出るべきか、それとも出ない方がいいのか、わからない。俺を急き立てるように、着信音は鳴り続ける。
いや、出ない。俺は怒ってる。だまされたんだから、当然だ。何で電話に出なきゃいけないんだよ。
心の中でそう呟いて、俺は電源ボタンを押して音を消した。そうしたところで、マナーモードになるだけだから、スマホは振動し続けている。その音も聞きたくなくて、俺は両手を耳に当てた。そうしながらも、目はスマホを見つめている。
早く切れろ。そう思うそばから、切れないでくれと願っている。完全に矛盾している。心臓が速く打って、息が苦しい。
何分くらいしてからか、スマホは振動しなくなった。ようやく切ってくれたと安堵しているのに、どこか寂しいような気持ちにもなる。
スマホの黒い画面を見るともなしに見ていると、通知音が鳴った。驚いて、うっかりスマホを落としそうになってしまった。危なかった。
電源を入れて通知を確認すると、陽平からのメッセージが来ているのがわかった。タップしてから、しなければよかったと後悔した。開いたら、既読がついてしまうじゃないか。が、開いてしまったものは仕方ない。
メッセージを読みながら俺は、手が小刻みに震えていた。
『慎也。ごめん。今、慎也の家の前にいる。話がしたいから、出てきてくれないか? 三十分だけ待たせてくれ。時間になったら帰るよ』
俺は窓際へ行って、カーテンを少しだけ開けて外を見た。塀に寄り掛かるようにして立っている人の姿が目に入った。後ろ向きだけど、陽平だとわかった。俺はすぐにカーテンを閉めて、俯きながらベッドのそばまでノロノロと歩いていった。
そういえば、まだ着替えもしていなかったと思い出し、制服から部屋着に着替えた。ラフな格好になって、ようやく体の力が抜けてきた。
ベッドに横たわると、布団を被って丸くなった。ずっと我慢していたのに、とうとう涙がこぼれ落ちてしまった。
ああ。泣くのもバカバカしい。
そう思ってみても、状況は変わらない。握り締めたスマホが、何かを知らせてくれないかと、よくわからない期待をしていた。どうなれば、俺は納得するんだ?
みっともなく泣き続けていると、通知音がした。慌てて電源を入れると、陽平からのメッセージだった。
『時間になったから帰る。また明日』
帰るのかよ。待て。
俺はベッドを出ると、窓際へ急いだ。カーテンの隙間から外を見ると、さっき塀に寄り掛かるようにして立っていた人が駅の方に向かって歩き出しているのが見えた。
今すぐに追いかければ、追いつける。でも、それでいいのか? 俺をだましたんだぞ? 許せるのか?
許せない。それが俺の答えだ。俺はカーテンをギュッと握り締めて、体を震わせていた。
靴箱を間違えられて、しかも俺の靴をはいて帰ろうとしていた陽平。ドーナツ屋に連れて行かれて、そこで山ちゃんとつっちーと友人になった。陽平は、親友になった。
あのおかしなことがなければ、俺は今も一人で日々を過ごしていただろう。合唱コンクールで指揮者をするなんてことにもならなかっただろう。
どっちがよかったんだ?
自分に問いかけても、答えは出ない。ただ、陽平とこんな哀しい関係になっている現実は、やりきれない。
陽平はどうして、俺をだましたりしたんだろう? そんなことをする必要が、どこにあるって言うんだろう? 話を聞いた方がよかったかもしれない、と後悔する俺と、聞いてやる必要なんかないと言う俺がいる。頭は混乱していて、心は全く落ち着かない。
窓際から離れて椅子に座ると、俺は机に突っ伏した。両手を強く握り締めて、声が出そうになるのを我慢していた。
それから随分経ってから、夕食に呼ばれた。感情がグチャグチャで、刺激があったら変な声を出して泣き出しそうだ。
食事の席に着くと、俺は「いただきます」と小さな声で言ってから食べ始めた。せっかく作ってくれた母さんの料理の味がわからない。ただ、機械的に食べ物を口に運んでいるだけだった。
母さんも席に着くと、俺の顔を覗き込むようにして見て、
「慎也。大丈夫?」
「何が?」
去年の俺みたいな冷たい声が出てしまった。母さんが、息を呑んだのがわかった。またやってしまったと思ったところで、どうにもならない。
母さんは、「ごめんね」と囁き声で言うと、下を向いて食事を始めた。食事中、お互いに何も言葉を交わさなかった。何があったか、話したら楽になれるんだろうか。でも、出来ない。それが俺なんだ。何て嫌なガキだろう。
静まり返った食卓。あと少しで食べ終わるという時になって、父さんが帰ってきた。部屋に入ってくると、「ただいま」と笑顔で言った。俺は目をそらして、「おかえり」と低く言った。感じ悪すぎる。
「慎也、どうした? 昨日は楽しそうだったって母さんから聞いてたけど……」
確かに、昨日は楽しかった。ピアノ教えなきゃって必死になってて、その後で一緒に『ブラティー』の動画を観て、一緒に食事して。
それがどうしてこうなったのか。俺は父さんに何て答えたらいいのか、全くわからなかった。
いや、出ない。俺は怒ってる。だまされたんだから、当然だ。何で電話に出なきゃいけないんだよ。
心の中でそう呟いて、俺は電源ボタンを押して音を消した。そうしたところで、マナーモードになるだけだから、スマホは振動し続けている。その音も聞きたくなくて、俺は両手を耳に当てた。そうしながらも、目はスマホを見つめている。
早く切れろ。そう思うそばから、切れないでくれと願っている。完全に矛盾している。心臓が速く打って、息が苦しい。
何分くらいしてからか、スマホは振動しなくなった。ようやく切ってくれたと安堵しているのに、どこか寂しいような気持ちにもなる。
スマホの黒い画面を見るともなしに見ていると、通知音が鳴った。驚いて、うっかりスマホを落としそうになってしまった。危なかった。
電源を入れて通知を確認すると、陽平からのメッセージが来ているのがわかった。タップしてから、しなければよかったと後悔した。開いたら、既読がついてしまうじゃないか。が、開いてしまったものは仕方ない。
メッセージを読みながら俺は、手が小刻みに震えていた。
『慎也。ごめん。今、慎也の家の前にいる。話がしたいから、出てきてくれないか? 三十分だけ待たせてくれ。時間になったら帰るよ』
俺は窓際へ行って、カーテンを少しだけ開けて外を見た。塀に寄り掛かるようにして立っている人の姿が目に入った。後ろ向きだけど、陽平だとわかった。俺はすぐにカーテンを閉めて、俯きながらベッドのそばまでノロノロと歩いていった。
そういえば、まだ着替えもしていなかったと思い出し、制服から部屋着に着替えた。ラフな格好になって、ようやく体の力が抜けてきた。
ベッドに横たわると、布団を被って丸くなった。ずっと我慢していたのに、とうとう涙がこぼれ落ちてしまった。
ああ。泣くのもバカバカしい。
そう思ってみても、状況は変わらない。握り締めたスマホが、何かを知らせてくれないかと、よくわからない期待をしていた。どうなれば、俺は納得するんだ?
みっともなく泣き続けていると、通知音がした。慌てて電源を入れると、陽平からのメッセージだった。
『時間になったから帰る。また明日』
帰るのかよ。待て。
俺はベッドを出ると、窓際へ急いだ。カーテンの隙間から外を見ると、さっき塀に寄り掛かるようにして立っていた人が駅の方に向かって歩き出しているのが見えた。
今すぐに追いかければ、追いつける。でも、それでいいのか? 俺をだましたんだぞ? 許せるのか?
許せない。それが俺の答えだ。俺はカーテンをギュッと握り締めて、体を震わせていた。
靴箱を間違えられて、しかも俺の靴をはいて帰ろうとしていた陽平。ドーナツ屋に連れて行かれて、そこで山ちゃんとつっちーと友人になった。陽平は、親友になった。
あのおかしなことがなければ、俺は今も一人で日々を過ごしていただろう。合唱コンクールで指揮者をするなんてことにもならなかっただろう。
どっちがよかったんだ?
自分に問いかけても、答えは出ない。ただ、陽平とこんな哀しい関係になっている現実は、やりきれない。
陽平はどうして、俺をだましたりしたんだろう? そんなことをする必要が、どこにあるって言うんだろう? 話を聞いた方がよかったかもしれない、と後悔する俺と、聞いてやる必要なんかないと言う俺がいる。頭は混乱していて、心は全く落ち着かない。
窓際から離れて椅子に座ると、俺は机に突っ伏した。両手を強く握り締めて、声が出そうになるのを我慢していた。
それから随分経ってから、夕食に呼ばれた。感情がグチャグチャで、刺激があったら変な声を出して泣き出しそうだ。
食事の席に着くと、俺は「いただきます」と小さな声で言ってから食べ始めた。せっかく作ってくれた母さんの料理の味がわからない。ただ、機械的に食べ物を口に運んでいるだけだった。
母さんも席に着くと、俺の顔を覗き込むようにして見て、
「慎也。大丈夫?」
「何が?」
去年の俺みたいな冷たい声が出てしまった。母さんが、息を呑んだのがわかった。またやってしまったと思ったところで、どうにもならない。
母さんは、「ごめんね」と囁き声で言うと、下を向いて食事を始めた。食事中、お互いに何も言葉を交わさなかった。何があったか、話したら楽になれるんだろうか。でも、出来ない。それが俺なんだ。何て嫌なガキだろう。
静まり返った食卓。あと少しで食べ終わるという時になって、父さんが帰ってきた。部屋に入ってくると、「ただいま」と笑顔で言った。俺は目をそらして、「おかえり」と低く言った。感じ悪すぎる。
「慎也、どうした? 昨日は楽しそうだったって母さんから聞いてたけど……」
確かに、昨日は楽しかった。ピアノ教えなきゃって必死になってて、その後で一緒に『ブラティー』の動画を観て、一緒に食事して。
それがどうしてこうなったのか。俺は父さんに何て答えたらいいのか、全くわからなかった。


