俺たちの横を通って昇降口を入っていく人たちが、俺たちを横目で見ていく。それはそうだ。入り口を陣取って、邪魔だし、何やってんだよって思う。それが普通だ。
俺は目を伏せた後、思い切って顔を上げ、挙手した。すかさず山ちゃんが、「はい、慎也」と指名する。それは、ドーナツ屋での一件を思い出させた。俺たち、あそこから始まったんだった。随分前のことみたいだけど、せいぜい半月くらいしか経っていない。それが何だか不思議な気がした。
「ここ、人が出入りする場所だから、移動しようよ。話は、ここじゃなくたって出来るだろ?」
俺の提案に、つっちーは、「賛成」と挙手した。山ちゃんも頷き、「もっともだ」と同意してくれた。そして、三人の視線が陽平に集まった。陽平は俺たちを順番に見ると、
「何だよ。俺が反対すると思ってるのか。よし。場所を変えよう」
昇降口を入っていき、また俺の靴箱を開ける。これは、嫌がらせか? それ、何回やる気なんだ?
俺は、「陽平!」と、でかい声で陽平の動きを制止した。陽平は振り向き、ニカッと笑った。
「怒れば、名前呼んでくれるかと思ってさ」
陽平の思う壺かと思うと、腹が立ってきた。
「陽平。何なんだよ。だいたい、どうしてピアノが弾けないフリなんかするんだよ。俺が下手なの知ってて教えてって言うとか、どういうことなんだよ。言えよ」
「慎也が自信を失くしてそうだったから。伴奏者を決める時、真剣な顔で首を振ってた。あれを見て、このトラウマを何とかしてやりたいって思ったんだ。俺に教えて、俺が上手くなっていけば自信が回復する。そういう筋書きだったんだよ。失敗したけど」
確かに俺は、トラウマと言ってもいいような体験はした。言ってることは途中までは合ってる。でも、違うだろ。
「後で、陽平が実はピアノが上手いんだって知ったら俺はどんな気持ちになると思うんだ? っていうか、今の俺がどんな気持ちか考えてみろ」
黙る陽平。溜息を盛大に吐き出す、つっちーと山ちゃん。山ちゃんは、陽平の肩を叩くと、
「陽平。おまえが悪い。何、その計画。陽平は、よかれと思ってやろうとしたかもしれないけど、慎也からしたら、バカにされたって感じるだろ? 違うか?」
俺は山ちゃんに拍手を贈った。そうだ、山ちゃん。俺の気持ちを代弁してくれて、ありがとう!
「もう一つ、理由がある。むしろ、そっちが大事だ」
人を傷つけておいて、まだ何か言うつもりらしい。陽平は視線を落としてから上目遣いで俺を見ると、
「慎也と二人の時間を過ごしたかったんだ」
「は?」
それはどういう意味だろう。山ちゃんとつっちーも、眉を寄せて首を傾げている。何だか怖いことを言われそう。そんな予感がしていたけど、訊くしかなかった。
「陽平。俺と二人の時間を過ごしたかったって……どういう……」
俺が訊くと、陽平は鼻の下を指で擦りながら、
「言葉の通りだよ。二人きりになりたかったんだ。何でかって訊くなよ? そこは、察してくれ」
「ごめん。察したくない」
「え? 察したくない? 嘘だろ?」
陽平が、目を見開いて、声を裏返しながら訊いてきた。嘘じゃないし。それって、そういうこと? 俺、どうすればいいんだ?
「慎也。俺のこと、嫌いなのか? 実は、嫌ってたのか?」
何だか、必死の形相をしている気がする。それって、やっぱりそういうことなのか?
「嫌ってはいない。でも……」
「好きなんだな?」
すごい勢いで言う。両肩を掴まれて、そんなことを言われている俺は、どう答えたらいいんだろう。ここで間違えたら、今よりさらにこじれそうだ。俺は山ちゃんに視線を送った。山ちゃんは頷き、陽平を見た。
「陽平。いい加減にしろ。気持ちは、押し付けるものじゃないだろ? 慎也がおまえを好きって言ったとしても、それは友情だ。おまえが求めている感情とは違う。そうやって、慎也を追い詰めてるって、わかんないかな?」
山ちゃん、かっこよすぎだ。どうして理路整然として、説得出来るんだろう。俺は、こういう場面ではオタオタしてしまう。山ちゃんみたいになりたい。
つっちーは、山ちゃんの横で、笑顔で拍手している。
「陽平ってさ、突っ走るんだよね。もう少し、人のことも考えた方がいいと思うよ」
つっちーも援護してくれる。この二人と友人になれて、俺は幸せ者だ、と強く思った。陽平は、オレたちを見ながら、
「俺、悪者?」
眉をひそめて言う陽平が、少し可哀想になってきた。でも、ダメだ。同情で陽平の言葉に従うことなんか出来ないし、しちゃダメだ。それはそれで、失礼すぎる。
「陽平。俺、陽平のことは好きだけど、陽平が求めているものは与えられない。ごめん。無理」
「無理……」
「そう。無理」
俺が繰り返しそう言うと、陽平の肩が落ちた。
「俺はさ。初めて慎也を見てからずっと……」
「や……やめてよ。恥ずかしいから」
まだ言うつもりか。どうすればやめてくれるんだろう。
「好きなのに……」
そんな、せつなげな目で見られても困る。俺は陽平の目をしっかりと見つめながら、
「無理」
もう一度伝えた。
俺は目を伏せた後、思い切って顔を上げ、挙手した。すかさず山ちゃんが、「はい、慎也」と指名する。それは、ドーナツ屋での一件を思い出させた。俺たち、あそこから始まったんだった。随分前のことみたいだけど、せいぜい半月くらいしか経っていない。それが何だか不思議な気がした。
「ここ、人が出入りする場所だから、移動しようよ。話は、ここじゃなくたって出来るだろ?」
俺の提案に、つっちーは、「賛成」と挙手した。山ちゃんも頷き、「もっともだ」と同意してくれた。そして、三人の視線が陽平に集まった。陽平は俺たちを順番に見ると、
「何だよ。俺が反対すると思ってるのか。よし。場所を変えよう」
昇降口を入っていき、また俺の靴箱を開ける。これは、嫌がらせか? それ、何回やる気なんだ?
俺は、「陽平!」と、でかい声で陽平の動きを制止した。陽平は振り向き、ニカッと笑った。
「怒れば、名前呼んでくれるかと思ってさ」
陽平の思う壺かと思うと、腹が立ってきた。
「陽平。何なんだよ。だいたい、どうしてピアノが弾けないフリなんかするんだよ。俺が下手なの知ってて教えてって言うとか、どういうことなんだよ。言えよ」
「慎也が自信を失くしてそうだったから。伴奏者を決める時、真剣な顔で首を振ってた。あれを見て、このトラウマを何とかしてやりたいって思ったんだ。俺に教えて、俺が上手くなっていけば自信が回復する。そういう筋書きだったんだよ。失敗したけど」
確かに俺は、トラウマと言ってもいいような体験はした。言ってることは途中までは合ってる。でも、違うだろ。
「後で、陽平が実はピアノが上手いんだって知ったら俺はどんな気持ちになると思うんだ? っていうか、今の俺がどんな気持ちか考えてみろ」
黙る陽平。溜息を盛大に吐き出す、つっちーと山ちゃん。山ちゃんは、陽平の肩を叩くと、
「陽平。おまえが悪い。何、その計画。陽平は、よかれと思ってやろうとしたかもしれないけど、慎也からしたら、バカにされたって感じるだろ? 違うか?」
俺は山ちゃんに拍手を贈った。そうだ、山ちゃん。俺の気持ちを代弁してくれて、ありがとう!
「もう一つ、理由がある。むしろ、そっちが大事だ」
人を傷つけておいて、まだ何か言うつもりらしい。陽平は視線を落としてから上目遣いで俺を見ると、
「慎也と二人の時間を過ごしたかったんだ」
「は?」
それはどういう意味だろう。山ちゃんとつっちーも、眉を寄せて首を傾げている。何だか怖いことを言われそう。そんな予感がしていたけど、訊くしかなかった。
「陽平。俺と二人の時間を過ごしたかったって……どういう……」
俺が訊くと、陽平は鼻の下を指で擦りながら、
「言葉の通りだよ。二人きりになりたかったんだ。何でかって訊くなよ? そこは、察してくれ」
「ごめん。察したくない」
「え? 察したくない? 嘘だろ?」
陽平が、目を見開いて、声を裏返しながら訊いてきた。嘘じゃないし。それって、そういうこと? 俺、どうすればいいんだ?
「慎也。俺のこと、嫌いなのか? 実は、嫌ってたのか?」
何だか、必死の形相をしている気がする。それって、やっぱりそういうことなのか?
「嫌ってはいない。でも……」
「好きなんだな?」
すごい勢いで言う。両肩を掴まれて、そんなことを言われている俺は、どう答えたらいいんだろう。ここで間違えたら、今よりさらにこじれそうだ。俺は山ちゃんに視線を送った。山ちゃんは頷き、陽平を見た。
「陽平。いい加減にしろ。気持ちは、押し付けるものじゃないだろ? 慎也がおまえを好きって言ったとしても、それは友情だ。おまえが求めている感情とは違う。そうやって、慎也を追い詰めてるって、わかんないかな?」
山ちゃん、かっこよすぎだ。どうして理路整然として、説得出来るんだろう。俺は、こういう場面ではオタオタしてしまう。山ちゃんみたいになりたい。
つっちーは、山ちゃんの横で、笑顔で拍手している。
「陽平ってさ、突っ走るんだよね。もう少し、人のことも考えた方がいいと思うよ」
つっちーも援護してくれる。この二人と友人になれて、俺は幸せ者だ、と強く思った。陽平は、オレたちを見ながら、
「俺、悪者?」
眉をひそめて言う陽平が、少し可哀想になってきた。でも、ダメだ。同情で陽平の言葉に従うことなんか出来ないし、しちゃダメだ。それはそれで、失礼すぎる。
「陽平。俺、陽平のことは好きだけど、陽平が求めているものは与えられない。ごめん。無理」
「無理……」
「そう。無理」
俺が繰り返しそう言うと、陽平の肩が落ちた。
「俺はさ。初めて慎也を見てからずっと……」
「や……やめてよ。恥ずかしいから」
まだ言うつもりか。どうすればやめてくれるんだろう。
「好きなのに……」
そんな、せつなげな目で見られても困る。俺は陽平の目をしっかりと見つめながら、
「無理」
もう一度伝えた。


