それから一時間くらいして、陽平のスマホに園路さんからメッセージが来た。
「ほら、これ。見て」
陽平が、俺たち三人に画面を見せてくれた。そこには、チーズケーキを目の前にして笑顔の園路さんが写っていた。幸せそうな顔をしている。本当に、チーズケーキが好きらしい。
『おいしかったよ』
それだけ書かれていた。園路さん一人が写真に納まっているということは、撮影したのは翡翠さんだろうか。
「全く、園路は。翡翠さんが撮ってくれるからって、こんな顔になって」
意味深な陽平の発言に、オレは首を傾げた。
「何だ、慎也。わかってないみたいな顔して」
「だって、実際わかってないから。山ちゃんたちは、陽平の言葉の意味、わかる?」
オレが訊くと、つっちーは、「わかんない」と、朗らかに言ったが、山ちゃんはメガネを掛け直しながら、
「想像は出来るけど、教えてって言われると困るな。なあ、陽平。説明してやれよ」
山ちゃんは、陽平を横目で見ながら言った。陽平は、「いいよ」と即答し、
「慎也。誰にも言うなよ。園路は、翡翠さんのことが好きなんだ。翡翠さんも、園路を好きなんだ。以上」
そんなに難しいことを言われたわけではない。でも、頭の中がパニックを起こしていた。それはどういう意味だ? いや、そういう意味だ。
「本当?」
「そうだよ。さっき、見ただろ? 翡翠さんから電話が掛かってきて、嬉しそうにしていた園路を」
「恋愛感情?」
しつこく確認してしまう。陽平は、普通に頷き、
「そう。園路たちは、恋愛してるんだよ。これ以上、質問は受け付けません」
「はい……」
ついプライベートなことを、詮索してしまった。反省。
陽平は、オレの顔を覗き込むようにしてみると、
「園路のことは、もういい。慎也。俺を嫌わないでくれよ」
何だよ、それは。俺は、陽平から目をそらすと、
「嫌いにはなれない」
「マジで?」
「さっきも言ったけど、園路さんと約束したから。陽平を大事にするって」
しかし、この約束って……。今さらだけど、すごい約束をしてしまったものだ。陽平は、俺の髪を撫でると、
「俺も慎也を大事にしたいんだけど」
「そう言われても、どう返事すればいいのか、今はわからないんだ」
こんな混乱状態で、正しい答えなんてわかるはずがない。
「真面目に考えるから……時間をくれよ」
気が付いたら、そんな言葉を口にしていた。陽平は俺を凝視した後、表情を改め、
「わかった。じゃあ、合唱コンクールが終わったら結果を教えてくれ」
「え? もっと時間がほしいんだけど」
「長ければいいってもんじゃないだろ。五月十五日の放課後。慎也の気持ちを訊くからな」
俺はしばらく逡巡した後、「わかったよ」と、小さな声で同意した。山ちゃんは、大きな溜息を吐くと、
「陽平。慎也の気持ちも考えてやれよ」
「考えた結果、こうなったんだよ」
そうだろうか。やっぱり陽平はよくわからない人だ。でも、嫌いにはなれない。俺はどうしたいんだろう。あと半月で、ちゃんと答えを出せるんだろうか。不安しかないが、仕方ない。これも、約束だ。
「慎也。陽平は、相変わらず『陽平』なんだね」
つっちーが、囁き声で言ってきた。本当にそうだ。
「そこが陽平のいいところなのかもしれない」
俺がそう言うと、つっちーは笑顔で頷き、「ま、そうだよね」と、同意してくれた。
すっかり日も暮れて、俺たち三人は安達家を出た。駅まで来て、二人と手を振って別れた。電車に乗って目を閉じると、安達家で起きたことが思い出された。現実だったのか? そう。現実だった。何だか不思議でしょうがない。
家に帰り着くと、母さんが玄関の前に立っていた。俺に気が付くと、そばまで走ってきて、いきなり顔を叩いてきた。こんなことをされるとは思わなくて、口をポカンと開けてしまった。
母さんは俺を抱き締めて、
「心配したじゃない。何の為にスマホを持ってるの? 連絡も出来ない程の何かがあったの? それでも、電話かメッセージしてきて。今、何時だと思ってるの?」
スマホを取り出し時間を見る。まだ夜の七時だけど、そういうことじゃないんだろう。心配させてしまったんだから、謝ろう。
「ごめんなさい」
呟くように言うと、母さんは首を振り、「叩いてごめんね」と、泣きそうな声で言った。
去年は、こんな関わり方は出来なかった。お互いに距離を取ろうとしていた。母さんは、俺の態度に怯えていて、それが余計に俺を苛つかせた。哀しい時間だった。
母さんが離れると俺は、
「陽平の家に行ってた。山本くんと土屋くんも一緒に」
「山本くんと土屋くん? お友達?」
母さんの顔が晴れていく。学校嫌いだった俺が友達の名前を言えば、当然そういう反応になるよな。これも、陽平の靴箱事件のおかげかと思うと、本当に不思議だ。普通、間違えないだろうと思う。でも、そういうことを本気でやらかすのが陽平なんだ。そんな陽平を嫌いになれない。むしろ、好感を持っている。
でも、それは陽平が欲しがっているものとは別の好意だと思う。
半月後、俺はどんな答えを出すんだろう。また混乱し始めた。
「ほら、これ。見て」
陽平が、俺たち三人に画面を見せてくれた。そこには、チーズケーキを目の前にして笑顔の園路さんが写っていた。幸せそうな顔をしている。本当に、チーズケーキが好きらしい。
『おいしかったよ』
それだけ書かれていた。園路さん一人が写真に納まっているということは、撮影したのは翡翠さんだろうか。
「全く、園路は。翡翠さんが撮ってくれるからって、こんな顔になって」
意味深な陽平の発言に、オレは首を傾げた。
「何だ、慎也。わかってないみたいな顔して」
「だって、実際わかってないから。山ちゃんたちは、陽平の言葉の意味、わかる?」
オレが訊くと、つっちーは、「わかんない」と、朗らかに言ったが、山ちゃんはメガネを掛け直しながら、
「想像は出来るけど、教えてって言われると困るな。なあ、陽平。説明してやれよ」
山ちゃんは、陽平を横目で見ながら言った。陽平は、「いいよ」と即答し、
「慎也。誰にも言うなよ。園路は、翡翠さんのことが好きなんだ。翡翠さんも、園路を好きなんだ。以上」
そんなに難しいことを言われたわけではない。でも、頭の中がパニックを起こしていた。それはどういう意味だ? いや、そういう意味だ。
「本当?」
「そうだよ。さっき、見ただろ? 翡翠さんから電話が掛かってきて、嬉しそうにしていた園路を」
「恋愛感情?」
しつこく確認してしまう。陽平は、普通に頷き、
「そう。園路たちは、恋愛してるんだよ。これ以上、質問は受け付けません」
「はい……」
ついプライベートなことを、詮索してしまった。反省。
陽平は、オレの顔を覗き込むようにしてみると、
「園路のことは、もういい。慎也。俺を嫌わないでくれよ」
何だよ、それは。俺は、陽平から目をそらすと、
「嫌いにはなれない」
「マジで?」
「さっきも言ったけど、園路さんと約束したから。陽平を大事にするって」
しかし、この約束って……。今さらだけど、すごい約束をしてしまったものだ。陽平は、俺の髪を撫でると、
「俺も慎也を大事にしたいんだけど」
「そう言われても、どう返事すればいいのか、今はわからないんだ」
こんな混乱状態で、正しい答えなんてわかるはずがない。
「真面目に考えるから……時間をくれよ」
気が付いたら、そんな言葉を口にしていた。陽平は俺を凝視した後、表情を改め、
「わかった。じゃあ、合唱コンクールが終わったら結果を教えてくれ」
「え? もっと時間がほしいんだけど」
「長ければいいってもんじゃないだろ。五月十五日の放課後。慎也の気持ちを訊くからな」
俺はしばらく逡巡した後、「わかったよ」と、小さな声で同意した。山ちゃんは、大きな溜息を吐くと、
「陽平。慎也の気持ちも考えてやれよ」
「考えた結果、こうなったんだよ」
そうだろうか。やっぱり陽平はよくわからない人だ。でも、嫌いにはなれない。俺はどうしたいんだろう。あと半月で、ちゃんと答えを出せるんだろうか。不安しかないが、仕方ない。これも、約束だ。
「慎也。陽平は、相変わらず『陽平』なんだね」
つっちーが、囁き声で言ってきた。本当にそうだ。
「そこが陽平のいいところなのかもしれない」
俺がそう言うと、つっちーは笑顔で頷き、「ま、そうだよね」と、同意してくれた。
すっかり日も暮れて、俺たち三人は安達家を出た。駅まで来て、二人と手を振って別れた。電車に乗って目を閉じると、安達家で起きたことが思い出された。現実だったのか? そう。現実だった。何だか不思議でしょうがない。
家に帰り着くと、母さんが玄関の前に立っていた。俺に気が付くと、そばまで走ってきて、いきなり顔を叩いてきた。こんなことをされるとは思わなくて、口をポカンと開けてしまった。
母さんは俺を抱き締めて、
「心配したじゃない。何の為にスマホを持ってるの? 連絡も出来ない程の何かがあったの? それでも、電話かメッセージしてきて。今、何時だと思ってるの?」
スマホを取り出し時間を見る。まだ夜の七時だけど、そういうことじゃないんだろう。心配させてしまったんだから、謝ろう。
「ごめんなさい」
呟くように言うと、母さんは首を振り、「叩いてごめんね」と、泣きそうな声で言った。
去年は、こんな関わり方は出来なかった。お互いに距離を取ろうとしていた。母さんは、俺の態度に怯えていて、それが余計に俺を苛つかせた。哀しい時間だった。
母さんが離れると俺は、
「陽平の家に行ってた。山本くんと土屋くんも一緒に」
「山本くんと土屋くん? お友達?」
母さんの顔が晴れていく。学校嫌いだった俺が友達の名前を言えば、当然そういう反応になるよな。これも、陽平の靴箱事件のおかげかと思うと、本当に不思議だ。普通、間違えないだろうと思う。でも、そういうことを本気でやらかすのが陽平なんだ。そんな陽平を嫌いになれない。むしろ、好感を持っている。
でも、それは陽平が欲しがっているものとは別の好意だと思う。
半月後、俺はどんな答えを出すんだろう。また混乱し始めた。


