思ってしまう。
「山ちゃん。どうせわかることなんだから、同じだろ? イエスでもノーでも。俺たち、友達なんだから」
山ちゃんは、もう一度大きく息を吐き出すと俺を見て、
「慎也。こんなに人の気持ちを理解しない陽平がいいのか? それとも……」
「俺は……」
陽平が好きなんだ、と言おうとしたその時、もう一人のギャラリーが到着した。ドアが開き、園路さんの背中に抱きつく無邪気な感じの人、登場。初めて見る、本物の翡翠さんだ。よかった。ウサギの格好はしていない。ウサギの着ぐるみ着て現れたらどうしよう、と思っていたから、ホッとした。人がどんな格好しててもいいけど、やっぱりウサギが来たら、びっくりするからな。
これで、登場人物は出揃った。この人たちを目の前にして、俺は陽平に告白しなきゃいけないのか? それは、どんな嫌がらせなんだろう。本当に、わからないことばっかりだ。
翡翠さんは園路さんの背中に抱きついたまま、俺たちを見回すと、
「初めまして、かな? ブラティーのギタリストの翡翠です」
そんな、はっきり名乗りますか? しかも、抱きついたままですよ? いいんですか?
訊きたいけど、そんなことはしない。俺たちは口々に翡翠さんに挨拶をした。翡翠さんは、園路さんの髪を優しく撫でながら、
「で? 何か面白いことが始まるのかな? それじゃ、園路。決めゼリフ、言って?」
甘く囁かれた園路さんは、逆らうこともせず、
「ブラックティーパーティーへようこそ」
動画と同じ口調で言ってくれた。


