「砂糖とミルク。お好みでどうぞ」
母さんがそう言うと、陽平がシュガーポットの蓋を開け、
「砂糖、いる人」
俺たち三人は、黙って挙手した。陽平は、スプーンを手にすると、カップに一杯ずつ砂糖を入れた。
「ミルクは?」
また三人同時に手を挙げた。陽平は頷き、ミルクをスーッと二周り分入れた。コーヒーの表面に渦が出来る。何かの絵のようだ。
陽平は、スプーンでくるくるとコーヒーをかき混ぜた。何でそこまでしてくれるんだ、この人。疑問に思わなくもなかったが、すぐに、まあいいかと思い直した。
陽平がいろいろしてくれたコーヒーに口をつける。何となく、幸せな気持ちになった。
俺たちがコーヒーを飲んでいると、母さんが料理を運んできた。俺は立ち上がり、
「オレも手伝う」
母さんは俺を見つめて、「え?」と言った。そんなに驚かれると、ちょっと残念だ。これからはもう少し協力しよう、と心の中で誓った。
母さんと二人で料理をテーブルに並べると、陽平が、
「おいしそう」
目が輝いているように見えた。そうだ。母さんの料理は、おいしいんだ。口にはしないけど、誇らしい気持ちでいた。
「どうぞ」
母さんが俺たちに、微笑みながら言った。陽平はためらうことなく、「いただきま〜す!」と元気よく言うと、食べ始めた。俺も負けずに食べる。俺たちを見て、山ちゃんとつっちーも、ようやく食べ始める。
「見た目だけじゃなくって、本当においしい。慎也、いいな。毎日、こんなおいしい物食べられて」
つっちーが、笑顔で感想を述べた。陽平は、感想を言うどころじゃない。ひたすら、パクパクと料理を口に運んでいた。気持ちのいい食べっぷりだ。俺もこんな感じに食べてみたい。でも、出来ないんだよな。
母さんは、席に着きながらも食べ始めない。ただ俺たちを見ている。相変わらず微笑みを浮かべているけど、何だか泣きそうにも見える危うい感じがした。
また泣かれるんだろうか。俺が悪かった。だから、そろそろ勘弁してくれないかな、と心の中で呟いていた。泣かれると俺ももらい泣きしそうで、でもそれは避けたい。この三人に見られるのは恥ずかしいから。
「安達くん。ありがとうね」
母さんが、陽平に顔を向けて言った。声が揺れた気がするけど、きっと思い違いだ。
「あなたが慎也と友達になってくれたから、山本くんと土屋くんとも仲良くなれたって聞いたから」
間違いなく、母さんの声は揺れていた。しかも、限界を迎えたらしく、小さくしゃくり上げるのが聞こえてきた。
陽平が、真顔で母さんを見た。頬張っていたご飯を急いで飲み込むと、
「そうなんですけど、違うんです。俺、本当は……」
「わー!」
つい大きな声を出して、邪魔をしてしまった。陽平、何を言おうとしているんだ。やめろ。口から出掛かったが、何とか飲み込んだ。
俺の心を読んだのか、陽平は俺に向かってニカッとした。また、からかわれているようだ。俺は溜息を吐いて、
「陽平。頼むから、悪ノリしないでくれよ」
「何のことだ?」
涼しい顔で、しらばっくれる陽平に、言い返す言葉がない。俺は首を振り、
「いや。何でもない」
そう言うしかなかった。陽平は、ハハッと笑って、
「お母さん。本当においしいです。俺、慎也くんと友達になれて、嬉しいです」
「あら……」
泣きながら笑む母さん。胸が痛んだ。
「出来ればもっと……」
俺は陽平を睨んだ。が、陽平は全く気にした様子もなく、笑顔のまま首を傾げた。
「陽平。退場って言うぞ」
「退場?」
「まだ言わないけど、次は言う」
「何でそんなこと言おうとしてるんだ? わかんないな」
わからない? わかるだろ?
「安達くんと慎也、本当に仲良しなのね。よかった」
涙声の母さん。それは、少し違う。仲良しだとは思うけど、陽平はただの仲良しを希望してはいないんだ。それと、俺も。たぶんそうだ。俺は陽平を……。
陽平は箸を置いて、母さんの手を握った。何それ。怖いんだけど。
「俺、本当は、もっともっと慎也くんと親しくなりたいんです」
「陽平!」
まだ自分の気持ちが揺らがないほどしっかりしたものじゃない今、そういうこと言うなよ。でも、言えないから唇を噛みしめる。そんな俺を、山ちゃんが横目で見た。その表情には、同情みたいなものが見て取れた。ありがとう、山ちゃん。いつも優しいよな。
つっちーは、食事の手を止めて、俺を見ていた。つっちーも、やっぱり同情を感じさせる表情が浮かんでいた。本当に、二人にはどれだけ助けられてきたか。陽平、ありがとう。このことには感謝する。でも、母さんに何か余計なことを言おうとしているらしい陽平は困る。
「慎也、どうした?」
「どうしたじゃない。俺をからかうのは、やめてくれよ」
「別に、からかってないんだけどな」
「いや。からかってる」
俺の言葉に、山ちゃんとつっちーがそっと拍手をくれた。同意してくれたようで嬉しい。
「とにかくさ、母さんに余計なこと言うのはやめてくれ」
「余計なことじゃない。わかってくれないのか。残念」
口を尖らせて、すねたような顔をする。そんな陽平を、俺はただ見つめるばかりだった。
母さんがそう言うと、陽平がシュガーポットの蓋を開け、
「砂糖、いる人」
俺たち三人は、黙って挙手した。陽平は、スプーンを手にすると、カップに一杯ずつ砂糖を入れた。
「ミルクは?」
また三人同時に手を挙げた。陽平は頷き、ミルクをスーッと二周り分入れた。コーヒーの表面に渦が出来る。何かの絵のようだ。
陽平は、スプーンでくるくるとコーヒーをかき混ぜた。何でそこまでしてくれるんだ、この人。疑問に思わなくもなかったが、すぐに、まあいいかと思い直した。
陽平がいろいろしてくれたコーヒーに口をつける。何となく、幸せな気持ちになった。
俺たちがコーヒーを飲んでいると、母さんが料理を運んできた。俺は立ち上がり、
「オレも手伝う」
母さんは俺を見つめて、「え?」と言った。そんなに驚かれると、ちょっと残念だ。これからはもう少し協力しよう、と心の中で誓った。
母さんと二人で料理をテーブルに並べると、陽平が、
「おいしそう」
目が輝いているように見えた。そうだ。母さんの料理は、おいしいんだ。口にはしないけど、誇らしい気持ちでいた。
「どうぞ」
母さんが俺たちに、微笑みながら言った。陽平はためらうことなく、「いただきま〜す!」と元気よく言うと、食べ始めた。俺も負けずに食べる。俺たちを見て、山ちゃんとつっちーも、ようやく食べ始める。
「見た目だけじゃなくって、本当においしい。慎也、いいな。毎日、こんなおいしい物食べられて」
つっちーが、笑顔で感想を述べた。陽平は、感想を言うどころじゃない。ひたすら、パクパクと料理を口に運んでいた。気持ちのいい食べっぷりだ。俺もこんな感じに食べてみたい。でも、出来ないんだよな。
母さんは、席に着きながらも食べ始めない。ただ俺たちを見ている。相変わらず微笑みを浮かべているけど、何だか泣きそうにも見える危うい感じがした。
また泣かれるんだろうか。俺が悪かった。だから、そろそろ勘弁してくれないかな、と心の中で呟いていた。泣かれると俺ももらい泣きしそうで、でもそれは避けたい。この三人に見られるのは恥ずかしいから。
「安達くん。ありがとうね」
母さんが、陽平に顔を向けて言った。声が揺れた気がするけど、きっと思い違いだ。
「あなたが慎也と友達になってくれたから、山本くんと土屋くんとも仲良くなれたって聞いたから」
間違いなく、母さんの声は揺れていた。しかも、限界を迎えたらしく、小さくしゃくり上げるのが聞こえてきた。
陽平が、真顔で母さんを見た。頬張っていたご飯を急いで飲み込むと、
「そうなんですけど、違うんです。俺、本当は……」
「わー!」
つい大きな声を出して、邪魔をしてしまった。陽平、何を言おうとしているんだ。やめろ。口から出掛かったが、何とか飲み込んだ。
俺の心を読んだのか、陽平は俺に向かってニカッとした。また、からかわれているようだ。俺は溜息を吐いて、
「陽平。頼むから、悪ノリしないでくれよ」
「何のことだ?」
涼しい顔で、しらばっくれる陽平に、言い返す言葉がない。俺は首を振り、
「いや。何でもない」
そう言うしかなかった。陽平は、ハハッと笑って、
「お母さん。本当においしいです。俺、慎也くんと友達になれて、嬉しいです」
「あら……」
泣きながら笑む母さん。胸が痛んだ。
「出来ればもっと……」
俺は陽平を睨んだ。が、陽平は全く気にした様子もなく、笑顔のまま首を傾げた。
「陽平。退場って言うぞ」
「退場?」
「まだ言わないけど、次は言う」
「何でそんなこと言おうとしてるんだ? わかんないな」
わからない? わかるだろ?
「安達くんと慎也、本当に仲良しなのね。よかった」
涙声の母さん。それは、少し違う。仲良しだとは思うけど、陽平はただの仲良しを希望してはいないんだ。それと、俺も。たぶんそうだ。俺は陽平を……。
陽平は箸を置いて、母さんの手を握った。何それ。怖いんだけど。
「俺、本当は、もっともっと慎也くんと親しくなりたいんです」
「陽平!」
まだ自分の気持ちが揺らがないほどしっかりしたものじゃない今、そういうこと言うなよ。でも、言えないから唇を噛みしめる。そんな俺を、山ちゃんが横目で見た。その表情には、同情みたいなものが見て取れた。ありがとう、山ちゃん。いつも優しいよな。
つっちーは、食事の手を止めて、俺を見ていた。つっちーも、やっぱり同情を感じさせる表情が浮かんでいた。本当に、二人にはどれだけ助けられてきたか。陽平、ありがとう。このことには感謝する。でも、母さんに何か余計なことを言おうとしているらしい陽平は困る。
「慎也、どうした?」
「どうしたじゃない。俺をからかうのは、やめてくれよ」
「別に、からかってないんだけどな」
「いや。からかってる」
俺の言葉に、山ちゃんとつっちーがそっと拍手をくれた。同意してくれたようで嬉しい。
「とにかくさ、母さんに余計なこと言うのはやめてくれ」
「余計なことじゃない。わかってくれないのか。残念」
口を尖らせて、すねたような顔をする。そんな陽平を、俺はただ見つめるばかりだった。


