俺が宣言すると、陽平が俺を凝視した。それから口元を手で覆うと、「マジで?」と、囁き声で言った。
そこまで深い意味で言ったつもりはなかったけど、そう解釈されても仕方ないことを口走ったのは間違いない。
「僕の陽平を大事にしてやって」
あの園路さんに言われたら、嫌ですとは言えないだろ? わかってくれ、陽平。
陽平は相変わらず目を丸くしていて、俺の発言に動揺している様子が伺えた。山ちゃんとつっちーをそっと見てみると、陽平と同じような顔つきになっていた。
その時、着信音が鳴り出した。俺のではない。誰のだろうと思ったら、園路さんのものだった。そう言えば、陽平と一緒に聴いたあの曲が着信音だ。園路さんは、ハッとしたような表情になり、「園路です」と言った。
「今? 家にいるよ。疲れちゃって、弟に癒やしてもらってたんだ。え? 僕の好きなチーズケーキ買ってくれたの? 今から翡翠くんのとこに行けばいい? すぐに行く。一人で食べたら怒るからね」
悪いと思いながら、つい吹き出してしまった。山ちゃんとつっちーは、俯いていた。笑いを堪えているんだろうか。園路さん、ギャップがありすぎて、やっぱり可愛い。つい、そんな風に思ってしまう。
通話を切ると園路さんは、陽平をギュッと抱き締めた。
「行ってくるね。翡翠くんが待ってるんだ」
「違うだろ? 待ってろって、暗に言ってたじゃん」
「そんなこと、言わなかったけどな」
口元に笑みを浮かべた園路さんは、動画の中の、かっこいいあの人の表情だ。それを見て俺は、ドキッとしてしまう。いや。普通にこういう反応すると思う。何しろ、別世界みたいな人なんだから。
「じゃあ、またね」
「あんまり家を空けてると、親が心配するけど?」
「陽平は? 心配してくれないの?」
何だ、それは。園路さんは本当に、陽平が大好きなんだなと思わされた。
「心配? しないよ。だって、ここにいなければ、隣に翡翠さんがいるんだろ? 心配したってしょうがない。翡翠さんのそばが、一番安全なんだから」
意味がよくわからないが、そう言われた園路さんは、
「ま、そうだね。じゃ、行くよ」
陽平から離れると、防音室の重いドアを開けて出ていってしまった。四人だけになると、今起こっていたことが全て空想の世界での出来事だったんじゃないかと思えてきた。だって、動画の中にいた人が、俺の目の前にいたなんて、あり得ない。
夢から覚めたような気持ちになって陽平を見ると、ぼんやりとした顔でドアの方を見ていた。
「陽平?」
「今度はいつ会えるかな」
独り言みたいに、呟いた。それで、さっきまでのことは現実だったんだと認識出来た。陽平は、お兄さんが大好きなんだな。そんな寂しそうにされたら、さっきの園路さんみたいに、頭を撫でたくなるじゃないか。
「陽平。あのさ……」
俺は手を伸ばしていって、陽平の髪に触れた。サラサラとして柔らかい。シャンプーは、何を使ってるんだろう。そんなことを考えてしまった。いや、ダメだ。そんなことを考えている場合じゃない。俺は陽平を慰めたいんだ。
俺は、今度こそ陽平の頭を優しく撫でた。こんなことしたの、初めてかもしれない。何で俺は、こんな優しい気持ちになってるんだろう。だって、あんまりにも陽平が寂しそうに見えたから、こうしないではいられなかったんだ。
「慎也……」
「園路さんと約束したから。陽平を大事にするって。だから……」
何だか言い訳がましいけど、確かに約束したんだから間違ってないはず。そう思った時だった。陽平の両腕が、俺の背中に回ってきた。
「よ……陽平?」
「優しいんだな。俺、相手にされてなくても、慎也が好きだからな」
また告白されてしまった。しかも、せつなげな声で。鼓動が速くなり、体に力が入ってしまう。でも、こうされているのは、嫌じゃない。そう。嫌じゃないんだ。これは、どういう気持ちなんだろう。
「慎也が園路を好きになったとしても」
「違うってば」
「園路は、人を惹きつける。園路は昔からそうだから」
陽平は、園路さんに好きな人を奪われたって言ってたな。人を惹きつける。それはわかるけど、この世の全員が園路さんだけを好きになるわけじゃないのに。
オレは陽平の腕から逃れて距離を取ると、
「バカだな。陽平、コンプレックスの塊なんだね。いつもヘラヘラしてるくせに」
それは関係なかったかもしれないけど、あの飄々としているところが、陽平のよさなのに。こうやって、ちょっと困ってる寂しげな陽平もいいけど。
いいけど、って何だろう。俺は、自分の感情がわからない。モヤモヤするって、こういう状態を言うのだろうか。何だかすっきりしない、この混乱状態。
「ヘラヘラしてる俺の方がいいか?」
「陽平は、ヘラヘラしてなきゃ」
また、わけのわからないことを言ってしまった。陽平は、フッと息を吐き出すと、
「わかったよ。なるべく、ヘラヘラしとく」
俺たちのやりとりをそばで聞いていた山ちゃんとつっちーが、ほとんど同時に吹き出した。
そこまで深い意味で言ったつもりはなかったけど、そう解釈されても仕方ないことを口走ったのは間違いない。
「僕の陽平を大事にしてやって」
あの園路さんに言われたら、嫌ですとは言えないだろ? わかってくれ、陽平。
陽平は相変わらず目を丸くしていて、俺の発言に動揺している様子が伺えた。山ちゃんとつっちーをそっと見てみると、陽平と同じような顔つきになっていた。
その時、着信音が鳴り出した。俺のではない。誰のだろうと思ったら、園路さんのものだった。そう言えば、陽平と一緒に聴いたあの曲が着信音だ。園路さんは、ハッとしたような表情になり、「園路です」と言った。
「今? 家にいるよ。疲れちゃって、弟に癒やしてもらってたんだ。え? 僕の好きなチーズケーキ買ってくれたの? 今から翡翠くんのとこに行けばいい? すぐに行く。一人で食べたら怒るからね」
悪いと思いながら、つい吹き出してしまった。山ちゃんとつっちーは、俯いていた。笑いを堪えているんだろうか。園路さん、ギャップがありすぎて、やっぱり可愛い。つい、そんな風に思ってしまう。
通話を切ると園路さんは、陽平をギュッと抱き締めた。
「行ってくるね。翡翠くんが待ってるんだ」
「違うだろ? 待ってろって、暗に言ってたじゃん」
「そんなこと、言わなかったけどな」
口元に笑みを浮かべた園路さんは、動画の中の、かっこいいあの人の表情だ。それを見て俺は、ドキッとしてしまう。いや。普通にこういう反応すると思う。何しろ、別世界みたいな人なんだから。
「じゃあ、またね」
「あんまり家を空けてると、親が心配するけど?」
「陽平は? 心配してくれないの?」
何だ、それは。園路さんは本当に、陽平が大好きなんだなと思わされた。
「心配? しないよ。だって、ここにいなければ、隣に翡翠さんがいるんだろ? 心配したってしょうがない。翡翠さんのそばが、一番安全なんだから」
意味がよくわからないが、そう言われた園路さんは、
「ま、そうだね。じゃ、行くよ」
陽平から離れると、防音室の重いドアを開けて出ていってしまった。四人だけになると、今起こっていたことが全て空想の世界での出来事だったんじゃないかと思えてきた。だって、動画の中にいた人が、俺の目の前にいたなんて、あり得ない。
夢から覚めたような気持ちになって陽平を見ると、ぼんやりとした顔でドアの方を見ていた。
「陽平?」
「今度はいつ会えるかな」
独り言みたいに、呟いた。それで、さっきまでのことは現実だったんだと認識出来た。陽平は、お兄さんが大好きなんだな。そんな寂しそうにされたら、さっきの園路さんみたいに、頭を撫でたくなるじゃないか。
「陽平。あのさ……」
俺は手を伸ばしていって、陽平の髪に触れた。サラサラとして柔らかい。シャンプーは、何を使ってるんだろう。そんなことを考えてしまった。いや、ダメだ。そんなことを考えている場合じゃない。俺は陽平を慰めたいんだ。
俺は、今度こそ陽平の頭を優しく撫でた。こんなことしたの、初めてかもしれない。何で俺は、こんな優しい気持ちになってるんだろう。だって、あんまりにも陽平が寂しそうに見えたから、こうしないではいられなかったんだ。
「慎也……」
「園路さんと約束したから。陽平を大事にするって。だから……」
何だか言い訳がましいけど、確かに約束したんだから間違ってないはず。そう思った時だった。陽平の両腕が、俺の背中に回ってきた。
「よ……陽平?」
「優しいんだな。俺、相手にされてなくても、慎也が好きだからな」
また告白されてしまった。しかも、せつなげな声で。鼓動が速くなり、体に力が入ってしまう。でも、こうされているのは、嫌じゃない。そう。嫌じゃないんだ。これは、どういう気持ちなんだろう。
「慎也が園路を好きになったとしても」
「違うってば」
「園路は、人を惹きつける。園路は昔からそうだから」
陽平は、園路さんに好きな人を奪われたって言ってたな。人を惹きつける。それはわかるけど、この世の全員が園路さんだけを好きになるわけじゃないのに。
オレは陽平の腕から逃れて距離を取ると、
「バカだな。陽平、コンプレックスの塊なんだね。いつもヘラヘラしてるくせに」
それは関係なかったかもしれないけど、あの飄々としているところが、陽平のよさなのに。こうやって、ちょっと困ってる寂しげな陽平もいいけど。
いいけど、って何だろう。俺は、自分の感情がわからない。モヤモヤするって、こういう状態を言うのだろうか。何だかすっきりしない、この混乱状態。
「ヘラヘラしてる俺の方がいいか?」
「陽平は、ヘラヘラしてなきゃ」
また、わけのわからないことを言ってしまった。陽平は、フッと息を吐き出すと、
「わかったよ。なるべく、ヘラヘラしとく」
俺たちのやりとりをそばで聞いていた山ちゃんとつっちーが、ほとんど同時に吹き出した。


