陽平と並んで門に向かって歩いていると、何だか人だかりしているのが目に入った。陽平も気が付いたのか、首を傾げていた。
「何かあったのかな」
俺が疑問を口にすると陽平は、「さあな」と言った。確かに、わかるわけがないよな、と思った。そばまで行くと、人だかりの真ん中に俺も陽平もよく知っている人物がいた。
帽子を目深に被って、サングラスを掛けて、マスクして。黒服。まさか本当にその格好で現れるとは。逆に、目立ってしまったようだ。
俺が何か言う前に、陽平が動いた。「兄貴!」と大きな声で言いながら近寄っていき、その人の腕を掴んだ。そうされたその人は、顔を上げて陽平を見ているらしかった。
「兄貴、何やってんだよ。囲まれちゃって」
「みんな、僕のこと、ブラティーの園路だって言うんだけどさ。誰それ?」
そう来たか。俺は笑いそうになるのを必死で堪えていた。陽平は渋面を作り、
「兄貴がそんな格好するからだよ」
園路さんにそう言うと、今度はギャラリーをぐるりと見回してから、
「これ、俺の兄貴。たまに言われるんだよね。ブラティーの園路に似てるって。だから、そういう格好するなって、普段から言ってるんだけど」
「だってさ、僕はこういう格好するのが好きなんだから、仕方ないだろ?」
「ダメだって言ってるだろ。ま、もういいや。ほら、行こう」
「どこに行くって?」
陽平はニカッとしてみせると、
「いつものドーナツ屋だよ」
「ああ。あそこ。じゃ、行こうか」
陽平、園路さんの救出に成功。美しい兄弟愛だ。
それはともかく、園路さんも一緒に行くということか。ということは、俺が陽平に返事するのをそばで聞かれる、と。それって、どうなんだ?
俺がそんなことを考えている間も、陽平は、
「悪目立ちしてるから」
「絶対バレないと思ったんだけどな」
小さく笑う園路さんは、帽子を目深に被っていようが、サングラスとマスクで顔を隠していようが、やっぱりかっこいい。芸能人になるような人は、俺みたいな普通の人とは何か違う。それなのに、自己評価は低めだ。園路さん、不思議な人だ。
そうして、兄弟喧嘩のようなのを聞かされながらドーナツ屋の前まで来た。本当に園路さんも一緒? 俺の気持ちを察したのか、園路さんは、「あ」と言い、
「陽平。僕、邪魔だよね? 帰った方がいいよね?」
「邪魔じゃない。入ろう」
何で積極的に誘ってるんだ? 本来の目的を忘れてないか? 今から俺は、陽平の告白に対する答えを伝えようとしてるんだぞ。
でも、そんなこと言えるわけがない。三人で店に入って、テーブルをキープ。順番に買いに行っては戻ってきた。三人揃うと園路さんが、
「じゃ、いただきます」
そこでようやく、マスクを外した。食べるんだから、外すのは当たり前だけど、つい注目してしまった。陽平が俺の頭を軽く叩いてきた。
「陽平。それは、やきもち?」
「悪いか? そうだよ。そうに決まってるだろ?」
「お兄さんは雰囲気のある人だから、つい見ちゃっただけだよ」
俺は俯き、息を吐き出した。さあ、そろそろ答えを伝える時間だ。陽平は、例のようにガツガツ食べている。今日は六個。すごすぎる。俺、怒らせたかな。ヤケ食い?
「慎也。これはヤケ食いじゃないぞ。おまえの返事を聴く為に、食べてるんだ」
「え? 意味がわかんないけど……」
「素面で聴けるか!」
素面。これは、アルコールではないと思うけど。俺が、いったいどんな答えを出すと踏んでのこの食事量なんだろう。
園路さんは、俺と陽平を順番に見ると、
「あー。なるほど。そういうことなんだ」
状況を何となく理解してくれたようだ。
「やっぱり僕、邪魔だったじゃないか。陽平、僕帰るよ」
「ダメだ。いてくれ、兄貴」
陽平が訴えると、園路さんはマスクを外したままの口元に笑みを浮かべ、陽平の頭を撫でた。
「陽平は、可愛い。甘えちゃって」
「甘えてないだろ?」
「甘えてる。でも、可愛いから許してあげるよ」
こういう時は、園路さんがちゃんとお兄さんに見える。でも、大抵は陽平の方がしっかりしているように見える。面白い兄弟だなと思う。
「兄貴。今から俺は、慎也の答えを聴くんだ。ダメだったら、慰めてやってくれよ。いいよな?」
「いいよ。だって僕、陽平のお兄ちゃんだからね」
ドーナツをちぎって口に入れると、園路さんはかなりの回数咀嚼してから飲み込んでいた。消化によさそうな食べ方だな、と感心してしまう。
俺がじっと見ていると、園路さんが俺に微笑んだ。
「慎也くん。陽平に答えを出してやってよ。僕もね、気持ちを伝えた時、ドキドキだったな。でも、嫌われなくってよかったって、今は思ってる。さ、言っちゃって」
他人事だから、そんなに笑顔なんだろうか。それとも、自分のその時と重ねて、つい微笑んでしまうのだろうか。
俺は、園路さんの応援を受けて、陽平に視線を移動させた。ドーナツに噛みついていた陽平が、急に真顔になり、ドーナツをお皿に戻した。
「それで? 慎也は俺のこと……」
陽平に見つめられて、俺の心臓は忙しなく鼓動し始めた。
「何かあったのかな」
俺が疑問を口にすると陽平は、「さあな」と言った。確かに、わかるわけがないよな、と思った。そばまで行くと、人だかりの真ん中に俺も陽平もよく知っている人物がいた。
帽子を目深に被って、サングラスを掛けて、マスクして。黒服。まさか本当にその格好で現れるとは。逆に、目立ってしまったようだ。
俺が何か言う前に、陽平が動いた。「兄貴!」と大きな声で言いながら近寄っていき、その人の腕を掴んだ。そうされたその人は、顔を上げて陽平を見ているらしかった。
「兄貴、何やってんだよ。囲まれちゃって」
「みんな、僕のこと、ブラティーの園路だって言うんだけどさ。誰それ?」
そう来たか。俺は笑いそうになるのを必死で堪えていた。陽平は渋面を作り、
「兄貴がそんな格好するからだよ」
園路さんにそう言うと、今度はギャラリーをぐるりと見回してから、
「これ、俺の兄貴。たまに言われるんだよね。ブラティーの園路に似てるって。だから、そういう格好するなって、普段から言ってるんだけど」
「だってさ、僕はこういう格好するのが好きなんだから、仕方ないだろ?」
「ダメだって言ってるだろ。ま、もういいや。ほら、行こう」
「どこに行くって?」
陽平はニカッとしてみせると、
「いつものドーナツ屋だよ」
「ああ。あそこ。じゃ、行こうか」
陽平、園路さんの救出に成功。美しい兄弟愛だ。
それはともかく、園路さんも一緒に行くということか。ということは、俺が陽平に返事するのをそばで聞かれる、と。それって、どうなんだ?
俺がそんなことを考えている間も、陽平は、
「悪目立ちしてるから」
「絶対バレないと思ったんだけどな」
小さく笑う園路さんは、帽子を目深に被っていようが、サングラスとマスクで顔を隠していようが、やっぱりかっこいい。芸能人になるような人は、俺みたいな普通の人とは何か違う。それなのに、自己評価は低めだ。園路さん、不思議な人だ。
そうして、兄弟喧嘩のようなのを聞かされながらドーナツ屋の前まで来た。本当に園路さんも一緒? 俺の気持ちを察したのか、園路さんは、「あ」と言い、
「陽平。僕、邪魔だよね? 帰った方がいいよね?」
「邪魔じゃない。入ろう」
何で積極的に誘ってるんだ? 本来の目的を忘れてないか? 今から俺は、陽平の告白に対する答えを伝えようとしてるんだぞ。
でも、そんなこと言えるわけがない。三人で店に入って、テーブルをキープ。順番に買いに行っては戻ってきた。三人揃うと園路さんが、
「じゃ、いただきます」
そこでようやく、マスクを外した。食べるんだから、外すのは当たり前だけど、つい注目してしまった。陽平が俺の頭を軽く叩いてきた。
「陽平。それは、やきもち?」
「悪いか? そうだよ。そうに決まってるだろ?」
「お兄さんは雰囲気のある人だから、つい見ちゃっただけだよ」
俺は俯き、息を吐き出した。さあ、そろそろ答えを伝える時間だ。陽平は、例のようにガツガツ食べている。今日は六個。すごすぎる。俺、怒らせたかな。ヤケ食い?
「慎也。これはヤケ食いじゃないぞ。おまえの返事を聴く為に、食べてるんだ」
「え? 意味がわかんないけど……」
「素面で聴けるか!」
素面。これは、アルコールではないと思うけど。俺が、いったいどんな答えを出すと踏んでのこの食事量なんだろう。
園路さんは、俺と陽平を順番に見ると、
「あー。なるほど。そういうことなんだ」
状況を何となく理解してくれたようだ。
「やっぱり僕、邪魔だったじゃないか。陽平、僕帰るよ」
「ダメだ。いてくれ、兄貴」
陽平が訴えると、園路さんはマスクを外したままの口元に笑みを浮かべ、陽平の頭を撫でた。
「陽平は、可愛い。甘えちゃって」
「甘えてないだろ?」
「甘えてる。でも、可愛いから許してあげるよ」
こういう時は、園路さんがちゃんとお兄さんに見える。でも、大抵は陽平の方がしっかりしているように見える。面白い兄弟だなと思う。
「兄貴。今から俺は、慎也の答えを聴くんだ。ダメだったら、慰めてやってくれよ。いいよな?」
「いいよ。だって僕、陽平のお兄ちゃんだからね」
ドーナツをちぎって口に入れると、園路さんはかなりの回数咀嚼してから飲み込んでいた。消化によさそうな食べ方だな、と感心してしまう。
俺がじっと見ていると、園路さんが俺に微笑んだ。
「慎也くん。陽平に答えを出してやってよ。僕もね、気持ちを伝えた時、ドキドキだったな。でも、嫌われなくってよかったって、今は思ってる。さ、言っちゃって」
他人事だから、そんなに笑顔なんだろうか。それとも、自分のその時と重ねて、つい微笑んでしまうのだろうか。
俺は、園路さんの応援を受けて、陽平に視線を移動させた。ドーナツに噛みついていた陽平が、急に真顔になり、ドーナツをお皿に戻した。
「それで? 慎也は俺のこと……」
陽平に見つめられて、俺の心臓は忙しなく鼓動し始めた。


